迫られる決断
どうも、読者の皆様にはいつもお世話になっております。柏木サトシです。
今回より新章の話となり、味方だけでなく敵にも紋章兵器を持つ者が現れ、激しいバトルが繰り広げられる……予定です。
といっても今後の展開は殆ど決まっておらず、探りを入れながら執筆するので少し投稿が遅くなるかもしれませんが、物語はまだまだ続きますので長い目でお待ちいただければと思います。
それでは本編をお楽しみください。
ユリウスがプリマヴェーラと協力関係を築いている間に、近隣諸国の状況は大きく変わっていた。
ユリウスが生まれた国、フォーゲル王国が何者かの手によって陥落して以降、紋章兵器を持たないいくつもの国が滅ぼされ、何度も地図が塗り替えられていた。
ミグラテール王国は、プリマヴェーラという紋章兵器保持者がいるのと、隣接している諸国がそれほど好戦的な国でないため、幸いにも今日まで大きな戦火に巻き込まれることはなかった。
だが……
「ラパンが……陥落した?」
部下かからの報告に、ファルコは愕然とする。
場所はいつものファルコの執務室……ではなく、緊急事態の報告を聞くため、城内にある重鎮たちが集まる会議室だった。
ミグラテール国王はじめ、国の重鎮たちがずらりと並ぶ中、末端の席についていたファルコは、悲壮な表情を浮かべた部下に確認するように尋ねる。
「そ、その情報は本当なのか?」
「事実です。情報元は、ラパンから命からがら逃げ伸びてきた行商人ですが、間諜を放ってその情報が間違いないことを確認済みです」
「そう……か」
隣国が落とされたという報告に、ファルコは力なく項垂れる。
ミグラテール王国とラパン王国の間には、これといった深い親交があったわけではないが、ラパン王国を治めていた国王の姿をファルコはよく覚えていた。
野心とは程遠い常に穏やかな笑みを浮かべた王は、民の幸せを何よりも望み、少しでも生活が豊かになるようにと尽力していた。
ファルコもそんなラパン国王を尊敬し、いつかは教授願いたいと思っていた。
そんな偉大な人物の死に、ファルコは哀悼の意を示すために黙祷を捧げる。
「…………」
ファルコの内情を察してか、この場にいる者たちもまた、自然と目を閉じてラパン国王の死を悼む。
すると、
「……戦争だ」
沈黙を破る容赦のない一言が響き渡る。
それは、ファルコの裁量でファルコの隣にいることが許された人物、ユリウスだった。
ユリウスは、会議室に満ちた空気を全く読まないことを咎めるような視線を全て無視して、よく通る声で国の重鎮たちに持論を展開する。
「ラパンが落ちたのなら、次はこの国だ。相手がどこの誰かわからないが、攻められる前にこちらから打って出るべきだ……今すぐにでも、だ!」
「ちょ、ちょっと待つんだ。ユリウス」
このままだと勝手に出撃してしまいそうな勢いのユリウスに対し、ファルコが慌てたように待ったをかける。
「君が危惧することは重々承知しているけど、い、今すぐ出撃なんて……」
「何を甘ったれたことを言っているんだ。ラパン王国がどんな国なのか、君が教えてくれたのだろう?」
ラパン王国は、国王の努力で飢えに苦しむ者が誰一人としていないと言われるほど豊かな国で、その実りを通じて他国と上手く折り合いをつけている国だった。
ミグラテール王国にも、行商人を通じてラパン王国から数多くの恩恵を授かっており、ラパン王国が落ちたということは、これから先、それらの恩恵が受けられなくなってしまうということだった。
「国が落ちたといっても、今のラパン王国内は混乱の極みにいるはずだ。この機を逃せば、相手は態勢を整えるどころか、十分な糧食も確保してしまう。そうなってしまえば、攻められた時に勝つのは容易ではないぞ」
「で、でも、ラパン王国に住む民が、そんな簡単に侵略者の言うことを聞くはずが……」
「別に言うことを聞かせる必要はない。侵略者からすれば、欲しいものは奪えばいいのだけだからな」
「――っ!?」
わかっていたはずなのに、敢えてその可能性を口にしなかったファルコに、ユリウスは容赦なく現実を叩き付ける。
「敗戦国が辿る未来なんてものは、碌なものじゃない。間違いなく、ラパン王国内に住む民の未来は、悲劇しかないと断言できる。だが、君はそうはしない。違うか?」
「ユリウス……」
「もし、君が皆の幸せを望むために活動しているのなら、今こそ立ち上がるべきだ。心配するな。誰もがこの日の為に鍛錬を積んできた。僕も、最大限君に協力すると約束しよう。最終的に決めるのは国王かもしれないが、君も自分に何ができるのか、何が最善かを考えて欲しい」
「…………」
一気に捲し立てられた言葉に、ファルコはユリウスの顔を、自分の父親であるミグラテール王、そしてこの場にいる国の重鎮たちの顔を見る。
政治的な力は与えられていないが、軍を動かす裁量を任されているファルコは、この場にいる全員の視線を真っ直ぐに受け止めると、
「少し考える時間が欲しい。そう時間は取らせないから……」
そう言うと、足早に会議室を後にした。




