聖女の憂鬱
「プリム、君は何を言っているんだ」
プリマヴェーラの突然の願いに、ユリウスは呆れたように嘆息する。
「君にはちゃんとした家族がいるだろう。両親も健在だし、兄もファルコと、もう一人いるんじゃないのか?」
「レオン兄様のこともご存知なのですね……」
名前までは知らなかったとは言わずにユリウスが頷くと、プリマヴェーラはがっくりと肩を落とす。
「ご存知の通り、私には二人の兄と両親がいるのですが……わたくしは家族の中でも非常に浮いた存在なのです」
「それは、君の癖のこと言っているのか?」
「…………はい」
ユリウスの質問に、プリマヴェーラはゆっくりを頷く。
「表立って出ることはありませんが、わたくしは城の中では、籠に囚われた鳥同然の扱いを受けています」
プリマヴェーラが特殊な癖を持っていることは、家族の間では周知の事実となっており、不憫に思った両親は、彼女を更生させようとあれこれと習い事を押し付けたり、結婚相手を見繕ったりと、どうにかして城の中に閉じ込めようとした。
だが、それを快く思わないプリマヴェーラは、聖女として各地を巡ることに決め、可能な限り城にいなくていいようにした。
しかし、紋章兵器を使い続けると、指輪からの反動で指から腕、肩にかけて針で刺されたような激痛が走る。それでも我慢して使い続けると、内臓をぐちゃぐちゃにかき混ぜられるような激痛に苛まれる羽目になる。
だからプリマヴェーラは、力の補充のためにパロマの街に生贄を捧げるシステムを構築したという。
「もっとも、それもファルコ兄様にはお見通しのようでしたね。ファルコ兄様がわたくしを見る憐みの目といったら……」
プリマヴェーラは苦痛に耐えるように、唇をわなわなと震わせる。
「わたくしだって……最初から人を殺したいと思っていたわけではありません。ただ、この力を手にしてしまったから……あれを見てしまったから……」
そこまで言ったところで、プリマヴェーラは何かに気付いたかのように「ハッ」と口に手を当てて押し黙る。
しかし、当然ながらそこまで聞いてしまって黙っているユリウスではない。
「あれ? あれとは何だ? プリム、君は何を見たんだ?」
「そ、それは……」
余程言いたくないことなのか、プリマヴェーラの額からはみるみる汗が吹き出し、呼吸も荒くなっていく。
だが、このままだんまりを決め込んでも、ユリウスの追求から逃れることはできないと観念したのか、大きく溜息を吐いて蚊の鳴くような小さな声で謝罪の言葉を口にする。
「………………申し訳ございません。この件につきましては、今はご勘弁下さい。いつか……いつか時が来れば必ずお話しますから」
「そうか……」
本当に申し訳なさそうに深々と頭を下げるプリマヴェーラを見て、ユリウスもこれ以上の追求は止めることにする。
それに、いつか必ず話すという言質だけでも取れたのだ。今はこれだけでも十分と判断したユリウスは、頭を下げ続けるプリマヴェーラの顔を上げさせる。
「わかった。これ以上の追求はしない。だが、僕が必要と判断した時は無理にでも話をしてもらうからな。いいな?」
「…………はい、わかりました」
プリマヴェーラは憔悴し切った様子で頷くのを確認したユリウスは、彼女の両肩に手を乗せてもう一つの本題を切り出す。
「それと、プリムのさっきの願いについてだが……」
「わたくしを、ユリウス様たちの家族に入れてもらう話ですか?」
「ああ、悪いがその話は受けられない」
「どう……してですか?」
ユリウスの否定の言葉に、プリマヴェーラの目にみるみる涙が溜まっていく。
「わたくし、精一杯の勇気を振り絞りましたのに……どうしてそんな酷いことを仰るのですか? ユリウス様はわたくしのことがお嫌いですか?」
「そうじゃない。そうじゃないんだ」
ユリウスは駄々をこねる子供をあやすように、ゆっくりと諭すように話す。
「プリム、君は僕とは違う。君にはちゃんとした家族がいるんだ。それを蔑ろにして、僕たちと家族になったとして、君はいいかもしれないが残された家族はどうするんだ?」
「そんなの……知りません」
「プリム、現実から目を逸らすな。ここで僕が君の願いを承諾すれば、君は必ず僕に依存し、本当の家族を蔑ろにする。そうなれば君の両親はきっと悲しむだろう。それは、君の本望ではないはずだ。違うか?」
「それ……は」
ユリウスの追求に、プリマヴェーラは言い淀む。
(やはりな)
答えに窮するプリマヴェーラを見て、ユリウスは確信する。
プリマヴェーラの中にどれだけ大きな殺人衝動を持っていようとも、彼女は基本的には心優しい少女なのだ。
何故なら、自分の本質を知られ、否定され、矯正されそうになろうとも、プリマヴェーラは殺人衝動を決して家族に向けようとしなかった。
パロマの街へ赴くときも、ファルコを嫌って遠ざけようとしていたが、母親に泣いて頼まれたら最終的には折れてユリウスたちの同行を認めてくれた。
ユリウスという理解者が突然現れたから一時的に心が揺れ動いているだけで、時が経てば、家族の本当のありがたみがわかるはずだ。
ユリウスにはもう無くなって手に入らないものだからこそ、プリマヴェーラには大切にしてもらいたいと思った。
だからユリウスは、意気消沈しているプリマヴェーラを元気づけるように話しかける。
「プリム、君とは家族になれないが、僕が君の理解者であることには変わらない。これからも君との関係は、良きものでありたいとも思っている」
「……本当ですか?」
「ああ、困った時はどんどん僕を頼ってもらって構わない。だからお願いだ。君の本当の家族を蔑ろにすることだけはやめてほしい」
「それは、ファルコ兄様もですか?」
「無理にとは言わないが、善処はして欲しい。これからはプリムにも軍議に出てもらいたいと思っている。そこで君たち兄妹がギスギスしていたら、正直やりづらくて堪らない」
「…………わかりました」
根気強く説得した甲斐があったのか、プリマヴェーラは渋々ながら頷いてくれる。
「ユリウス様に嫌われてしまいたくありませんからね。明日からは、ファルコ兄様にもう少し歩み寄ってみます」
「そうしてくれると助かる」
ユリウスが微笑みながら手を差し出すと、プリマヴェーラはそれを握り返し、この話は一件落着となった。
どうにか納得してくれたプリマヴェーラが別れの挨拶をして立ち去ろうとすると、
「プリマヴェーラ姫様」
その小さな背中に、ヴィオラが話しかける。
「一つよろしいでしょうか?」
「……何でしょう?」
まだ何か言われると思っているのか、警戒するプリマヴェーラに、ヴィオラは特に気にした様子も見せずに言う。
「私も姫様がユリウスとの仲に入ってくるのは反対ですが、ユリウスと家族になりたいのなら、別のアプローチをすることをお勧めしますよ」
「別の…………あっ!?」
それだけでヴィオラの謂わんとするところを理解したプリマヴェーラは、ポン、と手を叩いて嬉しそうに微笑む。
「ありがとうございます。それでは、これからはそちらから攻めたいと思います」
「ええ、そうしてください。ただ、ウチのユリウスは中々手強いですよ?」
「望むところです」
そう言うと、プリマヴェーラは不敵な笑みを浮かべて立ち去って行った。
その様子を呆然と見ていたユリウスは、
(…………何だかわからないが、めんどうな事だけは勘弁してくれよな)
これから起こるかもしれない波乱を予期して、大きく溜息を吐いた。
どうも、柏木サトシです。
実は、私のペンネーム『柏木サトシ』のサトシは、誕生日の3月14日の語呂から来ていたりします。決して、ポ〇モンマスターに憧れてつけたわけではないです。
というわけで、今日は私の誕生日だったりするのですが、一つ歳を重ねたことを機にツイッターなんぞを始めてみました。
今の時代において情報発信ツールを持たないのは、非常に大きな損失であるようです。扱いを間違えればとんでもないダメージを負うことも確かですが、認知度が低いと商業作品を出しても、宣伝を全て人任せにしなければならず、結果として満足のいく結果が得られないことがままあると気付きました。
といっても、基本的にはゆる~く適当なことを呟き、たまに作品のことを呟くぐらいの予定です。
もし、私の今まで書いた作品や、今作について何か意見、感想等、何でも構いませんので何か伝えたいことがございましたら、お気軽に話しかけて下さい。可能な限り対応させていただく予定です。
とりあえずは三日坊主にならないように頑張りたいと思いますので、暇な時にでもチェックしてみて下さい。『柏木サトシ』で検索すればヒットするはずです。
長文失礼しました。それでは、本編をお楽しみください。




