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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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怨嗟の刃

「さあさあ、どうしました。もう降参ですか?」


 慎重な性格な故か、自分から仕掛けようとしないナルベにヴィオラが再び挑発し始める。


「時間は後、どれくらい残っていますかね? 十分? それとも五分でしょうか?」

「か、頭…………」

「…………」


 部下の男の情けない声を耳にしながら、ナルベは必死に頭を働かせていた。

 自分たちを殺したくて堪らないはずのヴィオラが、わざわざ時間稼ぎをしている。これには必ず意味があるはずだった。

 ヴィオラという女は全てをユリウスに捧げている。ならばこの行動の裏には、必ずユリウスの意図があるはずだった。

 今回、このタイミングでユリウスが裏切ったのは、自分たちを亡き者にするのは当然だが、もう一つの理由は何か?


「…………そうか」


 そこでナルベは、ある結論に辿り着く。

 ナルベは斧を油断なく構えると、部下を後ろに庇うように立つと、ヴィオラに聞こえないように小声で指示を出す。


「おい、今すぐ姫様のところへ行け」

「ええっ!? でも、そしたら後ろから殺されちまうんじゃ……」

「心配するな、俺が全力でお前を守ってやる。そして隣の部屋に行ったら、そこにいる王子様を人質に取れ」

「お、王子が隣の部屋にいるんですかい!」

「馬鹿! 声がでかい!」

「あっ……」


 しまった。と部下の男は口を押えてヴィオラを見やる。



「…………今、何と仰いました?」


 そこには嘲笑するような笑みを消し、眉間にしわを寄せ、憤怒の表情を浮かべたヴィオラがこちらを見ていた。


「ユリウスの邪魔はさせない!」


 ヴィオラは光彩のない目をギラつかせ、両手に持った大量のナイフを容赦なく投げつける。


「ヒ、ヒイィィ……こ、殺される」


 部下の男は思わずその場にしゃがみ込むが、ヴィオラが投げたナイフはナルベが残らず叩き落す。


「これで確信した。お前は早く隣の部屋に行って王子様を連れて来い。それで、俺たちの勝ちだ!」

「わ、わかった。頭、後ろは任せました!」


 男は手持ちの武器を放りだすと姿勢を低くし、頭を抱えて走り出す。


「――っ、逃がしません!」


 そこで初めて焦りの表情を浮かべたヴィオラが、逃げる男目掛けてナイフを連続で投げる。


「はああああっ!」


 しかし、その全てがナルベによって叩き落されてしまう。


「どうした? 焦って狙いが単調になっているぞ?」

「クッ……ならば!」


 余裕の笑みを浮かべるナルベに、ヴィオラはスカートを大きく翻して一体どこに隠していたのかと思われるほどの大きな曲刀を取り出す。


「おっ、まさかこの俺に近距離戦を仕掛けるつもりか?」

「そのまさか、です!」


 近距離戦を仕掛けると見せかけ、ヴィオラは二振りの曲刀を左右同時に投げる。


「ハッ、何処に投げていやがんだ。頭イカれたか?」


 見当違いの方向へと飛ぶ曲刀を見て、ナルベは馬鹿にしたように笑うが、


「――っ、いや!」


 ヴィオラの意図に気付き、慌てて行動に移る。

 見当違いの方向へ投げられたと思った曲刀は、弧を描いて隣の部屋へと走る男の背中へと向かっていたのだ。


「全く……」


 ナルベは部下の男が置いていった剣を拾って投げつけ、壁側を飛ぶ一本目の曲刀を叩き落すと、


「めんどくせぇ!」


 文句を言いながら走り、自身の斧で窓側を飛んでいた二本目の曲刀を叩き落すことに成功する。


 それと同時に、


「頭、助かりやした!」


 部下の男が隣の部屋に辿り付き、歓喜の声を上げる。


「ヘヘッ、これで俺たちの勝ちだ!」


 そう言って部下の男は扉を開けようとするが、


「…………あれ?」


 扉には鍵がかかっており、開けることができなかった。


「か、頭! 扉に鍵がかかってて開かないです!」

「馬鹿な! そんな筈は……」

「か、頭、それより後ろ!」


 部下の男のひっ迫した叫び声が響くと同時に、


「うぐっ!?」


 ナルベは自分の背中に焼けるような痛みを覚える。

 続いて、


「――ゴボッ!」


 上へと突き上げる衝撃がやって来て、ナルベは口から大量の血を吐き出す。

 一体何が起きたのか? 状況が飲み込めないながらも、ナルベが後ろを振り向くと、


「や、やったぞ。やってやったぞ!」


 ナルベの背中にナイフを突き立てることに成功したユリウスが歓喜の雄叫びを上げていた。


「どうだ。見たか! 作戦通りだ!」


 ユリウスのすぐ後ろにはベランダへと通じる窓があり、ユリウスがそこから襲いかかってきたのだとナルベは理解する。


「もう諦めろ。お前のその傷ではもう助からないぞ!」

「…………ゲホッ、ゴボッ!」


 ユリウスのその指摘に、ナルベは再び血の塊を吐き出して呼吸が殆どできないことを自覚する。

 確かにユリウスの言う通り、この傷は致命傷のようだった。

 自分の作戦が見事に決まったのが嬉しいのか、ユリウスは無邪気に喜んでいる。

 その顔を見てナルベは思う。


 ただでやられるつもりはない、と


 ナルベは残った力の全てを、斧を持つ右手に籠める。


「――っ、ユリウス!」


 ナルベの異変に気付いたヴィオラが叫び声を上げるが、


「………………もう、遅い!」


 ナルベは斧でユリウスの胸を横一文字に切り裂いた。


「………………えっ?」


 次の瞬間、ユリウスは胸から大量の血が噴きながら仰向けに倒れ、ナルベもまた、力尽きたようにうつ伏せに倒れる。

 傷口から骨が見えるほど胸を抉り取られたユリウスの傷は深く、みるみるうちに血だまりができていく。

 ナルベ同様、こちらも完全な致命傷だった。


「そ、そんな……い、いやあああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」


 倒れて動かない主を見たヴィオラの悲鳴が貴賓室に響き渡った。

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