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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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報告と再確認と

 その日の晩、城に戻ったユリウスは、任務の報告のため、ファルコの執務室を訪ねていた。


 相変わらず一国の王子の執務室とは思えない簡素な部屋の中、一組だけある応接セットに向かい合って座ったファルコは、用意されたお茶を一口すすって二日ぶりに見るユリウスを見て思わず苦笑する。


「報告を……と思ってわざわざ来てもらったけど、それ、何?」


 そう言ってファルコが指差す先には、ユリウスに体を預けるようにべったりとくっついているヴィオラだった。


「いや、その……これは」


 ファルコの質問に、ユリウスは思わず答えに窮してしまう。

 ユリウスが城に戻るなり、矢のように飛び出してきたヴィオラに拉致されたと思ったら、それから今に至るまでずっと静かに泣き続けるヴィオラに抱きすくめられ、解放してもらえなかったのだ。

 どうやら城に戻るのが一日遅れたのがマズかったようで、フォーゲル王国から逃げ延びてから片時も離れたことがなかったヴィオラは、ユリウスがいないことが相当堪えたようだった。

 そんな事情をかいつまんで説明しながら、ユリウスはファルコに提案する。


「だから、ヴィオラのことはこのままにしておいて欲しい。僕たちの会話を聞いても、ヴィオラなら問題ないはずだ」

「……まあ、確かにね。君たち姉弟の複雑な事情はある程度聞いているけど……本当に仲がいいんだね」

「……生き残った唯一の家族だからな」


 ユリウスがヴィオラを抱く手に力を込めると、ヴィオラもまた応えるように力強く抱き締めてくる。

 そんな仲睦まじい……というより、互いに強く依存している関係を見てファルコは僅かに表情を曇らせるが、すぐに気を取り直して本題へと入る。


「それじゃあ、報告を聞かせてもらえるかい?」

「ああ……」


 ユリウスは頷くと、パロマの街で見聞きした事を簡単に報告した。



「そうか……」


 ユリウスからの報告を聞いたファルコは、大袈裟に肩を竦めて嘆息する。


「予想はしていたが、あっさりとあいつの秘密を知ってしまったんだね」

「ということは、ファルコはプリムの救済について知っていたのか?」

「一応、ね。本当なら、無理にでも止めるべきなのだろうけど……」

「紋章兵器の代償、か?」

「ああ……」


 ユリウスの質問に、ファルコは苦々しい表情をして頷く。


 プリマヴェーラが持つ紋章兵器マグナ・スレスト、エレオスリングは、対象者の傷を癒す代償として、使用者の命を削る必要がある。

 だが、その前にエレオスリングに他者の血を吸わせておくと、自信の命の代わりとして紋章兵器を使えるという裏技があった。

 ファルコもそれを知っていたから、プリマヴェーラの凶行を止めることができなかったのだった。


 妹の凶行を知っていて止められなかったことに、思わず表情を曇らせるファルコに、ユリウスは唇の端を吊り上げて笑う。


「まあ、その点については心配なくなったぞ」

「どういうことだ?」

「プリムにそういった回りくどいことはしないようにと釘を刺しておいた。今までは上手くいっていたが、次も上手くいくとは限らないからな」

「ほ、本当か!?」

「こんなことで嘘を言ってどうする。とにかく、今後彼女が力を使う場は、僕が決めて良いことになった」

「そ、そうか……ありがとう」


 ファルコは心底安心したように肩の力を抜くと、堪らず破顔する。


「まさか、あいつがそこまでユリウスの言うことを聞くなんてな……そこまで君に思い入れているとは思わなかったよ」

「……そこなんだよな」

「えっ?」


 唖然とするファルコに、ユリウスは思ったことを口にする。


「正直、どうしてプリムが僕の言うことをここまで聞いてくれるのか皆目見当もつかないんだ」

「…………おいおい、君は正気か?」

「どういう意味だ」

「どうもこうもないよ……ユリウス、君はプリムの命の恩人なんだよ」


 ファルコ曰く、スワローの街でユリウスに助けられたプリマヴェーラは、その時からユリウスに対して並々ならぬ想いを抱いているのだという。


「危機に陥った時に、颯爽と現れ、命を救ってもらった。世の多くの恋物語にもあるように、そういった状況に世の女は弱いものなのさ」

「そう……なのか?」


 ファルコの推理を聞いても、ユリウスはいまいちピンと来なかった。

 パロマの街に向かう前、プリマヴェーラと一対一で話した時は、そういった傾向は全く見られなかった。

 大きな気転があったとすれば、道中で周辺警戒のためにユリウスが紋章兵器を使った時。彼女に自分が紋章兵器の使い手であると知れた時から、彼女の中でユリウスに対する評価が変わったのかもしれなかった。

 だとすれば、プリマヴェーラのユリウスに対する感情は、恋愛感情とは到底思えなかった。


「…………」


 だが、ここでそれを指摘しても色々とめんどくさいことになりそうだったので、ユリウスは何も言わず、報告は以上だとヴィオラを伴って席を立つ。


「ユリウス……」


 立ち去ろうとするユリウスの背中に、ファルコから声がかかる。


「一つだけいいかい?」

「何だ?」

「君は、これからも僕の力になってくれるかい?」

「そんなこと、言うまでもないだろう。僕たち、共犯者なんだろ?」

「……そうだったね」


 それだけで納得したのか、笑顔を見せるファルコに、ユリウスも笑顔で返して執務室から退出する。



 部屋を出たユリウスは、扉が閉まったことを確認すると、


「…………フフッ」


 思わず込み上げてきた笑いを零す。

 ファルコに言った言葉に嘘はない。

 だが、それは『今現在は』という注釈がつく。


(まあ、精々利用させてもらうさ。兄も……妹もな)


 自分の復讐を果たす算段がようやくついてきたことに、ユリウスは笑いを堪えることができないでいた。

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