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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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代償は……

 ユリウスと対峙したプリマヴェーラは、子供のような無邪気な笑みを浮かべながら楽しそうに話す。


「まさか一日に二度も、こうしてユリウス様と二人でお話できるとは思いませんでした」

「御託はいい……その前に一つ答えてもらおうか?」


 もう取り繕っても仕方がないと判断し、ユリウスは素になってプリマヴェーラに問う。


「どうして僕が見ていることに気付いた。それもお前の紋章兵器マグナ・スレストの力なのか?」

「フフッ、本当に何も知らないのですね」


 口に手を当てて、上品に笑いながらプリマヴェーラが話す。


「ユリウス様の質問に答えるのであれば、答はノーです。この子にそういった索敵能力はございませんわ」

「では、どうして気付いた。まさか、見えていないのにカマをかけただけだ。とか言わないよな?」

「ええ、それはありえませんわ」


 プリマヴェーラは大きく頷くと、自分の胸に手を当ててユリウスが見ていることに気付いた秘密について話す。


「実はわたくし、紋章兵器の力を感じることができますの」

「感じる?」

「ええ、漠然とですが、紋章兵器が放つ力の奔流のようなものを感じることができるのです。先程も見えてはいませんでしたが、室内に紋章兵器の力が滞留していたのは気付いていました。そして、そんな力を持つ紋章兵器を持っているのは、一人しかいないということも、ね」

「ということは、僕が紋章兵器を持っていることも……」

「知ってはいました。ただ、初めてお会いした時は、わたくしも気が動転していたので、もしかして、ぐらいの気持ちでした。確信を持ったのはここに来る途中、ユリウス様がおそらく、怪しい者がいないかどうか索敵するために紋章兵器を使った時です」

「あの時か……」

「ええ、上空から紋章兵器の力を感じましたから……おそらくユリウス様が紋章兵器の力を使って上から索敵しているのだろうと推察しました」

「ついでに僕の力もお見通しってわけか……」


 特に考えなしに紋章兵器の力を使ったことで、保持者であることを知られたばかりか、能力まで看破されたことにユリウスは苦虫を嚙み潰したような顔をし、堪らず紋章兵器が入った目を覆う。


「ああ、そんな顔をしないでくださいまし」


 顔を歪ませるユリウスに、プリマヴェーラは手を伸ばしてくる。

 そのままユリウスの顔を両手で包み込むようにすると、ユリウスの両目に装着された紋章兵器を食い入るように見る。


「なるほど、両目に紋章兵器が付いているのですね……これはどうやって取り付けたのですか?」

「…………別に、元々あった目を抉り出して、新たに付けただけだ」

「まあ、それはさぞ痛かったでしょう……かわいそうに心中、お察ししますわ」

「やめろ!」


 優しく、労わるように撫でてくるプリマヴェーラの手を、ユリウスは乱暴に振り払う。


「僕を憐れな者のように見るな! 僕は……僕は望んでこの力を手に入れたんだ! 生きていくために……復讐するために必要な力だから手に入れた。それだけだ」

「そう……ですか。失礼しました」


 触れてはいけない領域に踏み込んだと理解したのか、プリマヴェーラは素直に謝罪の言葉を口にする。

 シュン、と肩を落とし、あきらかに気落ちした様子のプリマヴェーラを見て、ユリウスは面喰ってしまう。


 見知らぬ男たちを……それも四人も立て続けに鏖にするほどの胆力を持っているはずなのに、ちょっと強く当たっただけで、こんなにもしおらしくなってしまうプリマヴェーラという少女の人間性が全く読めなかった。

 だが、ここで先程の彼女の無礼についてなかったことにすることはできないので、ユリウスは話題を変えることにする。


「あ~、その……何だ。僕だけお前に紋章兵器の力を知られるのは不公平だから、お前の紋章兵器について教えろ」

「えっ? あっ、はい。わかりました」


 プリマヴェーラは素直に頷くと、指から紋章兵器を取り外してユリウスへと差し出す。


「この子は、エレオスリングという名の紋章兵器で、ご存知の通り、他者の傷を癒す力があります」

「……この指輪を装着すれば、僕でもその力を使えるのか?」

「それは難しいですね。紋章兵器は兵器に対する適性がないと使えないのです。適性とは、兵器の力に沿った強い志を持つ者と言われています」

「なるほど……」


 志について心当たりがあるわけではないが、ユリウスは他者の傷を癒す効果のあるエレオスリングを装備することは、絶対にできないであろうことだけは理解できた。


「それで、どうしてさっきは男たちを殺していたんだ? 僕が見た限り、この指輪が男たちの血や贓物を吸っていたように見えたが……」

「ユリウス様は、紋章兵器の代償に付いてご存知ありませんか?」


 その質問にユリウスが首を横に振ると、プリマヴェーラは頷いて紋章兵器の代償について説明してくる。


「紋章兵器は確かに強力な力を持った平気です。ですが、その力を発揮するためには、当然ながら代償が必要となるのです……例えばこの子は、装着した者の命を代償として傷を癒します」

「何だと!? それじゃあ、お前の命は……」

「ご心配には及びません。そのためのあの男たちです」


 装着者の命を削って傷を癒すのがエレオスリングの本来の力だが、その代償は何も装着者の命じゃなくても、他者の命でも構わない。そこでプリマヴェーラは、どの街にでもいる必要とされていない人間……主に犯罪者や、嫌われ者、反社会的行動を繰り返し行う無法者を拉致しては、エレオスリングの力を発揮するための贄とすることにした。


「わたくしが聖女として活動すれば、その恩恵に授かろうと不埒な者が寄って来ることはわかっていました。だからわたくしは、それを逆に利用しようと思ったのです」


 そこでパロマというミグラテール王国内でも注目されていない小さな村に目をつけ、多額の資金を投じて贄を処理するための巨大な施設へと造り変えたのだという。


「真面目に生きようとする人々を助けるため、それを邪魔する者を排除し、困っている人たちを助ける糧とする。このわたくしの考えに、多くの人が賛同してくださいました。ただ、一人を除いて……」


 プリマヴェーラは不満を露わにするように爪を噛みながら、その一人の名を口にする。


「ファルコ兄様だけは、わたくしの考えは間違っていると……誰かを犠牲にするやり方は認められないと仰るのです。ユリウス様……わたくし、間違っていますか?」

「……さあな、興味ない」


 ユリウスは素っ気なく答えると、自分の目に手を当てる。

 紋章兵器を使う上で代償が必要なんて話は、これまで聞いたことがなかった。

 だが、正式に紋章兵器を受け継いだプリマヴェーラが言うことが嘘ではないのは、ファルコから学んだ洞察力で判断できた。


(じゃあ、僕が紋章兵器を使うのに必要な代償は……)


 これまで何度も使ってきたが、今のところは体に何かしらの以上は発生していない。

 だが、これからは?

 何年、何十年と使い続けて何の変化もないと言い切れるだろうか。


(だけど、この力を捨てることはできない……)


 紋章兵器無しで、復讐が果たせるとは思えないからだ。

 ユリウスとしては、せめて復讐が果たせるその日が来るまで、壊れないでくれと祈るしかないのであった。

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