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異世界人にとって俺のレゾンデートルは?  作者: 遊司籠
第三章 動き出す歯車編
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第3話 任務開始

 今回の任務の目的地、帝国の転移者達が発見されたというメニア村近辺に向かう道中カナリア隊長から簡単に作戦を伝えられる。

 まぁ、作戦と銘打ってはいるが話を聞く限りでは簡単な内容だった。

 まず3班に別れ転移者と思われる集団を捕捉、包囲後に捕獲。もし盗賊なら我がホーネスト王国から派遣された冒険者を返り討ちに出来る実力が有るものとして今後の脅威になる前に今回の任務参加者全員で討伐と命令を受けた。

 現場に着き次第カイトが目標を捕捉する手筈になっている……何でもカイトは視る事に特化した(・・・・・・・・)スキル持ちらしく周りから『千里眼』と呼ばれているそうだ。

 『千里眼』この場合、見通せる距離を比喩しているんじゃないらしいが……スキルの内容が開示されていない為、彼の正式な能力の詳細は俺には分からないが今回の作戦の主軸と言っても過言ではないらしい。

 俺とテレサはエレナ隊長に付いて作戦のサポートするようカナリア隊長から言われた。

 他番隊との連携を組んでの任務自体、俺は初めての事だから慣れた部隊での行動の方が何かと失敗も少ないだろうとの配慮だそうだ。

 まぁ、いきなり知らない人と行動を共にして連携を取る方が無理な話だろう。

 車に揺られる事、数時間……目的地が近づいて来たのか車内に張り詰めた空気が漂い始める。

 俺は先程までにない緊張感で少し息苦しさを感じている。


「緊張し過ぎだ、適度に力を抜いた方がいい」


 皆の雰囲気に呑まれそうになっていた俺に、前席に座るエレナ隊長が声を掛けてくれた。

 自分では気付けなかったが身体に力が入って強張っていたようだ……数回深呼吸をして身体から適度に力を抜く様に努める。

 初めての他番隊連携任務、下手な事が出来ない。そう考えている為、身体に変に力が入ってしまうのかな? 俺は他隊員達は緊張とかしないのかと目線を巡らしてみる。

 各番隊の隊長、または隊員達は張り詰めた雰囲気だが俺みたいに変に気張って無く自然体のままだった。

 きっと俺には想像が付かないほど場数を踏んでいるのだろう、任務前なのに変に気張る事無く自然体……程よい緊張感を持った状態なのだから。

 俺が周りを観察している間に目的地に到着したのか車が止まる。

 窓から見えるのは日も傾き夕焼けに染まる広大な森だった。

 王都フィリアロック周辺の森と比べると規模が大きい。奥が見えないが視認出来る範囲だけでも数キロに渡り木々が生えているのが見える。


「今回の目標が一番最初に目撃されたのがメニア村付近だ。次に冒険者が討伐に乗り出し目標と接触したのがメニア村から数キロ離れた森の中と思われ、生存者の証言から第二陣が遭遇したのが、ここ『迷いの森』だ。軍上層部や0番隊の予測だと目標は迷いに森からそれ程移動していない可能性があるとの事。カイト、視て来い」


 停車したバスの中、カナリア隊長は皆に見える位置に立ちカイトに指示を出す。

 カイトは返事も短く、さっさとバスから降りてしまう。

 バスから降りて数分後、カイトは顔だけバスの中に入れ皆に聞こえる様に大声で結果を伝えてくる。


「カナリア隊長、視た結果(・・・・)……今回の目標を捕捉しました。今から行動しても会敵するまで結構な距離がありますが、数はこちらの倍の14名。内包魔力量からして盗賊の線は消え転生者、または転移者の可能性が大! 悪い知らせなんですが、隊長クラスの魔力保持者を4名確認出来ました」


「ほぅ。我ら隊長クラスの魔力量を内包する者が4人も居るとは……。全員下車せよ!!」


 カイトの報告を受け、カナリア隊長は口角を少し持ち上げ不敵な笑みを浮かべ車内に残っていたメンバーに指示を出してくる。

 カナリア隊長を筆頭に車を降りる際、皆が先に下車していたカイトと握手をしている。

 俺も訳が分からないが、皆の行動を真似てカイトと握手をしておく。


「皆カイトと念話のリンクは済ませたな! いざ、ここ迷いの森で班を別け行動を開始すると互いの場所を見失うからな! ()を作るのはカイト、君に任せた。後方より指示を頼む!」


 カナリア隊長の言葉を聞き、皆が取った謎の行動が理解できた。

 ただ握手をしていたのでは無く念話リンクをしていたんだ。知らなかったがカイトと握手しておいて正解だった。

 そして今から作戦行動開始する訳だが、目標を捕獲する為、3班に別れた俺達に目標を捕捉、包囲出来る様にカイトが後方より指示を出す訳だ。


「それにしても目標は何故、迷いの森から移動して無いんでしょうかね?」


 俺はカナリア隊長の指示を聞きながら近くに居たエレナさんに質問を飛ばす。


「……何か探し物(・・・)でもしてるんじゃないのかしら?」


 エレナさんに質問を飛ばしながら彼女の顔を伺うと任務の為かいつも以上に強張った顔付きだった。

 ゴブ郎スカウトの時と比べるとエレナさんが浮かべる表情は俺が初めて見るモノだった。


「満更エレナ隊長が言う事は外れじゃないのかも知れないですよ……。カナリア隊長、森の中を先行する様に移動する魔力反応が2! かなり離れて隊長クラス魔力保持者が4班に別れ、コレに随従している様な動きを見せてます」


 カイトが俺とエレナさんの会話を聞いていたのか話に入りつつカナリア隊長に今回の目標の動きを伝えている。


「先行する魔力反応が2か。斥候の可能性があるな。こちらが人数的に少ない為、敵を包囲いするのが難しい現状。どうするかな……」


 カナリア隊長は森の方へ目線を向けつつ、腕を組みながら何かを考えている素振をみせていたが今後の方針が決まったのか俺達に指示を出してくる。


「……仕方ない。対象となる目標全員捕獲を諦め、隊長クラス魔力保持者を最優先捕獲対象とする。もしかすると帝国の隊長格かも知れんしな。捕まえる事が出来るなら他の者も捕獲して構わない、情報源は多いに越した事は無いからな」


 確かにカナリア隊長の言う通りだ。捕獲対象となる目標はこちらの倍の14名だ、全員捕獲する事は難しいだろうな……。


「俺が視る事が出来たのは14名ですが、ハイド(隠蔽)スキル持ちが居る可能性も有ります! その事を忘れずに!」


 カナリア隊長の言葉にカイトが追加で注意を皆に入れてくる。

 もし仮に隠れている目標が居るのなら、こちらが不意を突かれ全滅する可能性も出てくるんじゃないのだろうか?

 いや、ここでは俺の常識は通用しない。何せ“スキル”という存在があるのだから……。 


「では、作戦開始とする!私とジークが右翼を担当。マーガレット、ラズリアットは左翼から回り込む様に移動開始! エレナ……真正面から斥候に接触、全体の陽動を担当してもらう! 伊達に3番隊(・・・)と名乗ってない事を見せてくれ!!」


 カナリア隊長の言葉を受け、皆が行動を開始し迷いの森の中に足を踏み入れていく。

 俺もエレナさん、テレサの後に続き迷いの森の中に足を踏み入れた。

 やはりフィリアロック周辺の森と違い人が入る事が殆んど無い為か地面には雑草が生い茂っている。

 歩き辛さを感じながらも遅れないように二人に付いていく。


「カナリア隊長も言ってくれるわね。3番隊の面目(・・・・・)は、エレナ隊長の両肩に掛かってますよ。私等は隊長みたいに防御系スキル持ってませんから……」


 森に入るなりテレサの一言にエレナさんは溜め息交じりで返事を返している。

 俺は二人の会話の意味があんまり理解できていない為静かに会話を見守る事にした。


「仕方ない事だわ。陽動として目標を釘付けにする為、攻撃を凌げなければ意味がないでしょ? エルエンジュさんの期待通り直ぐに倒れる訳にはいかないしね」


 ああ、ワザと敵の攻撃を受け注目を集める訳ね……。戦況を掻きまわす陽動では無く目標からの攻撃を一手に受けて目標を足止めする陽動か。

 まさに3番隊の面目が掛かる訳だ。防御に特化した守りの部隊、易々目標からの攻撃で沈む事が許されない。

 テレサの言う通り3番隊の面目はエレナさんのスキルに掛かっているって訳だ。


「すみません、俺も別働隊ですが3番隊の隊員として役に立てなくて」


 俺は前方のエレナさんの背中を見ながら自分が思っている事を伝える。

 俺のシュードスキル『輝星憧憬』の中に防御系スキルは含まれていない。無理矢理だが防御に回せるスキルが有るとしたら『肉体再生』ぐらいなものか。

 それでも元より防御の為のスキルでは無いのだから本場の防御系スキルと比べても“守る”という面では一周りも二周りも劣るだろう。


「気にしないでハル君。貴方(・・)の事もテレサの事も私が守るから」


 後方に居る為エレナさんの表情は見えないが何となく俺達に心配させないような声色だった。


「あなたは死なないもの……。だって私が守るものってヤツですか? 現実で“よく似た言葉”を聞くとは思いませんでしたよ隊長!」


 エレナさんの横に居るテレサから茶々が入るが、テレサもふざけた訳では無く場の雰囲気を和ます為に言ったんだろうがエレナ隊長には上手い事伝わっていない様だった。

 年代が少し違うのかな? 俺は反応できるが今はそんな雰囲気じゃない……。

 背中越しだがエレナさんから伝わって来る雰囲気は『私が守る』の意思を感じる。

 俺の勘違いかも知れないがエレナさんの背中越しにでも感じれるんだ間違いな気がしない。


「テレサも任務に集中しろよ。今はそんな事言ってる場合じゃないだろう」


 一応俺が後ろからテレサに注意を入れると、テレサも『分かってるわよ! バカ!!』って言いってる様に顔を真っ赤にしながら俺に目線を向けてきた。

 丁度その時カイトからの念話が届いてくる。


『3番隊。カナリア隊長達の移動が予定よりかなり早い、少しペースを上げてくれないか?』


『了解。マーガレット達の方は?』


 カイトの念話にエレナさんが答えながら戦況の確認をしている。

 車から下車する際、カイトとリンクはしたが頭の中に聞こえる声を聞いている感じだと今の念話(・・・)は、ゲームで言う処のチームチャットに近い気がする。

 通常の念話がゲームで言う処のウィスパーチャットみたいな感じで、リンクした所為か今の状態はチームチャットに近い、カイトを通して皆の声が聞こえる。


『私達2番隊は一応予定通りに行動しているわ』


『済まない! 私達の行動が予定より早い為、突出した形になってしまった』


 互いが互いに念話を通じて連絡をしている。

 今はカナリア隊長達の行動の穴埋めって言い方は悪いが俺達も移動のペースを上げるしか無い様だ。

 先頭を移動していったエレナさんのスピードが先程より上がった。

 俺はスピードが上がった二人に付いて行く事が難しい為、シュードスキル『輝星憧憬』を発動して『一鬼闘殲』の第一段階で肉体強化して二人のスピードに対応する。


『ッ!! 目標、隊長クラス魔力保持者2名とお供1名が動きを変えカナリア隊長達の方向へ移動開始しました!』


『私達が見つかった? チッ! 迎え撃つため“スキル”発動する! 目標の動きに注意してくれカイト』


 念話越しにカナリア隊長とカイトの慌てた声が聞こえてくる。


『マーガレット隊長とエレナ隊長は予定通り行動してください! 俺が思っているより目標の行動が読めない! 見える限り連絡は入れますが予定と違う感じで会敵する可能性も有るので臨機応変な対応を願います!』


 カイトの声を受け俺達は目標である斥候の方へ足を延ばす。

 一番最初の予定とは少し狂ったが俺達の取る行動は何も変わっていない様で日が落ち夕闇に閉ざされようとする森の中をひたすら駆ける。


『カナリア隊長達が目標と接触!』


 カイトの念話を聞いていると遠くから森を震わすような爆音が響いて来た。

 カナリア隊長達が戦闘を開始したんだろう……俺達の移動スピードが先程より跳ね上がる!

 エレナさんもテレサもスキル使用していないだろうに何てスピードなんだ! 付いていくのがやっとだ……俺は肉体強化をもう一段上げ二人から離されないようにした。

 行動を開始して、すでに目標とも接触を始めている。俺は走りながら額に流れる汗の中に冷たい物が混じっている事を感じながら森の中を駆けた。

更新に大変時間が掛かりました!

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