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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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進軍

 結局、ユリウスの説得に負け、ファルコは軍を動かすことを決めた。


 主目的は、敗戦国となったラパン王国の現状を知り、ミグラテール王国の脅威となるようであれば適時対応するといった臨機応変が求められる作戦で、ファルコ以下、軍の主力全員での出撃となった。


(いよいよだ。これからが本当の戦いだ)


 総勢、二千人での大規模な作戦を前に、隊列の真ん中付近で、ブレットが駆る馬の後ろで揺られながらユリウスが決意を新たにする。


 軍師としてここで大きな功績を残すことができれば、次はよりもっと強大な敵と、他国へと侵略を繰り返す国家と戦うことができる。

 復讐となる相手が何処にいるかは、依然として見つかっていないが、勝ち続けていれば、必ずや相対することができるとユリウスは考えていた。


(待っていろ。必ずや僕がお前の首を刈ってやる)


 もう何度目になるかわからない、顔も名前も知らない復讐相手に対し、憎悪の念を膨らまんせていると、


「そういえば、意外だったよな」


 ユリウスの前から声がかかった。

 これから戦争に行くというのに、いつものおっとりとした様子を崩さないブレットが柔和な笑みを浮かべながら自分の後方を見ながら話す。


「まさか、プリマヴェーラ様まで一緒に行くというなんてさ」

「何でだ?」

「だってさ。プリマヴェーラ様って聖女様って言われるぐらいだから、こういった争いごとなんか全面的に反対かと思ったんだ」

「ああ……」


 無邪気に告げられた一言に、ユリウスは曖昧な笑みを浮かべる。

 実際のプリマヴェーラは、争いが嫌いどころか、流血沙汰や、人が絶望に打ちひしがれる姿を見るのを好むかなりの嗜虐趣味の持ち主なのだが、それを知っているのはユリウスとファルコといったごくごく一部の人間だけなので、ブレットが抱いた想いは、ごく自然の感想だった。

 流石にプリマヴェーラの本性を話すわけにはいかないので、ユリウスは適当にごまかしながらブレットに説明をする。


「プリマヴェーラ様は優しい方だからな。おそらく、僕たちが傷つくのが耐えられなくて、助けを申し出てくれたんだと思う」

「ああ、なるほど。そういう考え方もあるか。流石はユリウスだね」

「何が流石なのだ?」

「何ってユリウス、プリマヴェーラ様とよくお話しているだろ? 城の中じゃ、あの二人は怪しいってちょっと有名になってるくらいだよ?」

「勘弁してくれ……」

「ええ、でもでも、ユリウスも案外満更じゃないんじゃないの?」

「そんな訳ないだろう。僕はただ、退屈凌ぎに話し相手になっているだけだ」


 ユリウスが呆れたように嘆息すると、ブレットは苦笑を浮かべる。


「そうなんだ。でも。それなら安心したよ」

「どういう意味だ?」

「実は姉さんがね……あっ、いや、何でもないよ。今のは聞かなかったことにしといて」

「?? まあ、いい。セシルのことならたいしたことじゃないだろう」

「うんうん、本当。たいしたことじゃないからさ……ハハハ」

「…………はぁ」


 ブレットの言いたいことが分からかったが、これ以上突くのは得策でないと判断したユリウスは、再び大きな嘆息をした。



 行軍速度は決して速くはないが、ミグラテール王国内ではこれといった問題も起きることなく通り過ぎたユリウスたちは、いよいよラパン王国内へと足を踏み入れた。


 国が陥落したことで軍の再編成もまともに行われていないのか、もぬけの殻となっている国境を難なく通り抜け、そのまま進むと前方に村の入口と思われる人工物が確認できた。

 それを見たファルコは全軍に立ち止まるように命令すると、馬を駆ってユリウスの下へと赴いて話しかける。


「どうする?」

「どうするも何も、行くべきだろう。今は、少しでも情報が欲しい」

「……だな。では、何人か見繕うから少し待ってくれ」

「いや、ここは僕が行くよ」


 左目を覆った状態のユリウスは、神妙な顔付きで話す。


「流石に詳細まではわからないが、少し様子がおかしいようだ」

「……敵か?」

「どうだろうな。ただ、僕たちの姿が向こうからも見えているはずなのに、動きが一切見られない。おそらく襲われる心配はなさそうだ。後は……」

「後は?」


 続きを促すファルコに、ユリウスは思わず顔をしかめながらかぶりを振る。


「……少し村の中央が乱れているのが気になった。それだけだ」

「それだけか?」

「ああ……だが、これだけは言っておく」


 そう言うと、ユリウスは紋章兵器マグナ・スレストの力を解除して、ファルコの目を真っ直ぐに見据えて静かに切り出す。


「あの村に行く者は、それなりの覚悟をしておいて欲しいと伝えておいてくれ」

「―――っ、わかった」


 真剣な様子のユリウスの言葉に、ファルコは大きく頷くと、適正な人選をするために立ち去って行った。

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