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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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二つに分ける

 ファルコが答えを保留にした翌日、王都が落ちたラパン王国のとある村に、ガチャガチャと鉄の音を響かせながら完全武装した十人ほどの兵士が姿を見せた。


「この村の村長は誰か?」


 兵士たちは村の中央の広場に辿り着くと、中心にいた兜に角が付いたリーダー格の兵士長が大声を響かせる。


「早くしろ! 我々は決して気が長い方ではないぞ!」

「わ、私です……」


 兵士の恫喝に、一人の老人が慌てたように飛び出してくる。


「わ、私がこの村の長です。兵士様、何かご用でしょうか?」

「うむ、心して聞くがよい」


 兵士長は鷹揚に頷くと、この村に来た理由を告げる。


「この度、この地は我等、リーアン王国が王、バオファ様の忠実な臣下である我々が統治することなった。それに伴い、貴様等も我がリーアンの民としての心得を知ってもらおうと思い、この場にはせ参じたのだ」


 そう言うと、兵士長は巻物状の羊皮紙を広げて心得を述べる。



 一つ、リーアンの民は、常に正しく、嘘を吐いてはならない。

 一つ、困っている者を見つけた時は、皆で協力して助けること。全ての民は、一蓮托生である。

 一つ、無駄な争いはしてはならない。特に目上の人の言うことはよく聞き、常に尊敬を抱き続けること。

 一つ……


 兵士長の口から述べられる心得は、人として清く正しく生きましょうと問いかけるもので、何を言われるかと戦々恐々としていた村人たちは一様に安堵の溜息を吐く。

 その後も、兵士長が語るリーアンの民としての心得は続き、余りの長さに欠伸を噛み締める村人も現れるほどだった。


 だからなのか、心得が百を過ぎた頃に微妙な変化があっても、気付く者は少なかった。


「一つ、リーアンの民の男は、求められれば、いつ、いかなる時も労働力を差し出さなければならない。これを拒めば、死罪とする」

「…………ん?」


 何やら雲行きが怪しくなって来たことに、村長が眉を顰める。


「一つ、リーアンの民の女は、国を守る兵士を癒す義務がある。求められれば、拒むことは許されない。これも拒めば、死罪とする」

「ちょ、ちょっと待って下され!」


 突如として変わった風向きに、村長は堪らず兵士長の言葉に口を挟む。

 当然ながら、話を遮られた兵士長は何事かと怒りを露わにする。


「……まだ、心得の途中だぞ。邪魔をするな」

「申し訳ございません。ですが、そ、その……心得が……」

「何だ。我が王が直々にお決めになった心得に文句があるのか!」

「そ、そんな、とんでもない! あっ、いえ……ですが……」


 最後に聞いた二つはとても承服できるものではないが、ここで兵士たちの反感を買ってしまったらと思うと、村長は恐ろしくて言葉を紡ぐことができなかった。


「ふむ……」


 オロオロと狼狽する村長を見て何を思ったのか、兵士長は強く頷く。


「なるほど、貴様の言いたいことはわかった」

「本当ですか?」

「ああ、つまりお前はこう言いたいのだろう? 心得が長すぎると」

「そ……」


 そうではない。そう言いかける村長に対し、


「ああ、皆まで言うな。我々も、これは確かに長いと思っていたのだ」


 兵士長は「うん、うん」と何度も頷きながら、手にした羊皮紙を丸めて部下に託す。


「だから、ここは私が特選した二つの心得を伝えよう」

「二つ……ですか?」

「ああ、二という数字は最高だ。何だって、どんな数字も小数点第一位までで割り切れてしまうのだからな。二こそ正に至高の数字だと思わないか?」

「はぁ……そうですね」


 兵士長が何を言っているか全く理解できなかったが、村長はとりあえず頷いておくことにする。

 殊勝な態度を見せる村長に気を良くしたのか、兵士長は「そうだろう」と何度も頷きながら特選したという二つの心得を告げる。


「我々が貴様たちに要求する一つ目は、お前たちが持つ全ての財産は、我々のものとなるので、おとなしく差し出すこと。そしてもう一つは、お前たちはすべからく兵士の奴隷として、その命尽きるまで従うこと。以上だ」

「なっ!? ちょっと待って下され!」


 今から財産の没収をはじめるといって部下に指示を出し始める兵士長に、村長は慌てた様子で跪いて許しを請う。


「ど、どうかご容赦ください。ご覧の通り、この村は小さく、村人たちが食べていくだけで精一杯なのです。それなのに財産の没収なんて……儂たちは明日かどうやって暮らせばいいのですか?」

「なに、その心配はあるまいよ」


 兵士長は兜を揺らして首肯すると、村長に止めの一言を告げる。


「お前たちは、我々が死ぬまで労働力としてこき使ってやる。どうせ死ぬのだから、明日以降の心配をする必要はない」

「そ、そんな……あんまりです!」


 これまで怯えた様子しか見せなかった村長だが、兵士長の余りの物言いに流石に頭に来たのか、立ち上がって抗議の声を上げる。

 村長の声に、村人たちも次々と抗議の声を上げるが、


「…………うるさいな」


 兵士長はやれやれと大袈裟にかぶりを振ると、腰に吊るした剣の柄に手を伸ばし、剣を鞘から抜く。

 現れた剣は、刀身がエメラルドグリーンに輝くなんとも不思議な雰囲気を持つ直刀だった。


「やはり一なのがいけないな……ここは二にしないと」


 そう言うと、剣を抗議の声を上げる村人たちに向けて無造作に振る。


 瞬間、一陣の風が村人たちの間を通り抜け、抗議の声がぱたりと止む。


「…………」


 村人たちは、時が止まったかのように微動だにしない。


 だが、最初に村長の首がゴロリと地面に落ち、切り口から噴水のように血が吹き出す。

 続いて、村長の後ろで声を上げていた村人たちの首が次々と落ち、広場はあっという間に血の海に染まる。

 そこで、ようやく状況を理解した遠巻きに見ていた村人たちが悲鳴を上げ、泡を食ったかのようにこの場から逃げ出す。

 兵士長は、逃げ出した村人たちを掴まえるように部下たちに指示を出しながら、物言わぬ死体となった村長たちを見やると、


「うむ……やはり二つに分けるべきだな……次は縦に割ってみるか」


 うっとりした声でそう言うと、次の獲物を求めて歩き出した。

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