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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
51/169

第二王子

「う…………ここは…………」


 意識を取り戻したユリウスが眩い光に思わず目を細めると、


「ユリウス!」


 間を置かずして、誰かに思いっきり抱きしめられる。


「ああ、良かった。ユリウス……ああ、ユリウス!」

「ヴィ、ヴィオラ? く、苦しい……」


 まだ意識がはっきりしない中、容赦のない全力のハグをされ、ユリウスは苦しそうに呻く。


「ああ、本当に良かった……本当に…………」


 だが、ヴィオラは嬉しそうに頬ずりをしたり、執拗にキスをしたりしてユリウスの言葉など聞いていない様だった。


(……でも、ヴィオラが喜んでくれるならいっか)


 これまで散々苦労をかけてきたのだ。これくらいは我慢しよう。

 そう思ってヴィオラのされるままに身を委ねようとするユリウスだったが、


「…………ヴィオラ?」


 突然、ヴィオラの動きが止まったかと思うと、ユリウスの体にもたれかかるように体を預けてくる。


「ヴィオラ……ヴィオラ!?」


 どれだけ強く揺さぶっても、ヴィオラは何の反応も示さない。

 まさか、そんな……最悪の事態を想像し、ユリウスは顔を青くさせる。

 すると、


「心配しなくても寝ているだけだよ」


 ユリウスを安心させるような明るい声がかかる。


「よく聞いてごらんよ。穏やかな寝息が聞こえるだろう?」

「えっ、あっ……」


 聞き耳を立ててみれば、ヴィオラの規則正しい寝息が聞こえ、ユリウスは安堵の溜息を吐く。


「安心したかい?」

「あ、ああ……君は」


 そこでユリウスは、ようやく部屋の入り口の扉に寄りかかるように立つ人物を見やる。


「やあ、あの日以来だね」


 ユリウスと目が合うと、ミグラテール王国の王子、ファルコは片手を上げて快活に笑った。



 ファルコによると、ユリウスが寝ていたのはスワローの街の迎賓館の二階、プリマヴェーラがいた貴賓室とは真逆に位置する客間の一室だった。

 部屋の広さは貴賓室に及ばないものの、設えられた家具や調度品はどれも一級品で、白を基調とした落ち着いた雰囲気に、ユリウスは自分が生まれ育った城を思い出していた。


「意識がなかったとはいえ、迎賓館に泊まれるなんて君はラッキーだね。ここは相当な国賓じゃないと泊まれないんだよ」

「ああ……そうなんだ」

「…………ふ~ん」


 素っ気ない返事を返すユリウスを見て、ファルコは相貌を細める。


「君はここが何処だか聞いても全く驚かないんだね」

「……どういう意味です?」

「いや、何。随分と落ち着いてるなって……前に部下たちを連れてきた時は、集団で部屋の隅で小さくまとまっていて傑作だったな」

「別に……これでも驚いていますよ」

「そうは見えないけどね。何だかこういう場所に馴染みがあるみたいだよ」

「買い被りですよ」

「…………まっ、君が言うならそういうことで。ところで隣、座ってもいいかい?」

「えっ?」


 そこでユリウスは、ファルコがまだ入り口の扉に寄りかかったままでいることに気付き、ヴィオラがベッドに移動したことで空いた椅子を勧める。


「し、失礼しました。ど、どうぞ……」

「ありがとう」


 軽い足取りで椅子に腰を下ろしたファルコは、ユリウスの腰にしがみついたまま眠っているヴィオラを見て思わず苦笑する。


「……それにしても、君は彼女に相当愛されているんだね」

「えっ?」

「彼女、君が起きるまで、睡眠も食事も碌にとらずに看病をしていたんだ」

「……僕はどれぐらい眠っていたんです?」

「今日で五日、かな? 僕たちが何度手伝うって言っても、頑なに君の傍から離れなくてね。見ているこっちが辛かったよ」

「そう……ですか」


 ユリウスは穏やかな寝息を立てているヴィオラの頭を優しく撫でながら小さな声で「ありがとう」と感謝の言葉を伝える。


「しかし、本当に仲がいいんだね。よかったら君たちの関係を聞いてもいいかい?」

「僕たちの関係は家族です」


 ファルコの質問に、ユリウスは淀みなく答える。

 別に事前に用意していたとかそういうわけではなく、本心からヴィオラのことを大事な家族と思っているので何の問題もなかった。


「血は繋がっていないけど、彼女は……ヴィオラは僕にとってかけがえのない存在なんだ」

「なるほど、ね……それなら仕方ないかな」

「仕方ない?」

「あ、ううん。こっちの話」


 ファルコは顔の前で手を振りながら「気にしないでいいから」と言って話を打ち切ろうとする。


「それより傷の具合はどうだい? まだどこか痛んだりする?」

「いえ、特には……」


 話をはぐらされたことは何だか釈然としないが、そういえばまだ傷痕を見ていなかったと思ったユリウスは、自分の胸を改めて見る。

 そこにはナルベによって横一文字に切り裂かれたことを表す傷痕が残っていたが、それもよく見れば気付く程度のもので、既に感知していると言っても過言ではなかった。


「これはやはり?」

「ああ、我が妹の紋章兵器マグナ・スレストの力だ。それがなかったら君は確実に死んでいただろうね」

「でしょうね……それで、プリマヴェーラ様は?」

「残念ながらここにはいないよ。あんなことがあった後だからね。君にお礼が言いたいとごねられたが、大事を取って先に城に帰したよ」

「そうですか。僕の方もプリマヴェーラ様にお礼を言いたかったです」

「ハハハ、今度会った時にでも言ってやるといい……おっと、そういえば、まだ聞いていないことがあったね」

「……聞いていないこと?」

「まだ君の名前を聞いていないと思ってさ。もう知っていると思うけど、僕はファルコ・ユースティア。この国の第二王子で、プリマヴェーラの兄だ」

「僕はユリウス……セルヴァントだ」


 一瞬、本名のインクレストと名乗ろうと思ったが、自分がフォーゲル王国の生き残りであることが知られると厄介なことになるかもしれないので、ヴィオラの姓を名乗らせてもらうことにした。


「ユリウス・セルヴァントね。ユリウスと呼ばせてもらってもいいかい?」

「構いません」

「結構。それじゃあユリウス……」


 ファルコは背筋を伸ばし、真顔になると本題を切り出す。


「今回の事件、霧の山賊団の掃討作戦の総括をしようか」

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