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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
54/169

王子の試練

「…………」

「…………」


 衝撃の発言から暫く間、ユリウスとファルコは無言で睨み合っていた。

 余裕の笑みを浮かべているファルコに対し、ユリウスはジッと心を読まれないように耐える。


(目を逸らしたら……駄目だ)


 自分は何も疚しいことはしていないのだ。その嘘を突き通すためにも、ユリウスはファルコの試すような視線を真っ直ぐに受け止め続けた。

 二人の膠着状態は、暫く続くかと思われたが、


「…………フッ、流石だね」


 ファルコが降参したように両手を上げて終わりを告げる。


「ついさっき僕が指摘した部位をしっかりとフォローして考えを読まれないようにするなんて、流石の対応力だ」

「……からかっているのですか?」

「まさか、純粋に褒めているんだよ。思った通り、君は相当賢いね。何か特別な教育でも受けてきたのかい?」

「別に……生きるために必要だったので、そういったのは特に……」

「そうかい? 僕の目には君はキチンとした教育を受けてきたと思えるけどね……まあ、話したくないなら詮索はしないよ」

「……すみません」

「いいよ、気にする必要はない。特にこんな世の中じゃね」


 戦乱の世において、昨日まであった名のある貴族の家が突如として無くなるのは往々にしてある。

 だが、一族郎党に難が及ぶことは少なく、生き延びた者は、それまでの名を捨てて新たな人生を送らねばならない。

 もし、誰かに自分の出自がバレれば政治利用されたり、懸賞金目当ての者に命を狙われたりと、碌なことにならないことが殆どだ。

 ファルコもそれがわかっているから、ユリウスに必要以上に問い詰めるようなことはしない。何かしらの理由があって、出自を語ることができない。そう判断してくれたようだった。


「やれやれ、残念ながら僕の推理はハズレてしまったようだね」

「流石に今回のは反応に困りましたよ」

「ごめん、ごめん。まあ、よくよく考えれば、聡い君があんな愚かな策を取るはずがないのは確かだね」

「愚か?」


 侮蔑の意味を含んだ言葉に、ユリウスの眉が僅かに反応する。


「ああ、そうだ。今回、霧の山賊団が取った作戦、結果だけ見れば上手くいく可能性はあったけど、僕から言わせればろくでもない愚鈍な作戦ばかりだったよ」

「…………」

「全く……あんな作戦で最後まで上手くいくなんて本気で思っていたのかね?」

「で、でも、連中はプリマヴェーラ姫の下まで辿り着きましたよね?」


 命を賭けてどうにか成し得た作戦を侮辱にされ、ユリウスは思わず口答えをしてしまう。


(――っ、しまった)


 すぐに自分の失態に気付き慌てて口を塞ぎ、気まずそうにファルコの方を見やると、三白眼でこちらを見ているファルコと目が合う。


「……へぇ、ユリウス。君は連中の肩を持つのかい?」

「い、いえ……そういうわけでは」

「まあ、君の言いたいこともわかる。確かに連中はこの街最強の二人である兵士長と副兵士長を倒したわけだ」


 だが、


「その方法は、外道の極みともとれる方法だったようだ。可哀想に、何の罪のない子供がね……」

「…………」


 スレイとジーマ、二人の幼い子供の姿を思い出し、ユリウスの目に悲しみの色が灯る。

 だが、悲しそうに目を伏せているファルコは、そんなユリウスの些細な変化に気付いた様子もなく、怒りを滲ませながら話す。


「彼等はまだ年端もいかない息子たちを誘拐し、人質とした……騎士道を重んじる彼等が、身内を人質に取られて冷静にいられたのかね?」

「さあ? 僕はその現場を見ていないので……」

「そうか、君たちが到着した時は連中は既にプリマヴェーラの下へ辿り着いていたんだっけ?」

「はい、僕が来た時にはもう……」


 本当は紋章兵器マグナ・スレストを使って全てを見ていたのだが、そのことをここで伝えるのは得策ではない。


「犠牲となった子供たちには恩があったのですが……残念です」

「ふ~ん、君はあの二人と面識があったんだね?」

「はい、あの二人のお蔭で僕はあなたと会えたんです」

「そういやそうだったね……」


 ファルコはそこで一息を吐き「ところでこんな報告を受けているんだけど……」と前置きしてとんでもない爆弾発言をする。


「子供二人を誘拐する時、家を訪れた男たちが君の名前を出して子供たち連れ出したって話、知ってる?」


「………………………………………………………………えっ?」


 その衝撃的過ぎる発言に、ユリウスは側頭部を思いっきりハンマーで殴られたような気がした。

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