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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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接敵

 服を乾かして休憩したかったが、この場所に随分と長居してしまったことで危険が迫っているかもしれないと早々にこの場を立ち去ることにした。

 当然ながら街道のような主要な道は進むことができず、進むのは道なき道、藪を掻き分けての逃避行だった。

 幸運なのは、フォーゲル王国は国土の半分以上が森なので、夜のうちある程度距離を稼ぐことができれば、生き残れる確率が上がると思われた。


 そうして歩きはじめて二時間、深い森の中に二つの荒い息遣いが響く。

 辺りを注意深く観察しながら、ヴィオラは前を行くユリウスに気遣うように話しかける。


「申し訳ございません。濡れた衣服は重たいでしょう」

「はぁ……はぁ……大丈夫だよ。それより今は、少しでも距離を稼ぐことを考えないと……」

「そうですね。それでは、先を急ぎましょう」


 ユリウスの言葉が強がり以外の何物でもないのはヴィオラも重々承知だったが、こうやって体を酷使し続けることで辛いことを忘れられるならそれも良いと思い、異論を挟むことはしなかった。


 だが、ヴィオラのその判断は間違っていた。

 十分に周りに配慮していたつもりだったが、疲れから判断が鈍っていたのだ。


「――っ!? 殿下、私の後ろへ!」


 何かに気付いたヴィオラが鋭い言葉でユリウスを後ろへ誘導しながら、自分の迂闊さを呪う。


「……ヴィオラ?」

「お静かに、どうやら囲まれているようです」


 相手がどこの誰だかわからないが、こんな真夜中に鉢合わせするような相手など、まともな相手のはずがなかった。

 ヴィオラたちが足を止めて臨戦態勢を取ると、周辺の身の丈ほどもある草からガサガサと草を掻き分ける音が聞こえ始める。

 こちらが補足したことが相手にも伝わったのか、最早その姿を隠すつもりはないようだった。


「へっへ……もう、逃げないのかい?」


 藪の中から現れたのは、想定した敵の中で二番目に悪い相手だった。


「ようやく止まりやがったか。全く、何処まで逃げるつもりだったんだ」

「大方、隣の国まで逃げれば安全だと思ったんだろうぜ」

「まともな方法で国境なんて超えられるはずないのにな。だが、あの情報を信じてよかったじゃねぇか。これで暫くは金に困ることもあるまい」


 次々と暗闇の中から現れたのは、見るからに凶悪そうな顔をした無法者たち、山賊だった。


「ヴィオラ……」


 十人を超える山賊たちに取り囲まれ、ユリウスは不安気にヴィオラの服の裾を掴む。

 すると、ヴィオラは油断なく身構えながら、ユリウスに向かって微笑む。


「安心してください。殿下の身は、この命に賭けてもお守りいたしますので」

「それじゃダメだよ。ヴィオラも必ず生きるんだ!」

「殿下……」


 ユリウスの咎めるような強い口調に、ヴィオラは思わず苦笑してしまう。

 ついさっき、二人で行きていこうと誓ったはずなのに、主を守ろうとしてついそれを忘れてしまっていた。

 ヴィオラは微笑を浮かべると、ユリウスに向かって力強く頷く。


「勿体なきお言葉、痛み入ります。必ず生き延びてみせましょう」


 そう言うヴィオラだったが、状況は決して甘くないことを承知していた。

 山賊たちの様子を見る限り、大方、攻めて来た敵から生き残りがいるかもしれないという情報をリークされ、手頃な報酬と引き換えに追撃を任されたのだろう。

 たった数人を見つけるために夜の山を移動するよりは、こういった輩を雇う方が効率が良いからだ。

 そして、その目論見は見事に成功し、自分たちはこうして奴等に追いつかれてしまったという訳だった。

 生き残るのは難しいかもしれないが、最悪自分の身を挺してでもユリウスだけは生き延びさせてみせる。密かにそう決意するヴィオラに、山賊の頭目と思われる眼帯に禿頭の男が話しかけてくる。


「それで、俺たちはお前たちを追ってきたわけだが……まずは見せてもらおうか?」

「見せる……何をです?」

紋章兵器マグナ・スレストだよ、紋章兵器。持っているんだろう?」


 その質問に、ユリウスとヴィオラは顔を見合わせる。

 連中の言うことを素直に従うべきかどうかを、長年の付き合いからわかる目だけで相談する。

 いきなり襲ってこないということは、自分たちに何か価値があると、交渉する余地があるということだろう。


 それが吉となるか凶となるかはわからないが、断る理由はなかった。


「……わかった」


 ユリウスはヴィオラに自分に任せるようにとアイコンタクトをして前へ出ると、禿頭の頭目へと話しかける。


「でも、その前に一つ、紋章兵器を見てどうするんだ?」

「へへっ、後ろに隠れていたご主人様が威勢よく出てきたと思ったらそんなことか」


 ユリウスを見て頭目は明らかに侮蔑の視線を向けてくるが、質問には答えてくれる。


「簡単な話さ。受けた依頼は持ち主の生死を問わずに紋章兵器を持ち帰ることだが、連中におとなしく手に入れた紋章兵器を差し出したところで、報酬を貰う前に殺されるってオチなのは十分にわかっている」


 頭目は前歯の欠けた黄色い歯を見せて不敵に笑うと「だからよ」と言って両手を広げて声高々に叫ぶ。


「俺たちで紋章兵器を手に入れ、その力を使って成り上がって見せるってな。俺たちが有効活用してやるからお前の持っている紋章兵器を差し出しな。それまでは命を奪わないでやるからよ!」

「そうか……わかった」


 この男は、自分たちは馬鹿じゃないと言ったが、やはり馬鹿だなと思いながらユリウスはインスレクト家の家紋が刺繍された袋を取り出し、中から子供の拳ほどの大きさの箱を二つ取り出した。

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