豹変
その後、火災に気付いた近くの住人の消火作業を見守りながら、全員で地下の入口から生き残りが現れないかどうかを観察していたが、幸か不幸かそういった人物は現れることはなかった。
「皆様、昨晩はお疲れ様でした」
翌日の早朝、大勢の人が行き交うパロマの街の入口で、いつものドレスに身を包んだプリマヴェーラがユリウスたち三人を前に労いの言葉をかける。
「非常に心苦しい作戦だと思いましたが、よくやってくれましたね」
「いえ……」
「あ、ありがとうございます」
以前に見せた冷たい態度とは打って変わり、優しい言葉をかけられると思わなかったセシルとブレットは面食らったような顔を見せる。
思わず素になっている二人を見て、ユリウスは苦笑しながらみっともない姿を晒していることを諭すように話しかける。
「……二人とも、プリマヴェーラ姫の御前だぞ」
「……ハッ」
「し、失礼しました」
ユリウスの言葉に我に返ったセシルたちは、慌ててプリマヴェーラに謝罪の言葉を口にする。
「いいえ、お気になさらないでください」
セシルとブレットの無礼な態度に気を悪くした様子も見せず、にこやかに笑ってみせる。
「すみません、一昨日は少し気が張っていたようで……お二人も気分を害されましたよね?」
「そ、そんなことは……」
「そうです! たまにはそんな日もありますよ。私だって、なんとなく気分が優れない日は、ユリウスやブレットの特訓メニューをいつもよりキツめに設定したりしますから」
どさくさに紛れてとんでもないことを言い出すセシルに、ユリウスとブレットは揃って苦虫を嚙み潰したような顔になるが、そんな様子が面白かったのか、プリマヴェーラは口元に手を当てて上品に笑う。
「フフ……三人は本当に仲がよろしいのですね」
「はい、大切な仲間ですから」
セシルは胸を張り、堂々と言ってのける。
(…………やれやれ)
恥ずかしい台詞を臆面もなく言ってのけるセシルに、ユリウスは気恥ずかしい想いを抱きながらも悪い気はしないと思う。
「…………ん?」
そこでプリマヴェーラと目が合ったユリウスは、彼女が何やら不服そうな顔をしていることに気付く。
プリマヴェーラは一体何が言いたいのだろう。そんなことを考えていると、プリマヴェーラが「コホン」と咳払いを一つして話をはじめる。
「それでは予定が一日押してしまいましたし、そろそろ城に戻りましょう……ユリウス様?」
「はい、なんでしょう?」
「昨日のこと、詳しい報告が聞きたいです。すみませんが、この後、わたくしの馬車に同乗してお話を聞かせていただけますか?」
「――っ、姫様、それは……」
護衛を務める者が、護衛対象を守るどころか一緒に馬車に乗っておしゃべりに興じる。そんなとんでもないことを言い出すプリマヴェーラに、セシルが思わず口を挟みかけるが、その前にユリウスが手で制す。
「セシル、プリマヴェーラ姫が望んだことなら、僕たちが口を挟む権限はない」
「そ、そうだけど……」
「心配するな。僕が姫様に失礼を働くはずがないだろう。お前とは違うんだ」
「うぎぎ……わかってるけど。なんかムカつく」
明らかに態度を変えると宣言されたことに、セシルは唇を尖らせるが、プリマヴェーラの手前、これ以上の文句を言えるはずもなく仕方なく引き下がる。
「さあ、それではユリウス様。いきましょうか」
セシルが引き下がったのを確認したプリマヴェーラは、満面の笑みを浮かべて、ユリウスの腕に自分の腕を絡める。
「城までの道のりは長いですから、じっくりとお話を聞かせていただきますからね」
「お、おい……あんまりくっつくなよ」
「いいではないですか。それよりあんまり素の態度を見せると、お二人に怪しまれますよ?」
「うっ……」
二日前とは豹変しているプリマヴェーラの態度に、既に怪しまれていると思うユリウスだったが、これ以上の厄介ごとに巻き込まれるのは御免だと思い、仕方なくプリマヴェーラの言う通りにすることにする。
「さあ、皆様、城に戻りましょう」
嬉しそうにユリウスに体を預けるプリマヴェーラに、
「……はぁ」
ユリウスは重々しい溜息を吐くことしかできなかった。




