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異世界人にとって俺のレゾンデートルは?  作者: 遊司籠
第二章 鴉隊と勉強編
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第13話 『シュードスキル』

 ――火の粉飛び散る黒焦げた大地。

 焦げた大地を埋め尽くすような屍達……。

 ハッキリと分からないが、人に区分されるだろう種が数種にモンスターと思われるモノが大量に見える。

 ――これは夢だ。

 だって俺は、こんな景色見た事がないし地面から見た感じでは無く高い位置から俯瞰している為、夢だと感じれるのか……。

 見渡す限り屍の山、山、山……一体どれだけの死体が存在しているんだろうか?

 見ているだけで吐き気を催す不快さが“ここ”には有る。

 周りの屍の山から視線を離そうとしたら、凄まじく響き渡る轟音が俺の鼓膜を揺らす。

 何事かと目線を轟音の元凶に向けると二人の人影が見える。


「今ようやく貴様の首に刃が届く時がきた! 今も尚倒れ行く同志達に変わり俺が貴様を葬る!」


「強がるなよッ! 異世界からの来訪者が!!」


 剣を正眼に構える日本人風の男と、頭から二本の大きな角を生やし禍々しいオーラを全身に纏って拳を構える浅黒い肌の男。

 今二人の間には、目には見えぬが火花が飛び散っている。

 

「これが西尾君の魂の記憶……。考察するに1500年前の魔王と勇者率いる連合の戦いの場面にも見えるね」


 隣から声が聞こえたので目線を向けると、空に浮かんでいる半透明(・・・)なビックオ氏がいた。


「これは?」


 俺は隣にいるビックオ氏に問い掛ける。


「今、君と私は魂の記録を遡った所なんだよ。本来の君の肉体は今も手術台の上さ。それで今我々が見ている光景は西尾君、君の魂に刻まれた記憶なんだよ」


 そういえば墜ち子について調べるとか何とかで、俺はビックオ氏に協力したんだった。


「俺の魂に刻まれた記憶ですか?」


「この光景を見るに、君は大戦に所縁ある人物の転生体の可能性がある」


 ビックオ氏は拳と剣を交わしながら縦横無尽に大地を駆ける二人を右人差し指で指し示す。


「もしかして、この二人のどちらかの可能性もあるね」


 俺は眼下で戦い続ける二人に目線を向ける。

 激戦の中、凶悪な笑みを浮かべる角の男と真剣な眼差しをした男……。

 剣と拳、笑顔と真摯な顔、互いが互いに受ける印象が違う。

 俺が見つめる二人の姿が次第に霞んでいく。


「おっと! 視界が霞んできたって事は魂の状態が不安定になって来たって証拠だ! これ以上記憶を覗くのは難しい。君の自我が覚醒する印だ……私は一足先に意識を覚醒させてもらうよ」


 俺の隣にいたはずのビックオ氏は霞の様に姿を消してしまう。

 それでも俺は今も戦い続ける二人に目線が奪われてしまう……。


「楽しいな! なぁ****よ!」


「俺は楽しくないがな! ****よ!」


 互いの名前は聞き取れないが、今決着が着きそうな戦いから目が離せない。

 拳と剣が交わろうとした瞬間、世界は暗闇に包まれた。

 暗闇の中俺は自分が(・・・)目覚めていくのだと感じている。

 意識の覚醒と言った方が分かりやすいのかもしれない、そのなかで姿が見えないのに誰かの声を聞いた気がする。


『――理由は――意義は見つけられたのかな?』と。


 俺は閉じていた瞼を持ち上げる。

 目の前には、薄暗い中で俺を覗き込むようにビックオ氏の顔が有った。

 ……覗き込んでくるビックオ氏の顔が近い! 近い!

 慌てて頭を下げようとするが頭は柔らかい物に包まれるだけで、それ以上下がれない。

 俺は今自分自身が、どの様な状態なのか分からず混乱している。


「目が覚めた様だね西尾君? 気分はどうだい?」


 俺の視界の映るビックオ氏は少し心配そうな顔を作り俺を見下ろしてくるが、その心配そうな顔ですら嘘くさく感じてしまうのは纏う雰囲気のせいなのかは分からないが、俺には噓くさく感じてしまう顔だった。


「気分は問題ないです」


 取り敢えず俺は問題が無い事を伝える。


「そうか……それなら良い。取り敢えず色々説明するから、身体起こせる? 無理なら寝たままでいいけど」


 心配そうに覗いていたビックオ氏は顔を俺から離して問い掛けてくる。

 俺は腹と背中に力を入れ上体を起こす。

 少し違和感というか、身体に力が入り辛いと感じるが問題無いだろう。


「身体を起こせるって事は大丈夫そうだね。まずは先程の件から話しよう」


 上体を起こした状態で周りを確認する。

 まず先に見えたのは下着1枚しか着用してない自分の裸体と手術台みたいなベット、その横に立つビックオ氏。

 俺は手術台みたいなベットに横になっていたようだ。ああ、そういえばこの部屋……ビックオ氏の研究室と呼ばれる部屋に通された時に下着1枚でベットに横になるよう言われるがままに従ったんだ。

 俺は周りの確認を終えるとビックオ氏に目線を合わせる。


「先程君と共に見た光景は、君の魂に刻まれた記憶だ。魔法を使って魂の記録を遡って前世の記憶を垣間見た訳だが、やはり私の仮説は正しかった様だね」


「魂の記録……“あの戦いに”関係ある人物が俺の前世だと? 俺が、あの戦場にいた誰かの転生体で転生先が地球だと?」


 俺は先程の光景を思い出しながらビックオ氏に問い掛ける。

 俺の脳裏には先程の光景が鮮明に残っている……残っている光景は今も尚見ているかの様な鮮明さだと感じられるくらい劣化(・・)していない。


「ああ……その可能性が一番高い。後は部分的ではあるが記憶の劣化コピーを取る事も出来たから、後はゆっくり解読して君の前世を調べてみるよ」


 俺の問い掛けに完璧な答えを返す事は出来てないがビックオ氏は満足げな顔をして俺から離れて、部屋の片隅にあった大きな姿見を引っ張り出してくる。

 ビックオ氏は引っ張ってきた姿見を俺の全身が映るよう位置を調整して設置した。


「取り敢えず記憶の事は調べないと何とも言えないから今は保留して、西尾君に施した魔法の説明をしよう」


 ビックオ氏は姿見を設置し終わった後、窓のカーテンを開き部屋に光を取り入れながら俺に話し掛けてくる。

 薄暗かった部屋に太陽光が入ってきて部屋の中が隅々まで露わになる。

 男で尚且つ研究室とくれば、部屋は汚いってのがお決まりなんだと思っていたが、かなり綺麗に掃除されている。埃一つ見当たらない所を見ると神経質か潔癖症かと疑えるぐらいだ。


「力を与えてくれるんでしたよね?」


 部屋の中を確認していた目線を戻し俺は真面目な顔をしてビックオ氏に合わせる。

 俺の前世とか墜ち子とかには色々興味が湧いてくるが、今の俺にとっては()の方が大事なんだ!


「心配しなくても君には私のスキルによって疑似スキルを与えてある。まぁ見て貰った方が早いな……西尾君、『疑似スキル解放』って言ってみてくれるかい?」


 俺は訳が分からないが言われた通りに『疑似スキル解放』呟くと、身体が蒼白いオーラみたいなものに包まれる。


「今君は私が施した魔法……スキル『刻印魔法』によって刻まれた力を解放した状態だ。姿見で自分の姿をよく確認してみるといい」


 俺は姿見に映る自分を確認してみる。

 漫画やアニメに出てくるキャラみたいに身体から蒼白いオーラが迸っている。

 オーラが出ている事以外、変わった事は無いんじゃないのかと思って身体を観察していたら自身の身体の異変に気付く。

 俺は鏡に近づき、マジマジと己の身体を見る……小さくて見えづらいが身体中に蒼白い光で見た事無い文字が浮き出ていた。

 先程自分の体を見た時はなかったのに! 姿見に映る俺の顔から手足の先までビッシリと文字が浮き出ている!! これでは耳なし芳一状態じゃないか……いや、耳なし芳一が可愛く見えるぐらい俺の身体は悲惨な事になっている。


「ちょ、ちょっと! コレ(・・)は何ですか!!」


 俺は身体に浮き出る文字を手で指し示しながらビックオ氏に詰め寄る。


「コレとは酷いね……君の為に折角刻印してあげたのに。あぁ、普段は刻印は浮き出ないから安心していいよ。疑似スキル解放した時だけ浮き出るから我慢してね? 一応周りから気付かれにくい様に刻印してんだから感謝してほしいものだよ」


「……気遣いどーも!」


 俺の身体に刻印をされたという事実は変わらないのだから今更嘆いても後の祭りと諦めるしかない様で、心にない言葉をビックオ氏に投げ掛けるくらいしか出来なかった。


「話を戻そう。君が蒼白いオーラに包まれている状態が私が刻印した疑似スキルが発動している印になる」


 俺の言葉など気に止めずにビックオ氏は先程の話の続きを話し始める。


「測定の結果、君は残念ながら魔力を一切保有していない。そこで私の刻印で自然界に存在している魔力を無理矢理身体中に集めた結果が疑似スキル解放した際、君が纏う蒼白いオーラとして発現したという訳さ。オーラを纏った状態がスキル解放した際の基本となる」


 俺は目線を両腕に向け腕を包むオーラを眺める。

 この蒼白いオーラが自然界に存在している魔力を集めたものだとは……。


「ここからが本題になる。君に与えた力を説明しよう。まず『肉体再生』……回復スキルを刻印するか迷ったけど自動で肉体再生をしてくれた方が戦闘の際、楽でしょ? 次に『痛覚緩和』。攻撃を喰らってしまった際痛みで動きが鈍ると、やっぱり戦闘に支障が出るだろうから緩和(・・)にした。遮断してしまうと肉体からの危険信号に気付けず無茶しそうだったからね」


「肉体再生に痛覚緩和ですか……」


 俺はもっと戦闘系のスキルが欲しかったと心の中で思う。

 力を与えて貰ってる立場で厚かましいが、戦える力が無かったからこそ俺は力を望んだのに……。


「おいおい、まだ説明は全部終わってないのに残念そうな顔をしてくれるなよ?  がっかりするのは話を全部聞いてからにしてくれ西尾君。がっかりどころか泣いて喜ぶ顔を浮かべるはずさ君の場合」


 俺は両腕に向けていた目線を勢いよくビックオ氏に向ける。

 俺に与えられた力は肉体再生と痛覚緩和だけじゃない?


「君に与えた力は後3つある。まずは……1番隊に所属している転生者が使うスキル『穿つ者』を元に再構成し直したスキル『突き通す者』。これは打撃特化のスキルで意志を突き通す強さで威力が変わる。曲げずに通したい意思(・・)も人には有るだろう?本 来組み込むつもりが無かった刻印だけど、私なりの粋な計らいと受け取ってくれ」


 自分の意思次第で威力が変わる打撃特化スキルか……俺は曲げずに突き通したい意志を持っていないけれど、それでも何時か曲げずに通したい意志ってヤツが見つかるのかな?


「次はっと。2番隊所属の転生者が使うスキル『集束魔力砲』の簡略版『魔砲』だ。纏える魔力に限界がある以上、本来のスキル使用者が使う膨大な魔力に頼った『集束魔力砲』は刻印できても使用できないから西尾君に合わせて簡略の方を刻印させてもらったよ。これは手の平から魔力を打ち出す事が出来るんだけど、射程は100mも届かない上に威力もそれ程あるわけでも無いけれど遠距離攻撃は最低限使えないと困るでしょ?」


 言われれば確かにそうだ。イスティの時だって囲まれていても遠距離攻撃の手段が有ったらティーハータの凶刃を防ぐ事も出来たはず。


「最後は、とっておきだ! 1番隊隊長が使う身体強化系ユニークスキル『一騎当千』を西尾君に合わせてアレンジした『一鬼闘殲(いっきとうせん)』だ! このスキルは身体を4段階に分けて強化出来るんだ。戦闘相手に合わせて段階的に強化の強弱を変えられるんだが、4段階目の強化は使用をお勧めできないくらい身体への負担が大きい。いざって時の切り札にしてくれ」


 全部のスキル説明が終わったのかビックオ氏は満足げな顔をして俺の反応を伺ってくる。

 ああ、がっかりした所かビックオ氏が言った様に泣いて喜びたい衝動に駆られそうになったぐらいだ。

 感謝しても感謝しきれない! 俺は力を望んだがビックオ氏の実験に付き合っただけで、これ程のスキルを与えてくださった。本当に泣きそうになる……持たざる者から持てる者に俺は為れた。

 今から俺は皆から必要とされる人になれる、次からはイスティの様に助けてほしいと救いの手を俺に伸ばしてくる人の手を取る事が出来る!!

 泣かないで済む……己の無力さ遣る瀬無さを感じていた背中が軽くなった気がする。


「あ……ありがとうございます!! 俺が望んだ力が()ここにある! 俺は必要とされる人になれる!」


 恥ずかしながら少し鼻声でビックオ氏に感謝の言葉を伝える。


「いいよ、対価だからね。『肉体再生』『痛覚緩和』『突き通す者』『魔砲』『一鬼闘殲』この5つを統括して疑似スキル……疑似スキルだけじゃ寂しいね? 名前を決めていいよ西尾君」


 俺の感謝の言葉を受け、先程より噓くさく感じさせない本当の笑顔を向けてくるビックオ氏。

 少し頭を回転させる……スキル名か。

 俺は少し迷いながら思いついた言葉を発する。


「疑似……シュードスキル『輝星憧憬(キセイドウケイ)』にします」


「ふむ、輝く星への憧憬の念か……西尾君の望みがスキル名か。よし! 疑似スキル発動のワードも変えよう!」


 俺の考えたスキル名を聞いたビックオ氏は右手に紅黒いオーラを纏わせながら俺の頭を鷲掴みにしてくる。

 いきなりの事で驚いたが、スグにビックオ氏は掴んでいた俺の頭を離し俺に目線を合わせながら声を掛けてくる。


「疑似スキルを発動する際は『pseud(シュード) skill(スキル)解放』にワードを書き換え変更したから、次から間違えないでね西尾君」


 俺は小さく頷く。


「あっと。説明不足だった! 通常時でも『肉体再生』と『痛覚緩和』は常に発動状態にしてある。死なれても後々実験に支障が出てしまうからね。まぁ、他はスキル解放しないと使えないけど理解してね」


 俺はビックオ氏の最後の説明を聞き終えると太陽が昇り切った空に窓から目線を向ける。

 雲一つ無い晴れた空……俺の心境を表しているみたいだ。




 ああ、俺も輝く星の1人になれる。例え偽物の輝きでも輝く事には違いは無いのだから……。

 今の時間だと星は見えないが俺には自分も空で輝いている感じを受け両手を強く握りしめた。

 

更新に時間掛かり過ぎて申し訳ございません!漸く更新出来ました!これにて第2章は終わりです。次から第3章を始めます!頑張って更新できたら良いなって思います!でわでわ!!

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