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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

終へのかたまり

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 はあ~、今年ももうこたつを出していいころだよねえ。いやはや、寒さが極端すぎるって。

 ちょっと前までは暑さにぶうぶう文句言っていたのが、今は寒さに文句を垂れる始末……人間が恒温動物であるから、試練が与えられているのかな?

 体温を一定に保とうと努力する。このために僕たちはかなり力を入れているけれど、身体もまた必死に体温をキープしようとしている。

 暑かったら汗をかき、寒かったら身体をふるわせ脂肪を燃やして熱を産む。その非常時に備えて、ややもすれば身体へエネルギーを蓄えようとするのが、太る一因とされているね。

 歳をとると太りやすくなるのも、代謝が悪くなることがでかいようだけど、もしかしたら衰える身体をカバーできるよう、多めにエネルギーを蓄えていたりするのかも。

 ふふ、加齢によってだらしなくなっていくことの正当化、と思うかい? けれど、僕にはおじいちゃんから聞いた話があって、それが関係しているんだよ。

 ちょっと聞いてみないかい?


 僕の父さんたちがひとり立ちし始め、家はおじいちゃんとおばあちゃんの二人で過ごす時間が増えた、ある日のこと。

 その日は相当暑かったようで、外から帰ってきたおじいちゃんがシャワーをざっと浴びて体重計に乗ってみると、目が飛び出るような値が出たらしい。

 健康に気を配らないといけない歳でもあるからと、若いころよりも頻繁に体重計に乗るようにはしていた。日々の小さな体重の変化も記憶している。

 それが今日は一気に10キロも増加していたんだ。ただでさえ食は細くなり気味なんだ。必要以上のエネルギーをとった結果とは考えづらい。そもそも一日で10キロも太らされるなんて食以上に、重りでもつけられなければまず無理だろう。

 何度か乗りなおしてみても、結果は同じ。これはまずい病気なのかもしれない、と思い始めたおじいちゃんだけど、数時間後に測り直してみると、いつも通りの体重に戻っている。

 やはりこちらも同じで、何度乗りなおしてみても同じくらいの値をさしたのだそうだ。


 おじいちゃん自身、首をひねっていたところにおばあちゃんから声がかかる。

 時間的に洗濯物を取り込む頃合いだった。そのためにおばあちゃんが外へ出ていたようだけど、物干し竿の用意をしている庭の一角に妙なものがあった。

 それは漬物石を思わせるような形をしていたけれど、その色は肌色に近い。鼻を近づけてみると、ツンとした刺激臭がほのかに漂ってくるものだったとか。

 問題はこれが、前触れもなく現れたこと。少なくともおじいちゃんが外から帰ってきた段階では存在していなかったんだ。

 さすがに誰かが持ち込んだのであれば気づく。おじいちゃんもおばあちゃんも、庭の土いじりはよくする方だった。おじいちゃんが出かけている間も、おばあちゃんは土いじりをしていたし、帰ってきてからもしばらくは続けていたそうだ。もし誰かがここまで来たなら、気づく。

 落ちて来たりした風でもない。突然に現れたんだ。

 様子を探ろうと、おじいちゃんは長い木の枝でもってその塊をつついてみる。

 表面は思いのほか柔らかかった。枝はたいした抵抗もなくうずまっていき、中ほどまで差し入れたところで、ややたわむ気配。

 これ以上やると、折れてしまう。察したおじいちゃんが枝を引き抜き、そばにいたおばあちゃんと一緒に確かめてみたそうだ。


 中央からおじいちゃんの手元あたりまでの枝は、黄土色をしている。しかし、かたまりの中へ入れた先端よりの部分は、真っ黒になっていた。

 単に黒い液体に濡れていたばかりじゃない。枝のところどころで細かくうごめく、黒く小さな虫たちの姿を、おじいちゃんたちは認めたんだ。

 田舎暮らしかつ土いじりになじみがあるとなれば、ちょいとサイズが大きかったり、妙な動向をしたりする虫たちとはお友達だ。この程度では、二人をビビらせるには至らなかった。

 だが、二人してこのような塊および虫らしきものの存在に思い当たるところがなく、首をかしげるばかり。ひとまず枝であけた小さい穴には土を塗り付けて栓をしておき、このまま放置しておくのも嫌なので、生ごみなどを捨てている畑の穴に、そのかたまりを突っ込んだのだそうだ。

 かたまりそのものは、一晩もすると生ごみたちのうえへ自らの香りばかりを残し、すっかり消えてしまったらしい。あの妙な虫もどきたちも一緒にだ。


 けれど、その一回で終わりではなく、かたまりは何度もあらわれたそうだ。それもおじいちゃんの体重の異様な変動が確認された、直後にばかり。

 お医者さんでも、正体をつかむことはできなかったみたい。でも、体重の変化も例のかたまりも見られなくなってほどなく、おじいちゃんは亡くなっちゃったんだ。

 もしかしたらおじいちゃんの身体が、ちょっとでも長く生きようとするために、ああいう形で身体の中の悪いものを、まとめて外へおっぽり出し続けていたんじゃないかと思っちゃうんだよ。

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