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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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傷痕

 次にユリウスが目を覚ました時、最初に感じたのは心地よいという感触だった。


「う……」

「ユリウス!」

「ユリウス様!」


 僅かに身動ぎすると同時に、自分の名前を連呼されユリウスの意識が覚醒する。


「う、うう……そうか、僕は……」


 突如としてやって来た紋章兵器マグナ・スレストのによる反動という名の激痛に耐え切れずに気絶したことを思い出し、安堵の溜息を吐く。

 まるで目の中に串を刺されて、頭の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜられたような痛みだったが、その痛みはすっかり引いていた。

 おそらくプリマヴェーラが紋章兵器を使って回復してくれたと思われる。こうなるだろうと事前に察知し、わざわざ来てくれたことを感謝するためにユリウスは起き上がろうとするが、


「あっ、まだ起きないで下さい」


 思ったより近くからプリマヴェーラの声が聞こえ、ユリウスは思わず目を開ける。

 すると、すぐ眼前にプリマヴェーラの整った顔があり、吸い込まれそうなほど大きな瞳が驚くユリウスの顔を捕らえていた。

 そこでユリウスは、自分がプリマヴェーラによって膝枕されていることにようやく気付く。


「なっ!? プリム……ど…………して?」

「フフッ、ようやくユリウス様を驚かすことができましたね」


 プリマヴェーラは悪戯が成功した子供のように、可愛らしく舌を出す。


「目を覚ましたユリウス様をびっくりさせたくて……と言いたいところなんですが、こうした方が効率よく回復できるので、ヴィオラさんにお願いして膝枕をさせていただきました」


 優しい笑みを浮かべながら、プリマヴェーラは紋章兵器、エレオスリングの力を解放してユリウスの顔を優しく撫でていく。


 緑色の光に包まれると、プリマヴェーラの柔らかくて暖かい手の感触と合わさって非常に心地良い。目が覚めた時に感じたのは、彼女が力を使ってくれていたからのようだった。


(これだけ優しい力を持っているのに、中身はとんでもない破壊主義者なのがな……)


 人は見かけによらないというが、プリマヴェーラほど裏表が激しい人も相当珍しいとユリウスは思う。


「どうしました? わたくしの顔に、何かついていますか?」

「いや、何でもない」


 本当のことなど言えるはずもなく、ユリウスは苦笑しながらかぶりを振る。

 すると、


「フフッ、くすぐったいので、どうか動かないで下さい」

「……すまない」


 ユリウスは素直に謝罪の言葉を口にすると、回復が終わるまでおとなしくしていることにした。




 それからほんの数分で、ユリウスの治療は終わった・


「すまない……迷惑をかけた」


 ユリウスはプリマヴェーラの膝から起き上がると、彼女に向かって素直に感謝の言葉を口にする。

 だが、そこでプリマヴェーラが非常に申し訳なさそうな顔をしていることに気付く。


「……どうした? 僕が何かしたのか?」

「いえ、そうではないのですが……」


 プリマヴェーラが言葉を濁すと、


「ユリウス、あちらを……」


 ヴィオラがテントの隅に置かれた姿見を見るように指示してくる。

 一体何事だろうと思いながらユリウスは姿見の前に立つ。


「なっ!?」


 そこでユリウスは自分の体に異変が起きていることに気付き、右目を押さえる。

 両目の内、右目の端から右耳にかけて、まるで体の中に無数の虫に侵食されたかのような筋が走り、不気味な痕を残していた。

 触ってみると凸凹した違和感こそあるものの、これといった痛みはなく、既に体の一部として定着しているようだった。


「申し訳ございません。左目の方はどうにか治せたのですが、右目の方は手遅れでした」

「……これも、紋章兵器の反動なのか?」

「はい、武器の力を過剰に使い過ぎると、力を補充しようと使用者に襲いかかることがあるんです」

「そうか……」


 確かに今日は一日中、紋章兵器の力を使い続けていた。

 紋章兵器の代償に付いて失念していたわけではないが、自分の付けているアイディールアイズは、装着する時点で自分の目を代償にしているので、それ以上の代償を払う必要ないと考えていたのが甘かったようだ。


「プリム、君の力があれば使い過ぎによる反動は防げるのか?」

「わかりません。ですが、反動が起きる前に治療ができれば、もしかしたら……」

「そうか、どちらにしても注意が必要だな」


 これからは使用状況もある程度加味しなければならないが、プリマヴェーラという回復があるのとないのでは雲泥の差だ。

 やはり、プリマヴェーラを仲間にしたのは正解だったと改めて思う。


「……プリム、今後も厳しい戦いが続くだろうから、フォローを頼むぞ」

「はい、任せて下さい!」


 ユリウスの言葉に、プリマヴェーラは笑顔を弾けさせると、照れたように指をもじもじさせはじめる。


「あ、あの……差し出がましいお願いなのですがよろしいでしょうか?」

「何だ? 藪から棒に」

「その……ユリウス様とヴィオラさんは、ご家族ということなのですが、血の繋がりはないのですよね?」

「……どうしてそう思う?」

「簡単な話です。お二人とも顔立ちが似ていませんし、髪の色も翡翠色と黒色と違います。ご両親がそれぞれの髪色だとしても、二人にそこまではっきりと違いが出ることは非常に稀だと思いますから」


 それに、ユリウスとヴィオラが本当の姉弟でないことは、部隊の全員が知るところであるとプリマヴェーラは補足する。

 それでもその真偽を問わないのは、皆からの優しさだと補足してくれる。


「なるほどな……」


 別に本当に騙せるとは思っていなかったが、ほぼ全員が気付いていたことを全く知らなかったことに、ユリウスは自分の認識の甘さを思い知る。

 既に周知の事実であるなら隠す必要はないので、ユリウスは正直に答えることにする。


「そうだな。確かに僕とヴィオラに血の繋がりはない。だけど、僕たち二人は互いに大切な家族であると思っている。それについては誰が何と言おうとも覆すつもりはない」

「ユリウス……私も、ユリウスのことを家族として本気で愛しています。病める時も、死ぬ時も一緒ですからね」

「ああ、僕たちは一蓮托生だ」


 はっきりと断じるユリウスに、ヴィオラが感極まったように泣きながら抱き付いてくる。

 そんな二人を、プリマヴェーラは羨望の眼差しで見つめ、意を決したように話しかける。


「あ、あの……わたくしもお二人の仲に、入れてもらえませんか?」

「…………はぁ?」


 まさかの願いに、ユリウスは間抜けな返事を返した。

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