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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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流されて……

 女性の強引な手引きにより、ユリウスは無事に表通りに戻ることができた。


「それじゃあ、ここら辺りは危ないんだから、間違っても迷い込んじゃダメだからね」

「……君だけには言われたくないな」

「ハハハッ、聞こえな~い。まあ、とにかく助けてくれてありがとう。ちょっと失敗しやったけど、君……かっこよかったよ」


 女性はウインクをして爽やかに笑うと、大きく手を振りながら去っていった。


「…………やれやれ」


 名前を告げずに去っていく女性の方を見て、小さく嘆息しながらユリウスは道の端へと行き、左目を覆う。

 今一度、右目の紋章兵器マグナ・スレストの力を使い、男たちの反応が消えた場所の様子を見ようと思ったのだ。


「…………」


 だが、集中し、紋章兵器へと注力したところで、


「あっ、いたいた。もう、まだこんなところにいるの」

「えっ?」


 紋章兵器の力を使うすんでのところで、誰かに強く手を引かれ、ユリウスの視界は空へと上がることなく、手を引く者へと注がれる。

 そこには、諦観したようにこちらを見ているセシルがいた。


「何やってんのよ。もう、そろそろプリマヴェーラ様が街の広場に現れる時間よ」

「ちょ、ちょっと待て。今はそれどころじゃ……」

「何言ってんのよ。私たちの仕事で、プリマヴェーラ様を護衛する以上に大事なことなんてないでしょ!」


 そう言うと、セシルはまだこの場に踏み止まろうとするユリウスの首根っこを掴み、ズルズルと引きずるようにして歩き出す。


「ほら、早くしないと始まっちゃうから急ぐわよ!」

「わ、わかった! 自分で歩くからその手を放せ…………ぐえぇ!」


 ユリウスが不承不承ながらに従う意向を伝えると、セシルはようやく手を離してくれる。


「ゴホッ、ゴホッ……このクソ女が……」

「……何か言ったかしら?」


 思わず漏れた呟きに、セシルの目が冷たく光るのを察したユリウスは、誤魔化すように咳払いを一つして逃げるように歩きはじめる。


「コホン…………何でもない。とっとと行くぞ」

「最初からそう言えばいいのよ」


 セシルは諦観したように嘆息すると、ユリウスと肩を並べて歩きはじめる。

 プリマヴェーラが現れるまで時間がないので、かなりの急ぎ足で歩きながらユリウスは後ろ髪を引かれる思いでいた。

 だが、ここで少しでも怪しい素振りを見せれば、またしてもセシルに首を絞められるのは明白なので、業腹だがここはグッと耐えるしかない。


(……まあいい。今は無理でも後で改めて調べてやるさ)


 せめてもの慰めにそう心に固く決意すると、プリマヴェーラが現れるというパロマの街の広場目指して歩を進めた。



 そうしてやって来た街の広場には既に多くの人が訪れ、かなりの賑わいをみせていた。

 広場の中心には一段高くなった舞台が設けられ、その周りを不用意に人が昇らないように街の自警団と思われる若者たちが目を光らせていた。


「ああ、もう! ユリウスのせいで遅れたから舞台まで近付けないじゃない!」


 すると、人の壁に阻まれて舞台に近付くことができないことにセシルが愚痴を言いはじめる。


「こんなことなら、情報収集なんてしないでとっとと広場に来るべきだったわ」

「今さら言っても仕方ないだろう。こうなったら、遠巻きに見るしかないだろう」

「でも……」

「でも、じゃない。ここで無理を押し通して、街から追い出されてもいいのか?」

「うう……わかったわよ」


 口惜しい気持ちもあるが、ここで自分の我が儘を通すことが得策ではないことがセシルもわかっているのか、渋々ながらユリウスの意見を受け入れ、おとなしく今いる場所からプリマヴェーラが来るのを待つことにする。


 そうこうしてい間にも、次から次へと人々が押し寄せて来て、ユリウスたちはあっという間に人の波に呑まれる。


「わっ、わわわ……」

「クッ…………おい、押すな!」


 圧倒的な人々の勢いに、ユリウスたちは成す術なく流されはじめる。

 かつて、この人込みを利用して追手から逃れた経験のあるユリウスだったが、今回の人込みは以前の比ではなく、自分の意思ではまともに動くことはできなかった。


「キャッ……ちょ、ちょっとどこ触ってんのよ!」

「……っ、このっ、髪を。引っ張るな!」


 押し寄せる人々の容赦ない奔流に、ユリウスたちが悲鳴を上げると同時に、


「二人とも、こっち!」


 人の間を縫うようにぬっ、と現れた二本の手がユリウスとセシルの腕を掴み、もみくちゃにされている二人を物凄い力で人込みの中から引き上げる。

 そのまま人込みを掻き分けるようにして広場の外まで連れてこられると、この窮地から救ってくれた人物が明らかになる。

 その人物は、かなり強引な方法で二人を救出したのとは対照的に、セシルと同じ顔で柔和な笑みを浮かべている青年、ブレットだった。


「二人とも、大丈夫だった?」

「ああ、すまない。助かった」

「はぁ……ありがとう、ブレット。あんたにしてはよくやったわ」


 二人が素直に感謝の意を伝えると、ブレットは照れたようにはにかむ。


「何だか、二人に素直に感謝されると、普通の人の感謝される何倍も嬉しくなっちゃうね」

「「どういう意味だ!?」」


 ブレットの言葉に、ユリウスたちが揃って反論すると、ブレットは「そういうところだよ」と言いながら破顔する。

 コロコロと笑い続けるブレットを見て、ユリウスは苦虫を嚙み潰したような顔になる。


「こんな脳筋女と一緒にされるなんて……屈辱だ」

「あんた、まだそれを言うか!」


 ぎゃあぎゃあ言いながら互いに罵り合う二人に、ブレットは苦笑しながらある提案をする。


「二人とも、ここじゃ周りの迷惑になるし、プリマヴェーラ様も殆ど見えないだろうから場所を変えない?」

「場所って……どこかいい場所でも取ってあるのか?」

「まあね。少なくとも、ここよりは全然マシな場所だよ」


 そう言ってブレットはウインクをすると、ユリウスたちを連れ立ってすぐ傍にある建物へと入っていった。

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