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没落令嬢の悪党賛歌  作者: もちもち物質
第一章:裏世界より
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26話「血を流せば解決するんじゃなくって?」

 

 ごきげんよう。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。

 雷使いを捕らえてきたのはいいものの、奴隷としての制約のせいであと1日の命でしたわ。

 明日の夜までにこの子の主人を引きずり出さないと、折角拾えそうな人材を拾えませんわ!積極的に人殺しできる魔法使い、それも奴隷だなんて、こんないい物件他にありませんわよ!絶対に!捕まえてみせますわーっ!




「……そう。じゃあもういいですわ」

 私はため息を吐いて、パン、と手を打ってみせますわ。というか、聞かせますわ。首輪の向こうで聞いているであろう誰かにね。

「対策は明日考えますわ。それで駄目なら、あなたを解放しますわよ」

「……無様に捕まるような奴隷、戻ってきたところで殺すと思うけどね」

「あらそう。でもいいですわ。今はともかく、その話はもうナシにいたしましょう」

 私は雷使いの傍に屈んで、にっこり笑ってあげましてよ。

「お風呂、入りましょう?このアジト、シャワールームがありますの。湯船もしっかりありましてよ」


「は?風呂……?」

「ええ。お風呂ですわ」

 雷使いはぽかん、としていますわね。まあ、唐突ですものね。

「……まさか使った事ありませんのっ!?あなたのご主人様ってお風呂入りませんの!?お風呂持ってませんの!?不潔か貧乏かどちらかですのッ!?」

「も、持ってるし入ってる!そんな、貧乏とか不潔とか言うな!」

 そういえばこの子、『ご主人様を侮辱しない』っていう制約も掛かってるんでしたわね。都合がよくってよ。この制約を生かして、『否定しないと主人を侮辱することになる状況』を生み出していきますわ!

「でも奴隷達には風呂を使わせないってことでしょう?それってつまり汚い人が身近にいても平気ってことですわね……?不潔ですわ!」

「いや、使った事あるし!風呂くらい知ってるし!」

「そうですの?……まさかあなたのご主人様とやらはあなたとお風呂に一緒に入ってますのッ!?それってつまりあなたのご主人様って性犯罪者じゃありませんこと!?」

「一緒なわけがあるか!主人と奴隷だぞ!?ちゃんとご主人様の後に入る時間を奴隷全員頂いてるから!」

「あ、そうですの……ならいいのですけれど……え?あなたちゃんと入ってますのね?最近は何時入りました?1週間前とか……?」

「昨夜入ったよ!何なんだよ!さっきから!」

「とりあえずあなたの主人の悪口を言ってやりたいだけでしてよーッ!おーっほっほっほっほ!」

 ご安心なさい!これは本心でしてよ!




 ということで雷使いをお風呂に入れようとしたのですが……1人で入ってもらうことにしましたわ。

「はい。これ、薔薇の香油ですわ。景気よく湯船にぶちまけて下さってよくってよ。落ち着きますわ」

 そこで、香油の瓶を渡してみますわ。

「……あっもしかして香油、御存じなかったかしら?それとも薔薇が分からない……?」

「知ってる。ご主人様が使ってるし、薔薇だって庭に生えてるの毎年見てるし」

 あ、そうですの。それは良かったですわ。

 ……ということで。

 本当に言いたい事を、言いますわ。


「いい?シャワーは出しっぱなしで構いませんわ。ケチケチせずにたっぷりお湯をお使いなさいね」

 しっかり、雷使いの目を見つめて、そう言いましたわ。

 瑠璃紺の大きな目が一瞬訝し気に細められて……それから、はっとしたように見開かれましたわね。どうやらちゃんと気づいてもらえたようですわ。

『音を消すためにシャワーは出しっぱなしにしておきなさい』ということにね!




 ということで、シャワーの音がしっかり聞こえてくるようになったら私達4人は部屋の隅に固まって相談ですわ!

「まさか奴隷とは思いませんでしたわね……あと1日で何とかしなければなりませんわね」

 私が最初にそう申し出れば、全員頷いてくれましたわ。全員、心は同じですのよ。ここで魔法使いを拾えれば超お買い得ですもの。この機会、逃がす道理がありませんわ!


 早速、それぞれに方針の発表ですわね。

「……あの雷使いが奴隷だとしたら、当然、持ち主は貴族だろうな。どうやら普通に風呂だの香油だのを使えているらしいところからもそれは分かる」

 そうですの。あの子、お風呂の話しかしてませんけど、そこから分かる事って結構ありましてよ。

 まず、普通に風呂を使っている、ということ。奴隷は複数買っているらしい、ということ。それから庭に薔薇がある、という情報は……まあ、貴族の家の庭って大抵そこら辺の花ありますから、あんまり参考にはなりませんけれど。

 ま、とりあえずこれで『標的は貴族』と確定しましたわね。情報を聞き出せて満足、ですわ!




 さて。では情報が出たところで、いよいよ出方を決めますわよ。

「標的はあいつを護衛として貸し出したのだから、カスターネ家と何らかのつながりがあったはずだ。その線で当たってみたい。どうだ」

「そーね。じゃあ俺がそこらへんで調べてみましょうかね。同時にドランは奴隷商人の方当たってくれる?駄目元だけど、魔法使いの奴隷なんて珍しいから誰かがどこかで何か聞いてるかもしれないし。……ま、1日でどこまで情報辿れるかは分かんないけどね」

 ドランとジョヴァンの出方は決まりましたわね。いいですわ。保険は大事ですわ。

「じゃあ俺は留守番。役に立てそうにねえや」

 賢明ですわね。薬中が情報戦で役に立つとは思えなくてよ。

 ……と、ここまでで3人の出方が決まりましたわ。ドランとジョヴァン、そしてチェスタは私の方に向き直りましたわね。

「ヴァイオリアはどうする?俺と来るか?」

「お嬢さんなら貴族界隈のこと、ある程度知ってるんじゃない?俺と一緒に動く?」

「留守番でもいいと思うぜ。あの雷使いのガキの見張りは多くても問題ねえだろうし」

 それぞれ、理はありますわね。誰と行動しても、それなりに成果は得られるでしょうね。

 ……でも。

 私はその先を行きますわ!


「いえ。私は単独行動でいきますわ」

「何をする気だ?」

「ほら、ここのシャワールームもそうですけれど、貴族街用の水道があるでしょう?」

 ここのシャワーの水は、貴族街専用の水道からちょろまかして得ていますわ。そう。貴族街専用の上水道、ってものがありますのよこの町。

 何せ大きな町ですから、ある程度は水道を分けなければならない……っていう名目で、貴族専用の水道を使って、豊富な水を使いたい放題していますの。勿論、一般市民はこんなに贅沢に水を使えなくってよ。

「貴族用の水道がどうしたって?」

「そこに私の血を流しますわ」




「いやいやいやいや……お嬢さん。貴族を皆殺しにするってのはどうかと思いますがね」

 早速反論ですわね。まあ分かってましたわ。でもこれが最善でしてよ。

「相手が誰なのか分からなくても全員まとめて殺せば大丈夫ですわ!」

「うん、そりゃそうね……」

 だって仕方なくってよ。たった1日だけで、この子の主人を見つけて契約を書き換えるなり、ぶち殺すなりするのはちょっと時間が足りませんわね。

 その点、皆殺しということならその手間全部省けますわ。最高ですわね。


 ……ただ、この作戦、弱点もありますのよ。

「お前の血が足りるか?」

「正直に申し上げますと微妙な線、ですわね」

 そうなのですわ。私の血って、残念ながら有限ですの。

 貴族街用の上水道に血を垂れ流してみたところで、私の体に流れる血だけで、果たしてどれだけの毒性を持たせることができるのか……。皆殺しにできる量を頑張ってひり出すしかありませんけれど!

「何より、使用人が先に水を飲んで死んだら標的も警戒する。目標にまで毒が届かない可能性は大いにあると思うがな」

 更に、そこんとこも問題ですわ。

 貴族って……面倒なことに、使用人を雇っていますのよねえ……。そいつらが先に死んだら、ちょっと貴族殺しどころじゃないかもしれませんわ。


「そうなんですのよねえ……何かいい案、御座いませんこと?つまり、手っ取り早く皆殺しにできる方法ですけど」

「一度皆殺しから離れてもいいんじゃあないのか」

「でも他にやりようがありまして?」

 私の血を上水道に流す、というのは何せ広範囲を一気にヤれますから、とっても都合がよくってよ。確かに毒が足りるか、標的も毒でやられてくれるか、と、心配な点はありますわね。

 でも……ここは急ぐべきところですわ!のんびりなんて、してられませんもの!皆殺しですわ!エルゼマリンの貴族街は明日からゴーストタウンになるんですのよ!




 少し考えて、ドランが手を挙げましたわ。

「殺すのは賛成だ。だが、いくら何でも全員がばらばらに屋敷に籠っているのを殺していくのは効率が悪すぎる。……そこでだ」


「狂言だ。『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアが貴族街の水道に毒を撒いた。貴族街の全員は既に毒に侵されている。解毒剤が必要だ』とでも言って、『解毒剤』の配布をするために貴族を全員集めるぞ」


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― 新着の感想 ―
[一言] それで集めた所で皆○ろしですね!
[一言] みーなごろし! みーなごろし!! 貴族はぜーんぶみーなーごーろし!! 魔法使える奴隷ちゃん解放のためにようやるわ…(笑)
[一言] ドランって頭いいキャラだったんですね
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