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【3巻発売中】私の推しは魔王パパ  作者: 夏まつり
3章 アルカディア王国へ

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03-06 町を襲う魔族達(3)


 ――やっぱ素手で剣の相手はしんどいなあ。


 カルラは額に浮いた汗を指で払いながら考える。できるだけ真正面からは受けないように力の向きをずらしているとはいえ、何度もリドーの重い攻撃を弾いてきた腕は徐々に痺れつつあった。しかももう一人、別の魔族が時折氷の槍をカルラに投げてくる。足が止まったところを的確に狙ってくるので、動き続けなければならないのが地味に辛い。


 再び飛んできた槍を後ろに跳んでかわしながら、ちらりとディアドラとヤマトの様子を見た。


(はよ倒してくれへんかな……)


 話に聞いていたディアドラの強さなら、あれぐらいすぐに倒してくれると期待していたが、まだ戦闘中であるらしい。


 どれだけ強かろうがやはり子供、対人戦に連れてくるには早かったのだろうか。でも、魔王城の使用人たち相手に好き勝手暴れていた子供だぞ? ナターシアの結界が解けた時、大量の魔族をまとめて撃ち落としたのではなかったのか? と、カルラは心の中で首を傾げる。ディアドラに「面倒だから帰りたい」と言われてしまうと困るから黙って連れて来たが、彼女が苦戦するなんて想定外だ。


 ヤマトがいるならユラも来たはずだ、と周囲を伺う。ユラはカルラからは離れた場所で、倒れた魔族をロープで縛っているところだった。


 また氷の槍が飛んできて、カルラはそれを蹴り割った。リドーの相手をしながら他の魔族まで攻撃している余裕はない。もう一人の方は他の誰かに期待する他なかった。


 ふと、カルラの体が少し軽くなる。さっきまでと同じようにリドーの剣を弾いたが、その衝撃が随分和らいだように感じた。


 不思議に思って周囲に視線を走らせると、住人を避難させようとしているニコルの姿が目に入った。なるほど、司祭の強化魔法なんて面倒なものだとしか認識していなかったが、かけてもらう側に回ると心強い。後ろから守られているようでなかなかいいなと口元に笑みを広げた。


 彼が馬車に乗せてほしいと言ってきたとき、その要望を受け入れるか正直迷ったが、連れてきて正解だった。住民の避難も彼に任せるのが一番だ。行動の優先順位が決まっている男はわかりやすくていい。


 リドーが横薙ぎに振った剣を身を低くすることでかわし、カルラはあごを狙って蹴りを放つ。だがリドーも後ろに跳んでそれをかわすと、いったん距離をとった。


「あんた、だいぶ(つよ)うなったやないの」


「だろ? お前は弱くなったんじゃねえの」


「かもしれんな」


 リドーとは何年も前に稽古として手合わせをしたことがあるが、当時はすぐに勝負を決められた。別の魔族の援護があるとはいえ、それを差し引いてもリドーはカルラが知るより腕を上げている。


 右上段から振り落とされた剣を、カルラは左に跳んでかわす。カルラが着地した位置めがけて今度は左上から剣が振ってきて、カルラは手甲で弾きながら前に向けて地面を蹴る。横から蹴り飛ばそうとしたが、突然生えてきた氷の壁に阻まれてそれは叶わなかった。


 カルラはいったん下がり、指で汗を拭う。氷の槍を避けるために動き続けなければならないこともあり、だんだん息が切れてきた。さっきからずっと戦い続けているが、互いに軽傷しか与えられていない。


 リドーの剣を避けながらカルラは考える。もっと決定的な攻撃を当てるには、もう一人の魔族の魔法に割り込まれないよう、リドーに接近し続けるべきなのかもしれない。多少の負傷は覚悟してでも無理に当てに行くべきだろうか、と。


 リドーが再び斬りかかってきたのをギリギリのところで横にずれてすれ違う。カルラはリドーの剣が脇腹を抉るのも構わずに、すれ違いざま、足に魔力を乗せて横から思い切り蹴りを食らわせた。


 バキバキッという確かな手応えを感じながら、カルラはその足を振り抜いた。


「痛っ――」


 追撃しようとして、カルラは脇腹を押さえて顔をしかめる。


 ――しまった。


 少し斬らせてでも当ててやろうとは思ったが、カルラが想定していたより深く抉られてしまった。深々と斬られた脇腹は押さえても出血の勢いが止まらず、ぼたぼたと地面に赤い液体が落ちていく。鼓動のたびに激しい痛みを感じてふらつきそうになる。


 一方でリドーの右腕はだらりと垂れ下がり、いびつな方向に曲がっていた。右手に握られていたはずの剣は彼の足元に転がっている。片腕を折ることには成功したらしいが、片手の対価としては払い過ぎだ。


 リドーが左手で右胸あたりを押さえているところを見ると、肋骨にも多少のダメージはあるらしい。


「カルラ!」


 悲鳴に近い声を上げてディアドラが空から降りてくる。その目が今にも泣きだしそうに揺らいでいて、脂汗を浮かべながら苦笑を返した。こんなに情けない顔をする少女だっただろうかと考えながら。


 氷の槍が飛んでくるのを視界の端で捉え、とっさにディアドラの肩をつかんで後ろに押しのける。しかし槍がカルラに届く前に、それを叩き落としたのはリドーだった。


「ひゃはははは! 俺の剣に斬られながらつっこんでくるとは、オメー最高だわ! 一回限りなんてもったいねェ、別の機会にもっかい遊ぼうぜ、カルラ!」


 心から楽しそうに笑うリドーを見ながら、アホぬかせ、とカルラは悪態をついた。冗談ではない。こんなことは今回限りにしたい。


 リドーが剣を拾って身をひるがえすのが目に入る。追いかけようとしたが、激痛のあまりカルラは膝をついてしまった。


「あっ、わ、私が」


「あかん!」


 走りだそうとしたディアドラの手を慌ててつかむ。一緒に戦わせる気で連れては来たが、先の様子を見る限り、自分が動けないときにリドーの相手などさせられない。


「長! 大丈夫ですか!?」


 ユラとヤマトが駆け寄ってくる。


「大丈夫やって言うてやりたいけど……さすがにこれは痛いわ……」


 意地だけで笑顔を維持しながら、どうにか普段通りの声を絞り出す。激しい痛みと急速に流れ出ていく血液に、気を抜いたら意識を持っていかれそうだ。


 グリードに深手を負わせたというだけのことはある。ステータスを減らされようが、抵抗できなかろうが、やすやすと貫けるほどグリードの身体はやわくない。


 カルラが少しなまったのもあるかもしれないが、カルラがしばらく見ないうちにリドーは強くなった。それはそうだ、カルラがフィオデルフィアでほとんど戦闘をしていない間、リドーはナターシアでの荒事をザークシードと二人で片付け続けていたのだから。レベルくらい当然上がっている。


 ディアドラがカルラの脇腹近くに手をかざしながら、難しい顔で回復魔法をかけ始める。若干傷みが和らいだような気もするが、ほんの少しだ。完治にはまだまだかかるだろう。治る前に意識を持っていかれなければいいのだが。


 久々に激しい戦闘をして疲れたし痛いしこのまま倒れてしまいたい気分だが、もう一働きしなければ。カルラはユラを見上げ、荒くなる息を整えながら、できる限りいつもどおりの声を出す。


「他の魔族は?」


「四名捕らえましたが後は逃しました」


「なら、――ん?」


 不意にカルラに何かあたたかいものが降ってきたかと思うと、急速に痛みが引いていった。カルラがディアドラを見ると、彼女もきょとんと目を丸くしている。ひょいと立ち上がってみた。あれだけの傷がもう跡形もなく消えていて、痛みはない。他の小さな傷すら残っていないようだ。


 振り返れば杖を構えたニコルが立っていた。カルラはにいと笑みを広げる。


「ええんか? 魔族なんか治して」


「心底不本意です。ですが、あなたにはあの双剣使いをどうにかしていただくまで倒れてもらっては困ります。あんな者、人の手には余る」


「そうかい。ま、ありがとうな」


 周囲には倒れている者はいても動いている者はいない。ニコルによると生存者の避難は終わったそうだ。ディアドラが入口近くの家屋を指差した。


「ねえニコル、そこの家にいた親子は?」


「もう避難しましたよ。二人とも無事です」


「そっか……」


 ほっとしたように笑顔になるディアドラを見て、ほんま何なんやろ、とカルラは思う。たまにナターシアに戻った時に見かけていた少女と彼女は同じ姿をしているのに、印象がまるで重ならない。とはいえ今はそんなことはいいだろう。気が乗らないことをさっさと済ませるべきだ。


「よし、お嬢とヤマトで馬車取ってきてくれへんか? ゆっくりでええから、できるだけこっそり頼むわ」


「カルラは?」


「ちょっと休憩さして。うち、お嬢と違て(わこ)うないんや」


「えー!?」


 見るからに不満そうな顔になったディアドラだったが、ヤマトに促されて元来た方角に歩いていった。ヤマトにはカルラの意図は伝わっただろう。ここからの仕事は、ディアドラは知らなくていい。


 カルラは一度伸びをしてからニコルを見る。


「さて、うちは捕まえた奴らと話してくる。手荒にするけど、あんたはどうする?」


「同行させてください」


「あいよ。ユラ、案内してんか」


 ユラに連れられて近くの建物の裏に回ると、太い木の側に縛り付けられた魔族が四人転がっていた。 三人は気絶しているが、一人は傷が痛むのか呻いている。カルラは起きている一人に近付くと、しゃがんで魔族の男の髪をぐいと引いた。


「さて、あんたらの拠点はどこや?」


「そ、そんなものはない」


 カルラはにっこり笑って言う。


「どないしよかなー、指を一本ずつ折ってくかー、爪を剥いでくかー、ナイフで肉を削いでくかー……」


 カルラが言葉を重ねるごとに青くなっていった魔族は、


「ほっ、本当にない! ずっと少しずつ移動しながらここまできた!」


 と必死の形相で叫んだ。その反応に満足し、カルラは問いを続ける。


「じゃあ直前までいた場所は?」


「それは、ここより北東の――」


 後で一応ユラに確認させるとしても、彼が言う場所にリドー達はもう戻るまい。カリュディヒトスについても聞いてみたが、カリュディヒトスがステータスを戻してくれると言うからついてきただけで、それ以上のことは知らないらしい。


 他に聞くこともなさそうだと判断したカルラは、諦めてその魔族から手を離すと、ユラに向けて手の平を差し出した。


「ユラ」


 彼女のナイフを借りるつもりで名を呼んだが、ユラはナイフを魔族の首に向かって投げた。血を吹き上げて動かなくなる魔族を見てから、カルラはユラに視線を向ける。


「……ナイフ貸して、っていう意図やってんけど」


「それはわかったんですが、長に全部やらせるのは違うんちゃうかなーと思いまして」


 淡々と言うユラに、カルラは「あっはっは」と喉を震わせた。


「こーんな小さかった子が生意気言うようになったなあ。けどま、手を汚すのは年長者に任しとき。あんたは今聞いた場所を見てきてくれるか」


 立ち上がってユラの頭をぐりぐりと撫でてから、もう一度カルラは手の平をユラに差し出す。ユラは少し迷うような表情を見せたが、今度はカルラにナイフを渡してくれた。


 カルラがちらりと振り返ると、一歩離れてニコルがこちらを見下ろしている。その顔に表情はなく、冷たい目を倒れた魔族に向けていた。


 グリードより前の魔王の時代を知っている者が、魔族への憎しみを捨てられないと言うならカルラにもわかる。けれど彼はまだ若い。彼が物心つく頃にはもうフィオデルフィアに魔族はいなかっただろうに、どう育ったらここまで冷酷な目を魔族に向けられるようになるのだろう?


 首を傾げたい気分だったが、それを聞くのはやめにした。ディアドラが戻ってくる前に終わらせたかったからだ。


「少年、あんたは追加で聞きたいことあるか?」


「……いえ、特には」


「そうかい」


 さて、あと三人。


 一人ずつ起こして話を聞くしかないが、気が重い割に残りの三人も期待できなさそうだ、とカルラはため息をついた。


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