二度目の接敵
リーアン王国の兵士たちは、混乱の極みにいた。
数では圧倒して場をかき乱し、後は好きなように蹂躙するだけ。ラパン王国の王都を滅ぼした時と同じ展開なると踏んでいた。
だが、蓋を開けてみたらどうだ。
数の暴力を活かすはずの作戦なのに、敵の弓兵の的確な射撃で部隊を分断され、接敵した兵も相手の壁を崩すことが全くできなかった。
さらに高地を取られている為、一方的に弓を射かけられた結果、こっちの弓兵は壊滅状態となってしまった。
こうなっては、いくら数が多くても今の状況を覆すことは不可能だと判断し、開戦から僅か数時間で退却する羽目になってしまった。
「しかし……」
紋章兵器を使うことなく退却することになった兵士長は、相手の異常ともいえる手際の良さに首を傾げる。
作戦自体は別に珍しいものではない。今までも同じような作戦を取った者も少なくはない。だが、ここまで見事な連携を組み、的確に連続攻撃ができないように部隊を二つに分けるように攻撃してくる者は未だかつていなかった。
それはまるで、自分たちの動きの全てが見透かされているかのようだった。
「…………まさかな」
そんなはずはない。と兵士長はかぶりを振って自信の考えを否定する。
おそらく、数の優位を活かすために功を焦った結果、攻撃が単調になってしまったことが今回の敗北と兵士長は考える。
「やはり、二つに分けられたのが痛かった。今回の敗北は、相手に二という至高の数字を与えてしまったことだろう」
ならば、こちらも確実に逃げるために二の加護を受けるべきだ。
「おい、命令だ」
ここで部隊を二つに分け、自分が確実に逃げる算段を立てる。
キチンと二で割り切れるように、偶数の部下に死地へ赴くように命令すると、自分は全力で逃げることに専念する。
ラパン王国の王都まで戻れれば、他の紋章兵器を持つ仲間と合流できる。
そうなればこんな連中に後れを取ることはありえないだろう。
部下の一部を犠牲にした兵士長は、足を必死に動かして反対側の森の出口付近までやって来た。
ここまで来れば、もう大丈夫。そう思う兵士長だったが、
「……チッ」
本陣のあった場所から昇る煙を見て、舌打ちをする。
どうやら相手側の方が、さらに一枚上手だったようだ。
「俺たちをコケにしやがって……」
全身の血が怒りで滾るのを自覚しながら、兵士長は紋章兵器を手にする。
こうなっては、逃げ延びるためには相手を殲滅するしかない。
「総員、武器を構えろ! 回って来た連中が大勢いるとは思えん。俺たちの本当の恐ろしさを連中に知らしめるんだ!」
兵士長が鼓舞するように大声を出すと、全員が「応っ!」と応え、各々の武器を手に森を飛び出していく。
だが、最初の二人が森を飛び出しだと同時に、飛んできた矢に額を撃ち抜かれて絶命する。
「怯むな! 数では俺たちの方が上回っている。犠牲が出たなら、そいつを盾にして突っ込め!」
兵士長の言葉に、部下たちは死体を掲げながら突撃し始める。
その者が倒れたら、さらに後ろから現れた者が新たな死体を盾にして前へと進む。
そうして、決して少なくない犠牲者を出しながら進み、自分たちの本陣があった場所に陣取っていた弓兵たちに肉薄するために距離を詰める。
リーアン王国の兵士たちによる肉壁の作戦に、ミグラテール王国の弓兵たちの顔に驚きと、焦りの表情が見え始める。
「いいぞ! そのまま一気に押し込め!」
これで厄介な弓兵たちに一矢報いることができるそう思う兵士長だったが、
「甘いわ!」
何処かに潜んでいたのか、弓兵たちの後ろから現れた一人の兵士が両手に装備した剣を振るってあっという間に二人を斬り捨てる。
さらにその者は、まるで舞うかのように華麗な動きで次々とリーアン王国の兵士たちを斬り伏せていく。
「あいつは…………」
一騎当千の活躍を見せる影を、兵士長は知っていた。
かつて自分と切り結び、あと一歩のところで仕留め損ねたミグラテール王国の女騎士、その女がこうしてまた、自分たちの前へと立ち塞がったのだ。
「…………殺してやる。いや、手足を斬り落として、死ぬまで犯してやる」
兵士長は紋章兵器の力を解放させると、女騎士に引導を渡すために駆け出した。




