18話「バレたので開き直りますわよ」
ごきげんよう。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。
バレましたわ。見事にバレましたわね。
何がって、私の血の秘密が、でしてよ!
ここから誤魔化すのって、絶対に難しいですわね。まさか食うなと言われたものを食うような奴だとは思いませんでしたわよ。
……まあ、元々隠し通せるとは思っていませんでしたわね。『ヤバい奴ら』に隠し事なんて、できる方がどうかしてますわ。
「どうしてお前の血はそうなった。呪いか?」
「半分当たり、といったところですわね」
ドラゴンの皮を剥ぐ作業の傍ら、種明かし、ということになりましたわね。
種明かしすることの不安が無いわけはありませんわ。ドラン・パルクをはじめとして、こいつら信用できるのか、ちょっと不安なところはありますの。
でも……一歩踏み出す時、ということなのでしょうね。
「……始めは、防衛のためでしたの」
思い出しながら話し始めれば、それは随分と短いことのように思えますわね。
「フォルテシアを良く思わない貴族が多いことは分かっていましたわ。ですから、毒殺されることを防ぐために、私は貴族になってすぐ……幼少の頃から毎日毎日少量ずつ、毒を飲んで耐性をつけていきましたの」
「お前の家は暗殺者の家系か?」
「貴族だっつってますでしょ?……と、まあ、色々な毒に手を出しましたわね。恐らく、あなたより私の方がよく毒を知っていてよ」
フォルテシアの家は商売もやっていましたから、その伝手で流れてきた毒物はほとんど全部試しましたわ。
そのせいで苦しむこともありましたけれど、丁度成長期だった私の体は、見事に毒を受け止めて、強く逞しくなっていったのですわ。
体は毒への強い耐性を得て、そして頭は毒物図鑑を鼻で笑えるくらいの毒物の知識を手に入れましたの。多分私、ヤバい奴ら相手に毒物商人をやってもイイ線行くと思いますわ。
「……と、まあ、そうしている間に、私、呪いによって作用する毒にまで手を出し始めましたの」
そして、強くなったならばより高みを目指したくなるものですわね。
あらゆる毒に対応できるべき、ということもあり、私は呪いの毒にも手を出しましたの。
……呪いの毒、というのは、魔法によって働く毒ですわ。『毒魔法』と言われる類のものに近いかしら。要は、本来ならばその薬には無い毒の効果を魔法によって生み出しているもの、ということになりますわね。
「ところが丁度その時、私は成長期で……まあ、非常に残念なことに、私の魔力ってそこに大分、割かれてしまったようですの」
「どういうことだ?」
「要は、私の血は魔法毒となり、同時に私はあらゆる毒物を受け付けない能力を手に入れたのですわ」
ドランは唸ると少し考えて……言いましたわ。
「毒物を受け付けない、というのは……酒に酔えない、というのもそれか」
「恐らくはそうでしょうね」
こいつ、よく色々見てますのね。
そうですわ。私が酔えないのも、恐らくはそういうことなのですわ。私の体は滅茶苦茶に強い毒耐性を得て、更に魔力によって毒を防いだり分解したり取り込んで自分の物にしたり、果ては呪いの毒を作り出す作用まで兼ね備えているようですもの。酒で酔えるわけが無いのですわ。
「ま……ですから、私の血に触れると、下手するとあなた達も死にますのよ。ドラゴンもアッサリなのはご存じでしょう?」
「実際に食ってみてよく分かった」
こいつ、私の血についてある程度見当がついていたのに、私の血で仕留めたドラゴン肉を食べた、というわけですわね?ドラゴンコロリを食べる度胸は勇敢というよりは無謀ですわね!
「ですから私、血を流している時には触れられたくないの。皮膚を通して毒が回るかもしれませんし、もしあなたの指先に傷があったならそれだけで殺してしまいかねませんもの」
だから私、うっかりささくれ1つ剥けませんのよ。わずかな血だけでも、どこで誰を殺すことになるか分かりませんもの。
「……そうか」
ドランは何か、ちょっと痛まし気な顔してますけど。でもこの血、そう悪いことばかりではありませんわ!
「まあ、この能力も都合がよくってよ。魔物狩りにはぴったりですし、憎きあん畜生共を皆殺しにするにも最高の手段になりましてよ!」
「そうだな。ドラゴンを一撃で殺せる毒なんて、そうそう存在しないだろう」
矢1本と私の血少しでドラゴン1体殺せるんですもの!最高のコストパフォーマンスでしてよ!おほほほほほ!
そしてしばらくして、お互いにお互いの仕留めたドラゴンの皮を剥いだり牙や爪を取ったりして、それぞれの空間鞄に見事収納した後。
「……1つ、確認しておきたい」
「どうぞ?」
ドランがふと、何とも言えない顔をしましたわ。
「つまりお前は、元々王子を暗殺する気だった、ということだな?」
「……あら」
そこも思い当たるんですのねえ、こいつ。
「殺意はなくってよ」
「……なら、性交渉をした時、相手はどうなる?」
「多分ちんたま腐り落ちて死にますわね」
ドランがちょっと想像したらしく、何とも言えない顔してますわ。私はこれ、想像できませんけど、やっぱり男性にとっては恐ろしいものですのね。
「……つまり、お前はその気だった。違うか?」
「まあ、そう取っていただいてもよくってよ」
「お前の目的は、王家に嫁ぐことで王家との関係を持ち、成金貴族の地位から脱却するためだった、と。調べではそういうことだったが」
「間違いはありませんわよ?けれど、嫁いでしまえばもうこっちのもんですもの」
詳しく言うと品がありませんけどまあ、王子の子供さえいればこっちのもんですし、まあ……最悪の場合でも、どうせ誰の子かなんて分かりっこないですものね。おほほほほ。
「とにかく、お前は王家殺しを目論んでいた。濡れ衣でもなんでもなく、だ。……間違いないな?」
「おほほほほほ!そうですわ!勿論、安物の硝子瓶の毒だのチャチな呪いの腕輪だので殺そうなんてしてませんわよ!あれは完ッ璧に濡れ衣ですわッ!」
そう!腹が立つのはそこでしてよ!
私だったらもっと美しく効率的な殺しができますのに!わざわざ人が馬鹿みたいな殺し方で殺そうとしたなんてくっだらない濡れ衣着せて!そして私が本当に王子を殺そうとしていたことになんて全く気付かないまま濡れ衣着せてムショにぶち込めたと思って大喜びしてるであろうあの貴族連中が!滅茶苦茶腹立ちますのよーッ!
「……そうか」
そこでドランは少し、笑いましたわ。こいつもしかしてこの顔で下ネタ好きなんですの?あ、違いますの?
「お前が貴族だということで警戒していたが、今の話を聞く限り、その心配はなさそうだな」
あら?なんだか風向きがおかしいですわね?
「俺の目的は、この国の崩壊だ。……俺は、王家を皆殺しにしたい」
……成程。
こいつ、正真正銘、ヤバい奴ですわ!
「まあ私も今は似たようなものでしてよ。憎きあん畜生共、皆殺しにしてやりますの」
「そうか。これは朗報だ。すぐ戻ろう」
ドランはにやり、と笑って、さっさと後片付けを始めましたわね。
……ということは、ジョヴァンとチェスタも似たような目的を持っている……ということですわね?
やっぱり私、運がよくってよ!
さて、戻る前にやらねばならないことがありますわね。
そう。
洞窟の中にまだ残してある……ドラゴンの卵!ですわ!
「ヴァイオリア。肉はまだ食うか?」
「ええ。ちょっと待ってくださる?ドラゴンの卵も食べてから出発でもよろしくって?」
うきうきワクワクしながらそう申し出たところ。
「なっ!?卵を食うのか!?」
「食いませんのっ!?」
予想外の反応ですわ!
食べないなら私、一体何のためにこんなに戦ったというの!?
「……卵は売るぞ。貴族の好事家に高く売れる」
「あ、そうですの……」
ま、まあ、そうでしょうね。珍しい魔物はペットとしても人気がありますし……。
でも残念ですわ……。またあの最高の美味を味わえると思いましたのに……残念ですわ……。
……あ。
「きっと、ドラゴンが暴れて割れてしまった卵がありますわ!これなら食べてしまってもよろしいですわねッ!?」
「……そこまでして食いたいか?」
食いたいですわッ!
ということで。
私は無事、ドラゴンの卵料理を食べることができ、満腹かつ大満足で帰路につきましたの。
あ、ちなみにドランも卵料理、食べましたわ。あまりの美味しさに驚いていましたわ。ね?これ食べるともうドラゴンの卵は売り物じゃなくて食べ物にしか思えませんでしょ?ちなみに私にはもうドラゴンは卵も本体も食べ物として認識されていましてよ?
ということでアジトに帰還したのは、とっぷり日も暮れた頃でしたわね。
でもドラゴン肉とドラゴンの卵とですっかり元気になった私達には全く眠気なんて訪れなくってよ!
「只今戻りましたわ!」
……ところが。
「……ジョヴァンはいないのか」
アジトに居たのは、薬か酒をキメたらしくぐったりソファに沈没しているチェスタだけですわね。
「特に書置きは無い、か……店に行っていたにしても、俺達が戻る頃には戻っていると思ったが」
「チェスタ。あなた何か言付かってませんこと?」
とりあえずチェスタを起こしてみることにしますわ。
すると。
「……うひゃひゃへひゃ……あーあ、今日も空が丸いよなあ……」
「あっ駄目ですわこいつイっちゃってますわ」
チェスタは駄目でしたわ。今に始まったことじゃないので落胆する気持ちにもなりませんけど。
さて、ジョヴァンの所在が分からないというのも何となく不安ですわ。特に彼、『嫌な予感がする』なんて言ってたばかりですし。
……と、思っていたのですけど。
「あー……ただいま」
「おかえりなさえあああああああああ!?」
「すまんがシャワールーム、使うぜ」
帰ってきたジョヴァンは、頭ッからガッツリ血に染まってましたのよ!




