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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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接敵

 澄み渡った青空の下、何処までも続く緑の絨毯の上を、十頭の馬が全速力で駆けていた。

 先頭を行くのは、腰に二振りの剣を携えた完全武装姿のセシルだった。


「全く、ユリウスってば毎回、毎回、無茶言ってくれるわね」


 吹きすさぶ風に負けることなく悪態を吐くセシルの表情は、言葉とは裏腹に笑みが浮かんでいた。


「でも、この私を選んだことは褒めてあげてもいいわ」


 セシルは今、ファルコからある任務を受けていた。

 その任務は、とにかく迅速さが求められる早馬を使っての強攻策だった。



 結局、プリマヴェーラの紋章兵器マグナ・スレストのお蔭もあり、村で見つかった中年女性は、一命を取り留めた。

 だが、流石の紋章兵器でも失った足を復元することはできないようで、中年女性にそのことを告げると、命が助かっただけでも十分だと儚げに笑った。


 その後、中年女性から村で起きた出来事を聞いたファルコは、ラパン王国に攻め入ったリーアン王国を、脅威をもたらす敵性国家と定めた。

 そうと決まれば、ラパン王国民にこれ以上の被害が出る前にリーアン王国の兵士たちに宣戦布告を行い、戦闘状態へと移行する。

 その為の行動を起こそうとしたところで、ユリウスからこの村を襲ったであろう兵士たちに宣戦布告をするようにという追加の命令があったのだ。

 その理由は、相手が紋章兵器を持っている以上、その性能が勝敗を左右するといっても過言ではない。ならば、少しでも情報を得るために、セシルに実際に一度か二度、切り結んで力を見極めて来いというものだった。


 中年女性は兵士たちが消えた方向は見ていなかったが、どちらの方角から来たのかはわかっていたので、セシルたちは兵士たちが現れた方角に向けて馬を走らせていた。


「確か……そいつが持っている紋章兵器って、遠くまで攻撃できるのよね?」

「普段は普通の剣なのに、振るうと刀身が伸びる、だよ。姉さん」


 ファルコに選んでもらい、ユリウスから頼まれたことが嬉しかったのか、中年女性から聞いた紋章兵器の情報を完全に忘れている様子のセシルにブレットが説明する。


「でも、姉さん。大丈夫なの? 紋章兵器相手に普通の剣で戦うなんて、いくらなんでも無茶が過ぎるよ」

「別に真剣勝負を挑むわけじゃないわ。少し、遊ぶだけよ。間合いは大体聞いてるから、問題ないわ」

「……絶対に無茶だけはしないでよ」

「さてね……命のやり取りをする以上、約束はできないけど精一杯の努力はしてみせるわ」

「……わかった」


 セシルが自信に満ちた表情で告げると、ブレットはそれ以上の言葉は野暮だと引き下がる。

 いざとなれば、自分がセシルの命を守ればいいのだから。

 鼻息荒く息巻くセシルを見やりながら、ブレットは背中に背負った愛用の弓の弦の張り具合を確認する。

 すると、


「見つけた!」


 セシルが大声を出して目標を発見した旨を全員に伝える。


「皆、いくわよ。遅れるんじゃないわよ!」


 そう言うと、セシルは馬に鞭を入れてさらにスピードを上げた。



 村を襲った兵士たちは、村から押収した戦利品を手に、意気揚々と歩いていた。


「隊長、あいつ等、何もないって言ってた割には随分と貯め込んでましたね」

「連中はなんだかんだ言って強かだからな。最初から素直に出せば、皆殺しに遭わずに済んだものなのにな」

「そうですね。といっても、どうせ数日後には死んでしまうんでしょうがね?」

「それはわからんぞ? ひょっとしたらバオファ様からお声がかかるかもしれんからな」

「ああ、それなら確かにすぐには死なないでしょうが……それはそれで悲惨な末路を辿るだけですけどね」

「全くだな」


 これからラパン王国に住む人間が辿るであろう末路を想像し、兵士長たちは互いに顔を見合わせて笑い合う。

 この国の王都を崩し、新たな支配者となった自分たちの優位を信じて疑わない兵士たちは、これからもこの国に住む人々を蹂躙し、全てを奪い尽くせると信じて疑っていなかった。


 その驕りから、兵士たちは周囲の警戒を完全に怠っていた。


「ん?」


 そんな兵士の足元に、どさり、と何かが転がってくる。

 転がって来た何かを見た兵士は、


「…………えっ?」


 それが何であるかを理解したが、訳が分からないと間抜けな声を上げる。

 それは、背中に一本の剣が刺さった既にこと切れている仲間の死体だった。

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