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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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常闇からの誘い

 僅か数十分で、プリマヴェーラは四人の男たちを指輪の紋章兵器マグナ・スレストの贄にして殺してみせた。


「聖女様、ご苦労様でした」


 黒ずくめの人物の一人がプリマヴェーラに恭しく頭を下げて礼を述べると、他の者に四人の死体を運び出すように指示を出す。


 男たちに繋げられた鎖を外すが、大きく引き裂かれた腹部からは血の一滴も流れて来ない。それどころか、僅かに見える裂け目は、大きな空洞になったかのように何も入っておらず、プリマヴェーラの指輪によって残らず平らげられたと思われた。

 無残な死体へと変わり果てた男たちの死体を、黒ずくめの人物たちは乱暴な手つきで麻袋へと次々と詰め込んでいく。


 全ての死体を麻袋に詰め終えた黒ずくめの人物たちは、改めてプリマヴェーラへと向き直る。


「それでは、聖女様。本日はお疲れ様でした」

「ええ、あなた達も後始末をお願いしますね」

「お任せください。彼等を野に返してこその救済ですからね」

「この辺りには狼も多いですから、数日と経たずに野に帰ることでしょう」

「その後は、燃やして跡形も残さず処分させていただきますので、ご安心を……」


 黒ずくめの人物たちは各々物騒なこと言いながら麻袋を手にする。


「それでは聖女様、我々は失礼しますが、聖女様は?」


 問われたプリマヴェーラは、手に嵌めた指輪を掲げて優雅に笑う。


「わたくしは、もう少しここでこの子を休ませてあげます。今、この子は気が立っていますから、近づくと危険ですよ?」

「そ、そうですか……わかりました。よし、それじゃあ運び出すぞ」


 巻き込まれたらことだと、黒ずくめの人物は慌てたように仲間たちに指示を出して立ち去る準備をはじめる。


(…………マズい)


 黒ずくめの人物たちの声を聞いたユリウスは、ここにいたら中から出てきた人物と鉢合わせしてしまうと思い、思わず腰を浮かしかけるが、


「それでは、聖女様。失礼します」


 どうやら奥に別の出入り口があるのか、黒ずくめの人物たちは部屋の奥へと消えて行った。


(そうか、街の外に捨てるのならば、別の道を使うのは当然か……)


 既に深夜といっても差し支えない時間帯だといっても、街の中を黒ずくめの人物が死体を持って徘徊していたら、誰かしらの目に留まるかもしれないし、そういった噂の一つでも流れてしまったら、プリマヴェーラが言うところの救済を続けることも難しくなってしまうだろう。

 一先ずの危機を脱したことに、ユリウスは安堵の溜息を吐いて再び腰を下ろす。


 黒ずくめの人物たちが消えて行った先がどうなっているかも気になるところだが、これ以上の詮索は危険だと判断し、ユリウスはこの場から立ち去ることを決める。

 そうして、今度こそ腰を浮かして立ち上がると、


「…………フフッ、私の救済はどうでしたか?」


 部屋の中にただ一人残ったプリマヴェーラが、突如として誰もいない宙へ向かって話し始める。


「驚きましたか? 幻滅しましたか? それとも恐怖で震えて動けませんか?」


 コロコロと笑いながら話すプリマヴェーラは、一見すると何もない宙へ話し続ける気が狂った人物のようにも見える。


「ほらっ、せっかくですから、ここに来てわたくしとお話しませんか?」


 だが、プリマヴェーラの目は、確実にあるものを捉えていた。


(まさか、見えているのか?)


 紋章兵器越しの視界にも拘わらず、プリマヴェーラと目が合っていることに、ユリウスは戦慄する。

 かつて、自分の能力が他者に看破されたことはない。

 ファルコの洞察力もかなりのものだが、実際にユリウスが何を見ているかまでは、把握している様子はなかった。

 だが、プリマヴェーラは、ユリウスが何処から覗いているのかを完全に把握しているようだった。


「もう、聞いているのですか?」


 プリマヴェーラは、ぷくっ、と可愛らしく頬を膨らませると、腰に手を当てて怒りを露わにする。


「早く来てくれないと、人を呼びますよ。そうなって後悔するのは、誰だと思いますか?」

「…………チッ」


 そんな言い方をされては、この場に不法侵入しているユリウスとしては、出ていく以外の選択肢はなかった。

 昼間の反省点を活かし、護身用の小さなナイフが腰のベルトの裏にあることを確認したユリウスは、意を決して立ち上がり、プリマヴェーラがいる室内を目指す。

 震えそうになる足をどうにか動かして木の扉を開けて室内へと入ると、


「フフッ、ようやくお顔を見せてくださいましたね。ユリウス様?」


 笑顔のプリマヴェーラが出迎えてくれた。

 だが、その笑顔はいつもと同じはずなのに、とても異質なものに見えた。

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