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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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救済

 程なくして準備が整ったのか、全身黒ずくめの一人がプリマヴェーラの下へと赴き、恭しく頭を下げる。


「聖女様、それでは今日の救済をお願いします」

「ええ、わかりました」


 黒ずくめの人物たちに反して、真っ白なドレスに身を包んだプリマヴェーラは鷹揚に頷くと、椅子から立ち上がって拘束された男の一人の前に立つ。

 すると、銀のトレーを持った黒ずくめの人物がやって来て、男の脇に立って説明を始める。


「聖女様、この者は酒に酔っては女性に乱暴を働くという行為を繰り返していました。本日も昼間から酒に酔って酒場の女性に不埒な行いをしたにもかかわらず、一切の謝罪の言葉もなかったそうです」

「そうですか……それは、救済が必要なようですね」


 プリマヴェーラが頷くと、黒ずくめは男の目隠しを外す。


「――っ!?」


 目隠しを外された男は、周りの状況と目の前に立つプリマヴェーラに驚きながらも、何かを必死に伝えようする。


「……ふがっ!? ふがっ!?」


 しかし、口には猿ぐつわが嵌められているため、男が発する言葉が意味を成すことはないが、血走った目と挑発するような動作から、男が禄でもないことを口走っていることだけはわかった。


「…………やれやれですね」


 プリマヴェーラは大袈裟に嘆息すると、憐れむように男を見やる。


「あなたは本当にどうしようもない人のようですね……でも、ご安心ください」


 憐れむ目から一転して、プリマヴェーラは優雅に微笑んで見せる。


「私はそんなあなたも救済してみせますよ」


 そう言うと、プリマヴェーラは黒ずくめの人物が持つ銀のトレーからナイフを一本手に取り、男の腹部へと容赦なく突き立てる。


「――っ!!」


 プリマヴェーラの凶行に、男は目を限界まで見開き、余りの痛みにのたうち回る。

 ナイフが突き立てられた腹部からは血が止め処なく溢れ、返り血がプリマヴェーラの白いドレスを容赦なく赤く染めていく。


「……まだ、終わりませんよ」


 プリマヴェーラは返り血など全く意に返さず、手にしたナイフに力を込め、男の腹部を縦に割く。

 すると、傷口からずるりと腸が地面へと落ち、男は涙をボロボロと零しながら苦しみ、悶え、声にならない叫び声を上げ続ける。


「フフフ、ようやくらしくなってきましたね」


 苦しむ男の血を浴びながら、プリマヴェーラはうっとりしたように笑顔を浮かべた。



「な、何をやっているんだ……」


 紋章兵器マグナ・スレストで中の様子を伺っていたユリウスは、室内で行われているプリマヴェーラの凶行に言葉を失っていた。

 世間から聖女として慕われているプリマヴェーラの豹変ぶりにも驚いたが、彼女の行動の意味がわからなかったのだ。

 ただの頭のイカれた憂さ晴らしとは思いたくないが、その可能性も否定できない。そんな評価をユリウスが下そうとした時、


「……ん?」


 そこである事実に気付く。


 プリマヴェーラは、腹を切り裂かれた男の傷口から血を浴び続けているのに、どういうわけか彼女の体はそこまで血で汚れていないのだ。


「まさか……」


 そこでユリウスはある可能性に気付き、プリマヴェーラの右手の薬指に嵌められた紋章兵器を見やる。

 プリマヴェーラの指輪は、禍々しい赤い光を放ち続けていた。

 だが、ただ何の意味もなく光っているわけではない様だった。

 脈打つように、赤い明滅を繰り返すたびにプリマヴェーラの体に付着した血が綺麗になっていくように見える。


 それはまるで、指輪がプリマヴェーラに付いた血を吸っている様だった。


 事実、傷口から溢れる血の勢いは弱まってくると、浴びた血の流れが指輪へと流れていくのがはっきりと確認でき、プリマヴェーラの体は何事もなかったかのように綺麗になる。


 殆どの血を失い、男ががっくりと項垂れると、プリマヴェーラは指輪を男の傷口へと当てる。


「さあ、喰らいなさいな」


 プリマヴェーラが歌うようにそう言うと、指輪が一際強く光り出す。


「――っ、ふうううううううううううう!! ふううううううううううううっ!!」


 直後、殆ど意識がなかったはずの男が顔中の穴という穴から液体をまき散らしながら暴れ出す。



(…………なってこった)


 男の傷口から聞こえてくる何かを咀嚼するような音を聞きながらユリウスは絶句する。

 どうやらプリマヴェーラが持つ紋章兵器は、思った以上に危険な代物のようだ。


 咀嚼する音が止む頃には男は完全に絶命し、それを確認したプリマヴェーラは、次の男を救済という名の贄とするために、男の犯した罪を黒ずくめの人物に尋ねるのであった。

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