辿り着いた先で
「んきゃっ!?」
ユリウスにお尻を蹴られたセシルは、可愛らしい悲鳴を上げながら隠れていた路地から飛び出す。
「「「…………あっ」」」
すると、必然的に地下への入り口の見張りに立つ男二人と目が合う。
思わぬ遭遇に顔を青くさせるセシルに、ユリウスは片手を上げて気楽に言ってのける。
「というわけだ。精々、立派に囮を務めてくれよな」
「んな……んな……」
余りの物言いに、セシルは開いた口をパクパクと開いたり閉じたりしていたが、セシルに気付いた見張りの男たちが近づいてきたので、
「お、覚えてなさいよ!」
捨て台詞を吐くと、見張りの男たちへと突撃していく。
「「――っ!?」
逃げると思ったセシルが向かってきたことに、二人の男たちは思わず身構えるが、
「フン」
セシルは目にも止まらぬ速さで二人の間をすり抜け、十分な距離を取ってから嘲笑うように手にした者を見せつける。
「危ないから、これは預かっておくわね」
「何を言って……」
言われたことの意味が分からず、男の一人が怪訝そうに眉を顰めるが、
「あっ、お、俺たちのナイフが……」
もう一人がセシルが手にした物の正体に気付き、慌てたような声を上げる。
「おいっ、何をするんだ」
「そいつを返すんだ」
「いやよ。返して欲しいなら、力尽くでやってみたら?」
セシルは手にしたナイフを見せびらかすように男たちを挑発すると、その場から脱兎の如く駆け出す。
「あっ、待て!」
「ふざけんな、今すぐ返せ!」
男たちは逃げるセシルを慌てて追いかけるため、持ち場を放棄して立ち去ってしまった。
「…………嘘だろ」
まさかあんな単純な手に引っかかるとは思わなかったが、これといった打ち合わせもしていないのに、見事に見張りの男たちを入り口から引き剥がしたセシルの手腕に、ユリウスは少しだけ彼女の評価を改めることにした。
「まあいい、今は一刻も時間が惜しい」
あの男たちが正気に戻って、今すぐにでも戻ってくるかもしれない。ユリウスは姿勢を低くしてこっそりと地下への入り口へと辿り着くと、中の様子を確認する。
中は思ったより深いようで、外から覗いただけでは階段の底は見えなかった。
当然ながらこれといった光源はないので、中がどれほど広いのか、どれだけの人がいるのかがわからない。
「だが、それは向こうも同じということだ」
見えないのは自分だけではない。条件が同じであれば、紋章兵器を持つ自分の方が有利なはずだ。冷静に状況を分析したユリウスは意を決し、地下へと続く階段を降り始める。
地下へと続く通路は階段も壁も全てが石造りで、外と比べてかなり冷え込むので、ユリウスは思わず身震いをする。
視界が殆ど効かないので、手探りで転ばないように注意しながら進む。
「…………」
階段を一段降りる度に靴底が石を叩く音が思ったより大きいことに肝を冷やすが、幸いにも誰にも見咎められることなく階段の終点へと辿り着くことに成功する。
「…………ふぅ」
地下部分は階段とは違って床が土で、足音の心配がないことにユリウスは安堵の溜息を吐く。
そして、そこにはもう一つ、ユリウスが切望していたものがあった。
「…………明かりだ」
地下の通路の向こう、簡素な木の扉が僅かに開いており、そこから僅かながら光が漏れ出ていたのだ。その光のお蔭で、地下通路全体の把握もできるのは非常にありがたかった。
どうやら地下には、光が漏れている部屋以外には部屋はないようで、あるとすれば土が剥き出しの壁の凹凸によってできた無数の死角ぐらいだった。
「…………これは、好都合だな」
この状況は正に渡りに船と、ユリウスは壁の死角部分に自分の体を押し込めると、左目を覆って右目の紋章兵器を発動させる。
いつもの上空から見る能力ではなく、室内を観察する能力を使って扉の向こうへ視界を飛ばす。
果たして扉の向こうには、異様な空間が広がっていた。
まず目につくのは、全身を黒服で覆った謎の集団。
頭から足の先まで全てが黒一色の衣装で覆われ、果たしてそれが男なのか、女なのかもわからない集団が十人ほど。
次に目に入って来たのは、壁に四肢を拘束され、目隠しと口に猿ぐつわを噛まされた状態の四人の男たち。
こちらは顔が覆われていないので全員が男だということがわかり、その内の二人は、路地裏で少女に言い寄っていた男たちだった。
そして部屋の一番奥、全員を見渡せる位置にこの場に似付かわしくない赤い豪奢な椅子に腰かけた人物がいた。
「やはりか……」
それを見たユリウスは、流れてきた汗を拭い、口が渇いていたことに気付いて唾を飲み込む。
その人物は、ミグラテール王国王女にして、ユリウスたちが護衛している人物、プリマヴェーラ・ユースティアだった。




