嘘と要請
「えっ……あっ、その…………」
ファルコの衝撃の発言を受けて、ユリウスはすっかり冷静さを失っていた。
(どうする? どうやって言い逃れる。考えろ……考えるんだ…………)
だが、それでも必死に頭を巡らせてどうにかしなければと考える。
山賊たちに子供たちの誘拐を指示した時、具体的にどのように誘拐するかの指示はしていない。
誘拐や略奪といった荒事は山賊の領分だ。普段から同じようなことをしている連中に、今更具体的な指示は必要ないだろうと判断して手段を任せたのがまずかったのか。
(だからといって、僕の名前を出すなんて……)
貴族や大商人の子弟といった箱庭の中で過ごしてきた身分の者ならともかく、相手は一般市民で、しかもこの街の兵士長と副兵士長の子息だ。誘拐の手順なんてものにどれだけ種類があるのか知らないが、彼等がユリウスの名前を出した程度で、強面の男たちの言うことを聞くような教育を受けているだろうか。
(いや、それより……)
そこでユリウスは、ある重大な事実を思い出す。
(…………やられた)
考えを巡らせ続けた結果、少し冷静になったことでユリウスはファルコの真意に気付いた。
「…………僕を、嵌めましたね?」
「ハハッ、バレちゃった?」
途端、ファルコは真面目な顔を崩して先程までの穏やかな笑みに戻る。
それを見たユリウスは、完全にしてやられたと苦虫を嚙み潰したような顔になる。
ファルコが話した山賊たちが子供たちを誘拐する時にユリウスの名前を使ったという話、それ自体がユリウスを騙すためのブラフだったのだ。
そもそもユリウスは子供たちに自分の名前を名乗っていない。それは、彼等の父親だけでなく、目の前で話すファルコも同様だ。
子供二人の名前を知ったのも、会話の中で彼等が名前で呼び合っていたので知っただけだ。その甲斐あって信用を得られたが、その後も自己紹介をした覚えはない。
そのことにすぐに気付いていれば、ファルコのブラフに乗ることなく冷静に切り返すことができたのだが、不覚にも慌てふためき、感情を表に出してしまった。
あれでは自分が霧の山賊団を裏で操っていた人物であると認めてしまったようなものだった。
今からどんな言葉を並べても、あれは演技でしたとごまかすのは不可能だろう。
「…………はぁ、」
ユリウスは諦観したように大袈裟に溜息を吐くと、ファルコにその真意を尋ねる。
「……それで、僕をどうするんですか?」
「どう、とは?」
「もう僕が霧の山賊団と関りがあったことはわかったでしょう?」
「あれ? もう、認めちゃうんだ?」
「ここまで来て言い逃れするつもりはありませんよ。それで、僕を一体どうするつもりですか? 他の連中と同じように処分しますか?」
「まさか、そんなわけないよ」
ユリウスの疑問を、ファルコは一蹴する。
「そもそも処分するつもりだったら、最初から君を生かしておかないさ」
「でしょうね……」
瀕死だったユリウスをプリマヴェーラの紋章兵器を使ってまで蘇らせたのだ。
ユリウスの治療が例えプリマヴェーラの自発的に行った行為だったとしても、意識が戻るまで三日、ヴィオラ毎全てをなかったことにするのは容易だったはずだ。
それを行わなかったということは、ファルコには別の目的があるのだと推察される。
もしかしたらそれはユリウスと同じ理由かもしれないが、先にそれを切り出してしまうのは、ユリウスとしては面白くなかった。
「……それで、ファルコ様は僕に何を求めているんですか?」
「フフッ、求めているときたか」
ユリウスの物言いが気に入ったのか、ファルコは嬉しそうに何度も頷く。
「……ユリウス、君は本当に面白いね」
「前置きは良いですから、早く本題に入ってください」
「これは失礼、そうだね。じゃあ単刀直入に……ユリウス。君、僕の仲間にならないかい?」
「仲間……配下じゃなくて?」
「そう、仲間だ。正確には、君を僕が隊長を務める部隊に仲間として迎え入れたいと思っているんだ」
「…………」
部下ではなく仲間という言葉を使われ、ユリウスは思わず面食らってしまう。
「どうかな? 黙り込んじゃったけど……不服かい?」
「不服というより、少し意外だっただけです」
ファルコの要請は予想の範囲内だったが、仲間という言葉をそのまま解釈するならば、自分たちの関係は上司と部下ではなく、対等であるということだ。
(これは……もう少し探りをいれてみるか)
差し出された餌にすぐさま食いつくような安い人間だと思われたくないというのもあるが、ファルコの真意をもう少し聞いてみようと思ったのだった。




