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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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確かな成長

 その後、単独行動で情報収集に勤しむユリウスだったが、得られた情報は、青果店の店主から得たものと殆ど変わらなかった。


 だが、それでも得るものはあった。


(……全く、ここまで来ると恐怖すら覚えるよ)


 ユリウスは青果店店主と話した時と同じように、最初は本題を避けて世間話から入り、それとなく街の成り立ちについて聞いて回ったのだが、誰もがこの街は何もない小さな村から少しずつ大きくなっていったと話したのだ。

 誰に話を聞いても、同じ答えが帰ってくる。

 こうなると、セシルにこの街について話した者が嘘を述べたと疑うのだろうが、人を疑うことからかかるユリウスにとっては、彼等の言葉は信じるに値するものではなかった。


 何故なら、自分たちの力でこの街を大きくしていったというのは、土台無理な話だからだ。


 パロマの街は、セシルが自然豊かな街だったと話していた通り、大きな街道沿いにあるような利便性が高い位置にあるわけでもなく、これといった特産品があるわけでもない、ミグラテール王国内では特筆すべきことは何もないただの街の一つだとユリウスは評している。

 プリマヴェーラがこの街を気に入り、慈善活動を行う度に訪れる地として選んだとしても、元の規模が百人程度の小さな街であったのならば、ここまで大きくする必要はない。

 しかも、新たに建てられたであろう建物の多くは、宿屋として運用されており、今はプリマヴェーラが来るということで各地から旅人が訪れて大いに賑わっているが、それ以外の日は、人口の割に建物だけが立派な空虚な街となってしまう。

 そして何より、これだけの建物を建築する資材と金の動きが、住人たちから全く聞こえなかったのが不気味だった。

 プリマヴェーラ個人が金を出したのかもしれないが、それならそうと正直に話せばいい。

 そして、近隣の貴族たちが金を出したと言うことは絶対にあり得ない。

 そんなことをするくらいなら、自分たちが治める地を豊かにして、そこへプリマヴェーラを招待した方が、圧倒的に自分たちに利となるからだ。


(そこら辺の金の動きも聞いてみたかっらが、そこまで踏み込んで質問してしまえば、逆に僕が怪しまれてしまうからな)


 あくまで何も知らない旅人。そういう体でいる限りは、この街の住人を敵に回すことはないだろうが、この異常ともいえる状況に下手に疑問を呈してしまったら、ここにいる連中全員が敵に回る可能性もあった。

 流石にそんな危険な橋を渡ってまで、情報を得ようとは思わなかった。


(……最も、あの脳筋女はそんな深く考えることなく、素直に質問しているかもしれないがな)


 もし、そうなってもセシルならただの町人に後れを取るということはないだろうが、問題を起こせば、この街からいられなくなってしまうだろう。

 今はセシルが余計なことを聞かないでいることを願うしかない。そう思いながらユリウスが街を歩いていると、


「……んっ?」


 何処からか、乾いた音と女性の悲鳴のようなものが聞こえ、ユリウスは思わず足を止める。


「…………」


 もしかしたら気のせいかもしれない。そう思うが、それでも万が一を想定して、ユリウスは通りの端へと寄ると、壁に背中を預けるようにして立つ。

 左目を覆い、右目の紋章兵器マグナ・スレストに意識を持って行くと、程なくしてユリウスの視界は自分が立っていた場所から真っ直ぐ上がった空から見下ろすようになる。


「…………チッ」


 どうやらここら辺りは高層の建物が入り組んでいるようで、上空から目を凝らしても思ったより視界が利かないことに、ユリウスは苛立ちを露わにする。

 しかし、それでも紋章兵器を解くようなことはせず、入り組んだ路地の一つ一つを入念に調べていく。


 自分には関係ない。

 見なかったことにすればいい。

 他人がどうなろうと知ったことではない。

 何度もそう思いながらも、ユリウスは紋章兵器を使うことを辞めない。

 そうして、いくつかの路地を眺めていると、


「見つけた」


 予想通りの光景を見つけて、ユリウスは紋章兵器を解いて顔を上げると、一気に駆け出した。



 どうしてこんな馬鹿げたことをしているのだろう。そんなことを考えながらユリウスは細い路地を右へ左へと止まることなく進み続ける。

 今の自分を突き動かしているのは、ある想いからだった。

 それはかつて何もできず、傷つくとわかっていてもヴィオラを見送ることしかできなかった自分を許せないという想いと、今の自分はかつての自分とは違う。同じ過ちは繰り返さないという贖罪にも似た感情からだった。

 そうして何度か目かの路地を超えた先で、ユリウスは想像していた通りの光景を目の当たりにする。


「そこで何をしている!」


 ユリウスの怒声が路地に響き渡ると、三つの影が振り向く。

 一つは小柄な妙齢の女性。左の頬を赤く染め、泣き腫らした目で縋るようにユリウスを見ている。

 そして残る二つの影は、見るからに強面の男たちだった。


「あっ? 何だテメェは?」

「怪我したくなかったら、とっとと消えな」


 突然現れたユリウスに憤りを露わにする男たちに対し、ユリウスは臆することなく真正面を見据えて堂々と言ってのける。


「黙れクズ共が……僕はお前たちみたいな連中が何より嫌いなんだ。死にたくなければ、今すぐこの場から消え失せろ!」

「……おいおい、お前。自分が何を言っているのかわかっているのか?」


 どう見ても荒事が得意でない様子のユリウスの挑発に、男の一人が額に青筋を浮かべながらユリウスへと近付く。


「一つ言っておくが、俺たちは別に疚しいことはしてないぜ」

「黙れ。この状況を見て、言い逃れできると思っているのか?」

「…………まあ、そうだよな」


 ユリウスの追求に、男は頭をガシガシとかきながらも歩みを止めない。


「…………」


 ゆっくりと近付いてくる男に対し、ユリウスは左目の紋章兵器を作動させて男を見やる。途端に、男の体が赤く光り出し、その中でも汚らしいズボンのポケットに入れている右手がより強く光っていた。

 右手に注視しているユリウスの様子に気付くことなく、男は汚れで黄色くなった歯を見せてヘラヘラと笑いながら左手を差し出してくる。


「まあ、何だ。ここはお互いのために何もみなかったことにしとこう……やっ!」


 そう言いながら、男はポケットに突っ込んでいた右手を素早く抜く。

 その右手には小型のナイフが握られており、仁王立ちしているユリウスの腹部を刺し貫こうと容赦ない突きを繰り出す。


「……フン」


 だが、紋章兵器によって男が繰り出すであろう脅威が見えていたユリウスは、冷静に男が繰り出したナイフを避けると、


「クソ虫が!」


 カウンターで男の鳩尾に強烈な右ストレートを喰らわせた。

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