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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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邂逅

「……始まったな」


 最後の作戦のため、迎賓館の外壁部に造られた僅かな縁に張り付いて移動しているユリウスは、鏑矢の音を耳にしてこれから街で始まる惨劇を予想して小さく身震いする。


 この作戦は、霧の山賊団の団員を潰すと同時に、確実に霧の山賊団とは関係のない人々を巻き込むこととなる。

 だが、そうでもしなければ山賊団全員を同時に葬り去ることは不可能に近かった。

 自分たちがプリマヴェーラたちに取り入るのも大事だが、それと同じくらいヴィオラを汚した奴等を皆殺しにすることも大事だった。そのためならば、関係のない人間が多少犠牲になっても構わないとユリウスは考えていた。


「これで残るは……あいつだけだ」


 後はナルベを自信の手で葬るだけ。

 ユリウスは背中に隠したナイフを一撫ですると、大きく深呼吸をしてゆっくりと歩を進める。

 だが次の瞬間、大きくバランスを崩し、あわや縁から落ちそうになる。


「――っ!?」


 咄嗟に貴賓室に繋がる人一人がようやく乗れる程度の円形状のベランダに捕まってことなきを得たが、全身に水を浴びたように大量の汗をかいていた。


(あ、危なかった……)


 ここから落ちても骨の一本や二本折るだけで済むだろうが、そうなったらもう挟み撃ちの作戦は使えなくなってしまう。

 ただでさえユリウスの身体能力が低いせいで、予定より時間がかかってしまっているのだ。ベランダからそっと部屋の中を見てみると、はヴィオラとナルベたちの戦いが今にも始まりそうだった。

 全員がヴィオラに注目しているので、ベランダにいるユリウスに気付いた者はいない。

 それを確認したユリウスは、音を立てないように急ぎ足でベランダから再び縁へと移る。

 戦闘が始まれば、ナルベの背後を突けるチャンスは増えるだろうが、時間が経てば経つほどヴィオラに及ぶ危険が増すので、急ぐに越したことはなかった。


(大丈夫、僕ならできるはずだ)


 急ぎながらも慌てることなく着実に歩を進め続け、ユリウスはどうにか目的地である貴賓室隣の部屋のベランダまで辿り着くことができた。



 ユリウスは一息つく間もなく、ベランダの窓を開けて中へと入り、音が出ないようにゆっくりと窓を閉める。

 この時、ユリウスにしては珍しく、特に警戒することなく部屋の中へと足を踏み入れてしまった。


 いや、正確にはヴィオラたちの様子を探るため、見知った人間を色で判断できる左目の紋章兵器マグナ・スレストの力を使っていたので、対象外となる人物が光らないということを失念していたのだ。


「…………誰?」

「――っ!?」


 無警戒の背中に声をかけられ、ユリウスは驚きで身を固くする。


「答えて下さい……あなたは、誰ですか?」

(ああ、そうか……)


 声を聞いて、ユリウスはナルベを殺すことばかりに囚われ、もう一つの目的である重要人物の存在をようやく思い出す。

 ユリウスは紋章兵器の力を解いてゆっくりと振り返ると、敵対心がないことを示すように両手を広げて声の主、プリマヴェーラに向けて話しかける。


「失礼……時間がないもので多少の無礼は承知で……僕はあなたを助けに来た者です」

「私を……助けに?」

「はい、僕は霧の山賊団に復讐するために連中の動向を探っていたのですが、奴等があなたを誘拐するという噂を聞きつけましたので……」

「あの人たちに復讐を?」

「ええ、奴等は神出鬼没で見つけることが大変難しいのです。ですが、あなたを誘拐するとなれば必ずやあなたの前に姿を現す。そう考えて迎賓館の近くで張っていたのです」

「……そうですか。あなたも大切なものを奪われてしまった一人なのですね」


 そう言うと、プリマヴェーラは思いつめたかのように顔を伏せる。


(あなた……も……一人?)


 プリマヴェーラの言葉に、引っかかりを覚えたユリウスは、もしやと思ってプリマヴェーラに尋ねる。


「もしかしてですが、奴に何か言われましたか?」

「えっ?」

「例えば、山賊行為は仕方なくやっている不本意なことで、あなたの協力があれば、今の辛い状況から脱することができる、とか?」

「は、はい。その通りです。どうしてわかったのですか?」


 口に手を当て、目を見開いて驚くプリマヴェーラに対し、ユリウスは苦虫を嚙み潰したような顔になる。

 何故なら、ユリウスがナルベの立場だとしてプリマヴェーラを説得するとしたら、そのような言い回しをするだろうと思ったからだ。


 プリマヴェーラの話を聞いて、ユリウスはつくづくナルベを殺したいと思った。

 その感情が同族嫌悪から来るものだということは、ユリウスは露にも思わなかったが。


「……プリマヴェーラ様、申し訳ありませんが、それは間違いなく嘘です」

「…………嘘?」

「もし、連中が本気で山賊行為を不本意で行っているのならば、僕はここまで追いつめられなかっただろうし、僕の大切な人はあそこまで傷つかずに済んだ。奴等がどんな顔をして人を襲うか知っていますか?」

「そ、それは……」


 つい先程、気絶する前に見た光景がフラッシュバックしたのか、プリマヴェーラは青い顔をしてブルブルと震え出す。

 その態度だけでユリウスは全てを察し、プリマヴェーラに背を向ける。


「だから僕は、奴等がどんな言い訳を並べたとしても、絶対に許さない」

「だから、殺すのですか?」

「はい、もうすぐ終わらせますからそこで見ていて下さい。と言っても、その格好じゃ動けないでしょうがね」

「……こ、この拘束は解いてくれないのですか?」

「解きますよ。全てが終わってからですが」


 万が一にも作戦の邪魔をされては敵わないので、ユリウスはプリマヴェーラに冷酷に告げると、扉の前に膝をついて隣の部屋に突入するその時を待つ。


「ご、ご武運を……」


 後ろからかけられた小さな声に、ユリウスは片手を上げて応えた。

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