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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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共犯者

「僕の真意……かい?」

「はい、正直に答えてもらえますか?」


 どう取り繕ってもファルコに考えを読まれてしまうので、ユリウスは単刀直入に攻めることにした。


「今回、僕はこの街に甚大な被害を出しました。普通なら僕を罰しなければならない立場にあるはずのあなたがそれをせずに、僕を仲間にしようとしている。そんなことであなたの他の仲間は納得するのですか?」

「……普通はしないだろうね」


 だが、


「今回のことは、僕以外で知っている人は、ほぼいないと言っても過言じゃない」

「……ほぼ?」

「ほぼ、だね。さっきも言ったけど、僕は人の心が読めるわけじゃない。聡明な人ならば、僕に従順に従いながら君に疑いの眼差しを向けることもあるだろうね」


 その時は僕が全力で守ってあげるから安心して欲しい。とファルコはフォローを付け加える。


「そこまでして君を仲間にしたいと思うのは、当然ながら理由がある」

「その理由、教えてもらえるのですか?」

「……それを話さないと君は僕のことを全く信用してくれないだろうからね」

「ええ」


 諦観したように話すファルコの言葉に、ユリウスはすかさず頷く。

 その態度に、ファルコは思わず苦笑しながら話をはじめる。


 ファルコ・ユースティアは、ミグラテール王国の第二王子として生まれた。


 容姿端麗、品行方正で思慮深いファルコは国民からの人気も厚く、国の女性からは光の王子と呼ばれ、非公認のファンクラブまでできるほどだった。

 ファルコはそんな周りの期待に応えようと日々努力に励み、皆の期待通りの好青年へと成長した。

 だが、そんなファルコにも悩みはあった。


「実は僕には妹の他にも、年の離れた兄がいるんだけどね……」


 名をレオン・ユースティアという男は、ミグラテール王国きっての才能の持ち主で、覇王の遺志を継いで世界を統一すると言われていた。


「当然ながら、兄も紋章兵器マグナ・スレストの持ち主……らしい」

「らしい?」


 ユリウスの疑問に、ファルコは苦笑しながらかぶりを振る。


「何処かの国に仕えて紋章兵器を手に入れたのだろうけど、残念ながら僕も兄の近況は何も知らないんだ。出て行ったのはもう五年以上も前の話だからね。ただ、吟遊詩人の詩になっているくらいだから、間違いはないと思うよ」

「それは……凄いですね」


 吟遊詩人の詩は、多少の脚色が加えられるのは常だが、それでも生きている内に詩の題材にされるということは、それだけで偉才の持ち主であるといえた。


「だけど、僕には紋章兵器の才能はなかった……」


 ミグラテール王国には癒しの指輪『エレオスリング』と呼ばれる紋章兵器が与えられていたが、ファルコには全く取り扱えなかった。

 だが、この紋章兵器は兄のレオンにも取り扱えなかったもので、ファルコに適性がなかったとしてもそこまでショックを受けなかった。

 だが、妹のプリマヴェーラにエレオスリングの適性があるとわかったことで、ファルコの認識が変わる。


「兄妹の中で唯一、僕だけが紋章兵器の適性がないとわかった時は、かなりショックだったよ」


 周りの評価は相変わらず高かったが、ファルコにとってそれは苦痛以外の何物でもなかった。

 そこからファルコは、自分でも使える紋章兵器はないものかと、あらゆる文献を読み漁った。

 紋章兵器は覇王亡き後、各国が厳重に保管し、他国に渡らないようにしているので、他国を侵略する意思のなかったミグラテール王国は新たに紋章兵器を手に入れることはできなかったが、ファルコはその中の一つの紋章兵器に強く惹かれた。


「それこそが、今、君の両目に入っているアイディールアイズ、だよ」

「――っ!?」


 紋章兵器のことを指摘され、ユリウスは思わず左目を覆う。


「どうしてそれを知っているのか。っていう顔をしているね」


 ファルコはユリウスの表情からまたしても考えを正確に読むと、自分の目を指差しながら説明する。


「君の目に入っている紋章兵器、アイディールアイズは、覇王の右腕とも呼ばれる有名な紋章兵器だからね。それなりに文献も残っているんだ。赤と青の瞳という特徴もさることながら、注意してよく見れば、紋章兵器の特徴である紋章が瞳の奥に刻まれているのが見て取れるんだよ」

「……それじゃあ、僕の素性も?」

「フォーゲル王国が落ちた時、アイディールアイズが見つからなかったことから、生き延びた者がいるかもという噂は聞いたけどね……」


 だが、その噂が流れてから三年、各国が血眼になってアイディールアイズの行方を捜しても見つからなかったことから、落城した時に完全に焼失してしまったものだと思われるようになった。


「だけど、ここ最近になった霧の山賊団という名が出てきた時、その手腕から僕は裏にアイディールアイズを持つ者がいるんじゃないかと、独自に調査をしていたんだ」

「そんな前から……」

「確信はなかったけどね。でも、君が現れた時、僕の推理は確信に変わったよ」


 アイディールアイズの存在を知ったファルコの心は躍った。

 二つの紋章兵器は、既にユリウスの目に収まっていたので、紋章兵器事態を手に入れることは不可能だが、それを持つ者を引き込むことはできる。

 その者を自分の右腕として置くことができれば、兄や妹に劣等感を抱かなくなることは難しいが、肉薄することはできるかもしれない

 だから何としてもこの力が欲しい。

 その為ならば、どんなことも厭わない。

 だからこそファルコはユリウスの提案に積極的に乗って見せたし、その為に霧の山賊団と無関係とわかっている人でも容赦なく斬り捨てた。


「君が山賊に復讐するため、国を滅ぼした者に復讐するためにどんな悪事にも手を染めると決心したように、僕もまた君という力を手に入れるために無関係な人々を手に賭けるという悪事に手を染めた」

「僕の……ために」

「そうだ。そういう意味では、僕たち二人は共犯者だと言えるね」

「共犯者……」

「だからどうだろう? 君の復讐を果たすための協力は惜しまないつもりだから、僕の仲間になってもらえないだろうか?」


 そう言って差し出された手を、ユリウスは呆然と眺める。

 ファルコの言葉に、嘘や偽りは見られない。ファルコ程鋭敏に人の感情を読むことはできないが、それでも数多くの修羅場を生き抜いてきたユリウスは、直感的に彼の言葉は信用できると思った。


「…………」


 それからも様々な考えが頭を巡っては消えていったが、ユリウスの答えは決まっていた。

 まだ見ぬ復讐を果たすためには、これが最善策だと思うから……

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