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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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聖女の矜持、悪魔の囁き

「……ウス様…………ユリウス様ってば!」

「……え?」


 激しく体を揺さぶられる感覚に、ユリウスの意識が覚醒する。

 声のした方に目を向けると、ふくれっ面のプリマヴェーラが目を三白眼にして睨んでいた。


「さっきから何度もお呼びしているのに、どうして無視するのですか」

「あ、ああ、すまない。考えごとをしていた」


 素直に謝罪をするユリウスに、プリマヴェーラが問題ないとかぶりを振って微笑を浮かべる。


「考えごとというのは、紋章兵器マグナ・スレストの代償についてですね。その点については、心配は無用ですよ」

「何だと?」

「だって、ユリウス様が紋章兵器の代償を支払って怪我を負ったとしても、わたくしがたちまち治して差し上げるからです」

「…………そうか」


 プリマヴェーラの紋章兵器があれば、代償の心配はしなくていいのだ。

 アイディールアイズを使い続ける代償として、何を支払うのかは未知数だが、体が動かなくなるなどの心配はしなくてよさそうだった。

 そんな安堵の様子が表情に出ていたのか、プリマヴェーラは口元に手を当ててクスクスと上品に笑いながら釘を刺してくる。


「ユリウス様、今はわたくしとお話しているのですから、それを忘れないで下さいね」

「ああ……すまなかった」

「本当ですよ。わたくし、ユリウス様と出会えて本当に嬉しかったんですからね」


 プリマヴェーラは真剣な表情になると、ユリウスの目を真っ直ぐ見つめながら話す。


「ユリウス様は、わたくしの願いを叶えてくれる方ですから」

「えっ?」


 思わず漏れた一言に、ユリウスは自分の耳を疑う。


「お前の願いを叶える……僕が?」

「ええ、わたくしはそう確信しています」


 訝し気に眉を顰めるユリウスに、プリマヴェーラは歌うように話し始める。


「ユリウス様の目的と、わたくしの願いは似ているのですよ」

「僕の目的を知っているのか?」

「詳しくは存じ上げません。ですが、初めてお会いした時の様子で、この方は強大な意思を持って動いていると……そして、それは世界に変革をもたらすほどの力を秘めている、と」

「それがお前の願いとどんな関係が?」

「わかりませんか? わたくしの願いも世界に変革をもたらすこと……これまで以上に、より多くの人に救済をお届けしたいのです」

「ハッ、何を言って……」


 一体、それの何処が自分の復讐と似ているんだ。と口にしようとしたところで、ユリウスはある事実に気付いて思い直す。


 プリマヴェーラの言う救済とは、果たして皆が慕う聖女として一人でも多くの人を救うことなのだろうか?


 彼女は今まで、街での活動についてそのようなことを言っていたか?


 先程、救済と称して男たちを殺した時、彼女はどんな表情をしていた?


 そして、彼女の兄であるファルコは、彼女の本質は絶対に聖女なんかではない。近いうちにユリウスもその本質に気付くだろう。と言っていたことを思い出す。


 これらのことを踏まえたうえでの、これまでのプリマヴェーラの言動を行動、そして、ユリウスの目的を知って尚、ここまで寄り添おうとする行動から推察される結論は一つ。


 ユリウスがプリマヴェーラを利用しようとしているように、プリマヴェーラもまた、ユリウスを利用しようとしているのだ。


 その目的は……


(余りにも馬鹿馬鹿しい結論だが、おそらく間違ってはいないはずだ)


 ユリウスは唇の端を吊り上げて邪悪な笑みを浮かべると、プリマヴェーラに手を差し伸べる。


「いいだろう。そこまでわかって言っているのなら、お前の願い……僕が叶えてやろうじゃないか」

「本当ですか!? ありがとうございます」


 プリマヴェーラは、パッ、と花を咲かせたような眩しい笑顔を浮かべると、ユリウスの首元に抱きつく。

 その大胆な行動に、ユリウスは思わず赤面するが、イニシアチブを取られないようにと、そっぽを向いてぶっきらぼうに言う。


「……フン、言っておくが、僕はお前に優しくなんかしないぞ」

「構いません。わたくしも別に、愛の囁きを求めているわけではありませんから」


 でも、


「その、お前という呼び方、どうにかしていただけませんか?」

「心配するな。皆の前では今まで通り、プリマヴェーラ様と呼んでやるよ」

「そうではありません。お前、という呼び方を止めて欲しいのです」

「……じゃあ、何て呼べばいいんだ?」

「どうか、プリム、と呼び捨てて下さい。親しい者はそう呼んで下さいますから。その代わり、わたくしもユリウスと呼び捨てさせて下さい」

「……わかった。これから頼むぞ。プリム」

「はい、これで契約完了ですね。ユリウス」


 プリマヴェーラは嬉しそうに微笑むと、喜びを爆発させるようにユリウスのことを再びきつく抱き締めた。

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