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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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謀る者たち

「どうやら仕掛けてきたのは、ミグラテール王国のようです」


 森を挟んだ反対側、リーアン王国の部隊をまとめる兵士長は、自分用の天幕の中で斥候に出ていた部下からの報告を聞いていた。


「部隊を率いているのは、光の王子と呼ばれているファルコ・ユースティア。数はおよそ二千で、森の向こうに歩兵を中心に弓兵を数多く配置しているようです」

「そうか……ご苦労だった」


 兵士長は鷹揚に頷くと、部下によく休むように指示をして、天幕の中にいる仲間たちに向き直る。


「さて、この状況……どう見る?」

「簡単な話です。隣国が落ちたのを見て、次は自分たちだと察したから先手を打った。そんなところでしょう」

「そもそもあの国には、戦闘向きの紋章兵器マグナ・スレストはないでしょう。だからこそこれまでどこの国にも侵攻せず、日和見を続けていたはずですよ」

「そうです。昨日は不意を討たれましたが、そこを生き延びた以上、我々の勝利は約束されたも当然です」

「そもそも奴等は二千、我々は三千の部隊です。数で圧倒している以上、連中に後れを取るはずがありません」


 兵士長の問いに、部下たちから次々とポジティブな回答が返ってくる。

 それらの答えを聞きながら、兵士長もまた大きく頷く。


 普通に考えれば、千という数の差を覆すことは容易ではない。

 そこに紋章兵器という特別な兵器があれば話は別だが、生憎とミグラテール王国にはそういった紋章兵器があるという話は聞いたことがないし、あれば昨日、対峙した時に使っているはずだった。


「確か……ミグラテール王国のファルコ王子が光の王子と呼ばれている理由は、民を想い、迷いなく救いの手を差し伸べるその誠実さから、だったな?」


 ファルコが噂通りの人物ならば、ラパン王国が陥落し、そこに暮らす民が蹂躙されるのを見ていられず、危険を賭してまで救援にやってきた、ということになる。


 そして、その噂はおそらく事実であると思われた。


 理由として、こちらが斥候を放って相手の数を把握したということは、相手もまたこちらに斥候を放って状況を確認しに来ているはずだからだ。

 彼我の数の差を知って尚、こちらとやり合う位置に展開したということは、ラパン王国の民を守るという意思表示の現れあると思われた。


「おそらく、森の前に陣取ったのは、森で乱戦を仕掛けることで数の差を少しでも埋めようとしたか……」


 作戦としては悪くはないが、それは相手が同じ土俵に上がった場合のみ有効な手立てで、兵士長はそれに乗ってやるつもりは毛頭ない。


「決まりだな」


 兵士長は天幕内にいる部下たちを睥睨すると、犬歯を剥き出しにして獰猛に笑う。


「こちらから討って出るぞ。一気に森を抜け、相手の裏をかく」


 森さえ抜けてしまえば、後は数のぶつかり合いだ。

 そうなれば、こちらが負ける理由は万に一つもあるまい。


「急げ。相手に感付かれる前に動くぞ!」


 その声に部下たちは「応っ!」と威勢よく答え、それぞれが所属する舞台に指示を出すために天幕から勢いよく出て行った。




「森さえ抜けてしまえば、自分たちの勝ちは揺るがない。連中はそう思っているだろうな」


 一方、ミグラテール王国軍の天幕では、ユリウスが相手の兵士長の考えを見事に言い当てていた。


「何せ連中の方が、数が多い。それを最大限に活かすには、森の中のような狭い場所ではなく、平原のような広い場所で戦うのがセオリーだからな」

「それがわかっているから、我々は森の前に部隊を展開させた……相手に先手を打たせるために」


 ファルコの言葉に、ユリウスは口に端を吊り上げてニヤリと笑う。


「ああ、それこそが僕の狙いさ」

「……だが、本当に大丈夫なのか?」


 広げた地図を眺めながら、ファルコは不安を口にする。


「相手が先手を打ってくるであろうから、こちらからは何もせずに森を通過させるなんて正気とは思えないな」

「大丈夫だ。僕を信用しろ」


 心配そうなファルコに、ユリウスは自分の右目を指差しながら言ってのける。


「こちらには、これがあるんだからな」


 そう言うユリウスの自信に応えるように、右目の紋章兵器が青く光った。

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