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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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繋がる点

 ブレットが入った建物は、パロマの街の至る所にある宿屋の一つだった。

 決して広くはないが、誰にも邪魔されずに広場を一望できる部屋にユリウスたちを案内したブレットは、得意気に鼻の下を擦りながら話す。


「どうだい? 見るならここが最適だと思わないかい?」

「凄いじゃない。ブレット、あんたにしては本当に上出来だわ」

「ありがとう、姉さん。どうだいユリウス。こんないい場所からプリマヴェーラ様を見られるなら、何かあった時の対処にも困らないと思わないか?」

「確かにここなら申し分ないが……」


 ユリウスは部屋の様子を見ながら、懸念していたことを質問する。


「こんな場所に設けられた部屋なら、かなり高い料金を請求されたのではないか?」

「そうなの?」


 不思議そうに首を傾げるセシルに、ユリウスは広場を指差しながら説明する。


「考えてもみろ。これだけ多くの人が集まる場所を、こうして邪魔されずに見ることができるんだ。ここなら通常より高い料金設定をしても、喜んで金を払う奴はいるだろうから、それに合わせて料金は跳ね上がっているはずだ」

「そうなんだ。ねえ、ブレット。この部屋借りるのに、一体いくら払ったの?」

「…………うっ」


 セシルが何の気なしに質問すると、ブレットは気まずそうに視線を逸らす。

 そんな態度を取ったら、疚しいことをしているも同然だとユリウスは思う。


「ブレット~~?」


 当然ながらセシルも同じ結論に至ったようで、部屋から逃げようとする双子の弟を素早く捕まえると、逃げられないように頭を脇に挟んでロックする。


「言え! 一体いくら払ったのよ! まさか借金とかしていないでしょうね?」

「し、してないよ。ただ…………」


 ブレットは観念して宿の店主に払った金額をセシルに話す。


 その金額は、ミグラテール王国の王都である、アクイラの高級宿屋に匹敵するほどの金額で、今回の遠征で用意された十分過ぎるほどの軍資金の殆どを吹き飛ばすほどの金額だった。


「で、でも仕方なかったんだ。僕たちの到着が遅かったから、適正料金の宿屋はどこもいっぱいで、姉さんもユリウスも汚いところじゃ納得してくれないし、馬も安心して預けられる場所じゃないとダメで……そうなったら、必然的にこういった店しかなかったんだよ!」

「……なるほどな」


 事情を理解したユリウスは、セシルにブレットを解放するように指示する。


「まあ、既に払ってしまったものは仕方ない。ただ、これで用意してきた金は殆ど尽きてしまったから、城に戻るまで食事はなしということになるな」

「ちょ……本気なの?」


 信じられないと目を剥くセシルに、ユリウスはやれやれと肩を竦める。


「別に一日、二日、何も食べなくても死ぬことはあるまい。それに、どうしても腹が空いたのなら、持ってきた保存食がある。どうしても我慢できないのであれば、それを食べて飢えを凌ぐのだな」

「そ、そんな……せっかく美味しそうなお店をいくつか見繕っておいたのに……」


 三人の中で一番の大喰らいで、食事を摂ることを何よりも楽しみにしているセシルは、今日のこれからの食事が全てなくなるとわかり、がっくりと項垂れる。


 普段ならここで理不尽な怒りをブレットやユリウスにぶつけるのだが、どうやらその行為に至るほどの気力も失われているようだった。


「ね、姉さん……」


 項垂れるセシルに、心優しいブレットはどう慰めたものかとオロオロと狼狽し出すが、そんなブレットにユリウスは肩を叩いてかぶりを振る。


 下手に刺激をすると、とばっちりがくるぞ。


 口には出さずに目でそう訴えると、ユリウスの意図に気付いたブレットは小さく頷き、セシルから距離を取る。

 広場が見える窓へと移動したユリウスは、まだ心配そうにセシルを見ているブレットを励ますように言う。


「心配しなくても、プリマヴェーラ様が来れば嫌でもいつもの調子に戻るさ」

「そうかな……いや、そうだね。姉さんは誰よりも騎士としての自分に誇りを持っているかね」

「そういうことだ。僕たちにできることは、彼女が後で罪悪感に悩まないように、拳が届かない距離にいることだ」

「ハハハ、君は本当に調子がいいね」


 ユリウスの冗談にブレットは呆れたように笑顔を見せると、いよいよプリマヴェーラ登場の時間が迫って来てより一層熱気が増した広場を見やる。

 プリマヴェーラが姿を見せれば、自分の姉は必ず復帰すると信じて。



 ほどなくして、広場の方から一際大きな歓声があがる。


「……来たようだな」


 そう言うユリウスの視線の先には、護衛の者たちに率いられて悠然と歩くプリマヴェーラの姿があった。

 民たちに笑顔で手を振りながら歩くプリマヴェーラの様子は、正に皆が憧れる聖女そのもので、近くにいる者たちの目は喜色に染まり、彼女に手を握られた者は嬉しさの余り気を失っていた。

 まるで冗談のような光景に、ユリウスは呆れたように嘆息する。


「…………相変わらず凄い人気だな」

「そりゃそうよ。なんてったって、プリマヴェーラ様ですもの」


 ユリウスの声に、いつの間にか復活したセシルが応える。


「ユリウス、ブレット、二人ともいい? 目を皿にして怪しい奴がいないかどうか細かくチェックするのよ?」

「目を皿にしたら、何も見えないのだが……」

「ああん?」

「……冗談だ」


 セシルに凄まれたユリウスは降参を示すように両手を上げると、せめて真面目に仕事をしているアピールだけでもしておこうと、窓から広場全体を見渡す。


(怪しい奴を探せというが……)


 広場には数え切れないほどの人が集まっており、この中から特定の人物、特に怪しい人間を探せというのはかなりの無茶な話であった。


(まあ、ダメもとではあるが……)


 そこでユリウスは左目の紋章兵器を発動させ、何か脅威となるものがないかを見てみることにする。

 だが、この力は、無機物はユリウスがそれを認識し、人の場合は相手がユリウスのことを認識していなければ光らないので、殆ど意味をなさない行為だった。

 だからこれはほんの気まぐれ。セシルに言われたから仕方なく行うことのはずなのだが、


「えっ?」


 ユリウスの目に、二つの光点が映る。

 一つは言うまでもなくプリマヴェーラだった。その色は脅威ではないことを示す青色だ。

 そして、もう一つの光点は、プリマヴェーラの後方で彼女に近づく者がいないかどうかを見張る者で、色は青色で脅威ではないことを示していたが、


「…………あいつ」


 その光点の正体は、路地裏でユリウスが助けようとして、逆に助けられた少女だった。

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