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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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新たな生活

更新が遅れに遅れて申し訳ありません、柏木サトシです。

今回から話は新章へと突入します。

お話としては前回が序章で、今回から一章といったところでしょうか。

ただ、まさか序章で本一冊分の文量を書くとは思っていなかったので、この第一章がどれだけの長さになるかは全くの未知数です。


とりあえず、今回もエピソード増々になりそうな予感ではありますが、少しでも面白くするために、色々と試行錯誤をしていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 陽が高くなり、突き抜けるような蒼い空と雲がいくつも折り重なってできる入道雲が目につくようになった頃、天を貫くいくつもの尖塔が立ち並ぶ白亜の宮殿の中、季節の花が咲き乱れる美しい庭園をぐるりと囲む外周を走るユリウスの姿があった。


「クソッ、クソッ、クソッ!」


 悪態を吐きながら走るユリウスの額には、滝のような汗が流れていた。


「はぁ…………どうして…………僕が……クソッ!」

「はい、そこ。クソクソ言わない」


 息を切らしながら走るユリウスのすぐ横から可愛らしい明るい声が響く。

 頭の上で二つに結んだ長い髪、眩い金髪のツインテールを揺らしながらユリウスと並走する少女は、今にも倒れてしまいそうなユリウスとは対照的に、涼しい顔のまま呆れたように呟く。


「この程度で息を切らしていたら、実戦じゃ何の役にも立たないよ」

「…………僕は…………頭脳派…………なんだよ…………」

「はいはい、だからと言ってこの程度でバテていたら、逃げる時困るわよ?」

「その時は…………お前等を置いて…………先に逃げるから…………問題…………ない」

「うわっ!? あんた、それ本気で言ってんの?」


 少女はユリウスを三白眼で睨むと、抑揚のない声で呟く。


「…………後、十周は追加した方がいいかしら?」

「冗談だ。僕が仲間を見捨てるはずないだろう……というより、僕がいて無様に敗走するような作戦は立案しない」

「あら、さっきまで死にそうな顔していたのに随分と饒舌ね。だったら後、五周追加で走ることでさっきのことは忘れてあげるわ」

「――っ、このクソ女……」

「……何?」

「………………何でもない」


 少女に氷のような鋭い眼光で睨まれたユリウスは、気まずげに視線を逸らしながら引き下がると、


「…………クソッ!」


 悪態を一つついて、今にも崩れそうになる足を必死に動かし続けた。



 思うところは多々あったが、結局ユリウスは、ファルコからの要請を受けて彼の仲間になった。


 あの後、ユリウスはヴィオラと共にファルコにミグラテール王国の王都、アクイラへと赴き、そこでファルコの仲間たちと対面した。

 ファルコはユリウスの詳しい経歴や、紋章兵器を所持していることは話さず、軍師としての才能を買って仲間として迎え入れるから、仲良くしてやって欲しいと紹介した。

 余りにも適当な紹介に異論が出るかと思われたが、ファルコは徹底した実力主義者で、彼の仲間の中には、過去に人には言えない後ろ暗い経歴の持ち主や、一癖も二癖もある変わり者も大勢いるので、誰もユリウスの過去を詮索しようとする者はいなかった。

 それどころか、同世代の若者より小柄で、華奢なユリウスの体を心配して自分たちの食事を分けてくれたり、みすぼらしい格好を気にして私物の衣類を分けてくれたりと、あれこれと世話を焼いてくれた。

 さらに、世話好きの何人かがユリウスを立派な戦士にするため、ユリウスを一から鍛える計画が持ち上がった。


 その参加者の一人が、ユリウスと二つしか違わない年上の少女、セシルだった。


 代々、名のある剣士を排出している家に生まれたセシルは、武者修行の最中にその才能をファルコに買われてスカウトされ、それ以降はファルコの下で、スカウトされた各地の猛者たちと日々剣の腕を磨いていた。

 ユリウスと年が近いということもあってか、セシルは他の者より積極的にユリウスを鍛えようとしてくれるのだが、その方法は些か問題があった。


「くそがああああああああああああああああああっ!」


 雄叫びを上げながら予定の周回を走り切ったユリウスは、体が汚れるのも構わずその場に倒れる。


「はぁ……はぁ……はぁ…………ど、どうだ……走り切って…………やったぞ」

「は~い、よくできました。それじゃあ三分休憩していいわよ」

「さっ…………ふ……ざけんな!」


 ユリウスは倒れた姿勢のまま、涼しい顔で見下ろしているセシルを睨む。


「ただでさえ…………余計に走らされたのに…………たった三分の休憩で、まともに動けるはずがないだろう」

「まだ、そんだけ無駄口を叩けるなら余裕よ。むしろ、ここからが本番よ」

「はぁ、はぁ……どういう意味だ?」

「人間の体は、ある程度壊してからじゃないと特訓の効果はないの。だからこれから行う訓練にこそ、やる価値が生まれるのよ」


 そんなことも知らないの? と、言いたげな様子のセシルに、ユリウスは絶句する。

 体を効率よく鍛えるには、体を徹底的に壊し、その上で極限まで追い詰める。

 理屈としては聞いたことがあるが、大抵は体を鍛え上げる前に体が、精神が壊れてしまうだろう。

 生活水準はかなり上がり、頬も大分ふっくらしてきたが、ユリウスはまだまだ自他共に認める虚弱体質だった。


(こんな体力馬鹿の女の戯言に付き合ってられるか)


 ユリウスは最後の気力を振り絞ってのろのろと立ち上がると、セシルに背中を向けて幽鬼のように歩き出す。


「無理だ……僕はもう帰って寝る」

「何言ってんの。これも皆、ユリウスのためなんだからおとなしく従いなさい」


 帰ろうとするユリウスを、セシルは逃がすまいと後ろから羽交い締めにする。

 年頃の女の子に後ろから抱きつかれるというシチュエーションに、思春期の男の子ならときめいてしまいそうだが、生憎とセシルの身体はよく鍛えていて締まっていたが、女性としての膨らみはお世辞にも豊かとはいえないので、ユリウスはひたすら逃げようともがく。


「僕はもう休むと決めだんだ。いいから、放せ」

「嫌よ! ここからが本番なのに、そんなもったいないこと、許さないわ」

「放せ!」

「嫌よ!」


 その後も、ユリウスとセシルが花の咲き乱れる庭園でもみくちゃになりながら言い争っていると、


「…………二人とも、何やってるの?」


 呆れたような声が二人にかかる。

 その声に目を向けると、セシルによく似た顔立ちの金髪の少年が苦笑していた。


「ユリウスと姉さんって、もしかしてそういう関係だったの?」

「「違う!」」


 声の指摘に、二人は揃って否定の言葉を口にすると、声の主へと詰め寄る。


「僕がこんな脳筋女と仲良くなるはずないだろう」

「ブレット、悪い冗談はやめて頂戴。私はこういう軟弱男が一番嫌いなの」

「わ、わかったよ。冗談だから」


 声の主、ブレットと呼ばれた少年は、謝罪の言葉を口にすると、二人に声をかけた理由を話す。


「そんなことより、ファルコ様が二人に用があるってさ。早く行かなくていいの」

「えっ、ファルコ様が!? それを早く言いなさいよ」


 ブレットの言葉にセシルは目を輝かせると、もう待ちきれないと言わんばかりにその場で足踏みをはじめる。


「ほら、二人とも早く行くわよ」


 そう宣言して一人とっとと駆け出してしまったセシルと見て、ユリウスとブレットは顔を見合わせて揃って苦笑した。

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