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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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空しい勝利、束の間の休息

「終わった……のよね?」


 完璧な勝利を掴んだはずなのに、何処か釈然としない様子でセシルが呟く。


「これが……こんなものが勝利だというの?」


 幼い頃から騎士に憧れ、周りの反対を押し切って剣を習ってきた。

 幸いにも剣の才能はあったようで、みるみる頭角を現したセシルが、さらなる技術の向上を目指して武者修行の旅に出た先で、ファルコの目に留まるのも必然といえた。

 これで、幼い頃から夢みた騎士道物語を自分も描くことができる。そう思っていた。


 だが、蓋を開けてみれば騎士道精神を謳い、正々堂々と一対一の決闘をするような者などおらず、数を数で鏖殺する泥沼の戦いが繰り広げられていた。

 最後も紋章兵器マグナ・スレストを持つ者とはいえ、一人に対して何百人もの弓兵が一斉に射かけるなど、いくらなんでもやり過ぎだと思った。


「これからも、こんな戦いが続くというの?」

「そうだ」


 セシルの呟きに、兵士長の死体から紋章兵器を回収してきたユリウスが応える。


「戦争において、勝ち負けの定義なんて一つしかない」

「一つだけ?」

「ああ、全ては生き残った者が勝ちということだ。連中は死に、僕等は生き残った。だからこの戦争は僕たちの勝ちなんだよ」

「じゃあ、死ななければ負けじゃないの?」

「当然だ。死ななければいくらでも再起できる。どれだけ辛酸を舐めさせられようとも、最後に相手の喉元を食い破った方の勝ちだ。だから、綺麗に戦おうなどと、相手に情けをかけようなどと甘い考えは今すぐに捨てることだな」

「…………むぅぅ」


 それでも納得いかない様子のセシルに、ユリウスはやれやれと大袈裟にかぶりを振ると、彼女の肩を叩く。


「文句を言うのは勝手だが、ここが敵地であることを忘れるな」

「……わかってるわよ」

「ならいい。次は、ラパン王国の王都に侵攻するから、それまでに気持ちの整理をつけておけよ」

「うん」

「それと今日はゆっくり休め。これは、命令だからな」


 ユリウスはセシルにそう告げると、消費した弓を回収しているブレットを呼び付け、全軍に本隊に合流する旨を伝えるように指示を出し、自分も移動を開始した。




 ユリウスたちが再び森を抜け、本隊に合流した時には既に日が暮れていた。

 本来ならすぐさまブリーフィングを行い、今後の方策を立てるべきなのだが、指揮官であるファルコを初め、かなりの数の兵士が初めての大規模作戦ということで疲労の色が濃く、これ以上の無理は明日に響くということで、今日は大事を取って休息を取ることを優先させることになった。


 ファルコたちに明日の早朝にブリーフィングを行う約束をして、ユリウスは自分に宛がわれたテントへと向かう。

 空を飛ぶ鳥がデザインされた士官用のテントに入ると、


「ユリウス!」


 中からヴィオラが飛び出してきて、体当たりするようにユリウスに抱き付いてくる。


「ああ、無事でよかった……何処か怪我とかしませんでしたか?」

「大丈夫だよ。僕がそんなヘマをするわけないよ」

「わかっていますよ。ですが、念のために確認させていただきます」


 一方的にそう告げると、ヴィオラは無遠慮にユリウスの体をまさぐり始める。

 霧の山賊団にいた頃と変わらないヴィオラの心配症ぶりに、ユリウスは心の中で嘆息するが、これが彼女にとっての愛情表現の一つであることも知っているので、されるがままにする。


 暫くの間、ヴィオラにおとなしく身を委ねていると、


「ユリウス様、いらっしゃいます…………かぁ!?」


 テントの入り口が突然開き、プリマヴェーラが顔を覗かせ、飛び込んできた光景に目をまん丸に見開いて驚く。


「な、なな…………」


 そこには半裸で立ち尽くすユリウスと、その体を舐めまわすようにまさぐるヴィオラがいた。


(ああ……)


 プリマヴェーラの姿を見たユリウスは、めんどくさいことになったと頭を抱える。


「何を……何をしているんですか!」


 そのまま立ち去ると思われたプリマヴェーラは、意外にもずかずかとテント内に入り込んできてヴィオラへと詰め寄る。


「ユリウス様は今日の戦いでお疲れなのに、一体何をなさっているのですか?」

「何って……私はユリウスの体に異常がないか見ていただけですが何か?」

「異常って……どう見てもそんな風には見えません!」

「じゃあ、どのように見えると仰るのですか?」

「そ、それは……その…………」


 逆に問い詰められたプリマヴェーラは、顔を真っ赤にして、もにょもにょと口ごもってしまう。

 それを見たヴィオラは、勝ち誇ったように鼻を鳴らして笑う。


「何をいかがわしいことを考えたか知りませんが、私とユリウスの間に入ろうなどと思わないことですね。この、お漏らし姫」

「なっ!? そ、それは言わない約束じゃないですか!」


 プリマヴェーラは、今度は羞恥で顔を赤くさせたり、青くさせたりしながらヴィオラの肩をぽかぽかと両手で叩き出す。


(なるほど、そういうことね)


 ヴィオラがプリマヴェーラに対して強気に出られる理由は、彼女の弱みを握っているからだと思われたが、その秘密をようやく知ることができ、ユリウスは腑に落ちたと思う。

 ユリウスが霧の山賊団の首領、ナルベによって重傷を負わされた時、ヴィオラがプリマヴェーラを脅して回復させたのは知っていたが、プリマヴェーラにとっては脅されたことよりも、恐怖で粗相をしてしまったことの方が余程堪えたようだった。

 それをヴィオラに黙っているように念を押していたのに、まさかユリウスの前で暴露されるとは思っていなかったのだろう。プリマヴェーラはこの世の終わりのような憔悴し切った顔でユリウスへと尋ねる。


「あ、あの……ユリウス様。わたくしのこと、幻滅しましたよね?」

「いや、そんなことはない。それぐらいのことで、僕がプリムのことを見捨てるわけないだろう」

「そ、そうですよね……よかった」


 心底安心したのか、プリマヴェーラは笑顔を浮かべてホッ、と肩を撫で下ろす。

 こんな一言で安心するプリマヴェーラを心の中で呆れながら、ユリウスは彼女にここに来た理由を尋ねる。


「それより僕に何か用事があったんじゃないのか?」

「あっ、そうでした」


 プリマヴェーラはポン、と手を叩いて顔を上げると、ヴィオラの体をぐいっ、と押し退けて質問してくる。


「ユリウス様、今日一日で大分、紋章兵器の力を使いましたよね?」

「あ、ああ……そうだな。今までで一番使ったかもしれん」

「そうですよね。それじゃあ、そろそろその反動が来ると思いまして……」

「反動……ぐっ!?」


 何だそれは。そう尋ねようとするが、その前に両目に突如として激痛が襲ってきて、ユリウスは堪らずその場に膝を付き、


「う、うがああああああああああああああああああああああああああああっ!?」


 余りの痛みに絶叫を上げたユリウスは、そのまま気を失った。

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