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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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背負うもの

「火災では、何よりも気を付けなければならないことがある」


 真っ暗闇な空に吸い込まれていく黒煙を見ながらユリウスが呟く。


「人は本能的に炎を忌避しがちだが、火災の時に怖いのは火よりも煙だ。煙に巻き込まれたが最後、意識を奪われ、逃げる間もなく死ぬしかないのだ」


 滔々と語るユリウスの目には、黒ずくめたちが外へと運び出した荷物が煌々と燃えている様が映っている。

 連中が荷物を運び出し、プリマヴェーラの言葉を聞くために中に入ったところを見計らって地下へと降り、油を撒いて火を放ったのだった。

 火はあっという間に炎へと昇華し、全ての荷物へと燃え移る頃には、黒ずくめたちを炎の監獄へと閉じ込めたのだった。

 大量の荷物のせいで、通路の殆どは塞がれ、地下という密閉空間も相まって黒い煙は、地下全体へと広がっているだろう。こうなっては、中にいる者が外へと逃げ延びられることは不可能に近かった。


「もっとも、火に焼かれるより、煙で意識を奪われて死んだほうが、マシかもしれないがな……」

「まるで見てきたかのように言うんだね」

「…………そうでもない」


 ブレットの言葉に、ユリウスは小さく嘆息する。


 見てきたかのようではなく、実際にこの目で見たのだ。

 瞬間、ユリウスの脳裏に生まれ育った城が、一緒に過ごしてきた人が、卑劣な夜襲によって放たれた無数の爆発と、それによって起きた火災によって焼かれ、全てを真っ黒に塗り潰されていく様が次々とフラッシュバックしていく。

 そして、夜を塗り替えたこの世の終わりを告げるかのような紅い光の柱。正体不明のあの光によってユリウスの城は……


(…………クッ)


 親しい人たちの死に様を次々と思い出し、ユリウスは堪らず強くかぶりを振る。

 今は感傷に浸る場合ではない。

 プリマヴェーラの信者たちを一か所に集め、閉じ込めて火を放つとこまでは上手くいったのだ。

 後は、何かしらの理由で現場にいなかった者や、炎から逃れてきた者を見つけて順次処理していかなければならないのだ。

 この作戦は、何が何でも失敗は許されない。

 もし、一人でも生き残りがいたら、ここでのプリマヴェーラが行っていたことが世に出てしまうかもしれないのだ。

 それだけは絶対に避けなければならなかった。

 プリマヴェーラの聖女という立場は、今後も大いに役立つだろうし、彼女という強い光を放つ者がいれば、自分たちが影で動きやすくもなる。

 そして何より、ここで上手く事を運べば、彼女からの強い信頼を勝ち得ることができるのだ。


「…………ふぅ」


 心を落ち着けるため、ユリウスは深呼吸を繰り返しながら誰一人として逃すまいと炎を凝視する。



「こんなの、こんなのって…………」


 すると、ユリウスのすぐ隣から今にも泣いてしまいそうな悲痛な声が聞こえる。


「ねえ、ユリウス。本当にここまでやる必要ってあったの?」

「……どういう意味だ?」

「確かにあの人たちは、許されないことをしたわ。でも、あの人たちの気持ちもわかるってユリウスも言ってたじゃない。だったら、こんな方法を取らなくたって……」

「では、どうしたらよかったというのだ?」

「それは……例えば正面から乗り込んで、正々堂々と戦うとか?」

「相手はまともに武器を取り扱ったこともない連中でもか? お前は、正々堂々の名のもとに、戦う能力のない相手を一方的に虐殺する趣味でもあるのか?」

「ち、違う! 私は……」

「冗談だ。すまない……そんなつもりはなかった」


 今にも泣き出しそうに顔を歪ませるセシルの頭をポンポンと優しく叩きながら、ユリウスは苦笑する。


「今回の作戦は、全て僕の案で行ったことだ。今夜、ここで起こることの全ては僕の責任で、僕が背負うべき業だ。お前が気にする必要はないさ」

「ユリウス……いえ、そういうわけにはいかないわ」


 セシルは溢れてきた涙を拭うと、真摯な表情で話す。


「私たち、仲間じゃない。一人で何でも背負う必要はないわ。喜びも、苦しみも、等しく皆で分かち合いましょう」

「お前……」

「べ、別にユリウスだけを特別に扱うわけじゃないわ。ブレットもいいわね。あなたも私たちと同じ業を背負うのよ」

「ええっ!? まあ、別にいいけどさ……」


 セシルの無茶苦茶な要求に、ブレットは不承不承ながらも頷く。


「それより姉さん、ちゃんと真面目に仕事しようよ。あんまりいい気はしないけど、しくじるわけにはいかないだろ?」

「そうね、ユリウスが立てた作戦を台無しにするわけにはいかないものね。正直あまり乗り気じゃないけど、敵を逃さないようにしっかりと見張りましょ」

「お前たち……」


 セシルとブレットの言葉に、ユリウスは自分の口角が上がるのを自覚しながら力強く頷いた。


 その後、火災に気付いた近くの住人の消火作業を見守りながら、全員で地下の入口から生き残りが現れないかどうかを観察していたが、幸か不幸かそういった人物は現れることはなかった。

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