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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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交渉

 ヴィオラが貴賓室に踏み入る少し前、ナルベは気絶したプリマヴェーラを抱えて貴賓室のもう一つの部屋に彼女を運び入れていた。


 こちらはプライベート用に造られた部屋なのか、隣の部屋に比べて多少狭いが、それでも設えられた家具は見るからに一級品ばかりで、隣と比べれば狭いというだけでナルベの感覚から十分過ぎるほど広かった。


「さて、と」


 気絶したプリマヴェーラをこの部屋にあったベッドへと寝かせ、手足を縛って拘束したところナルベは今後どうするべきが思案する。

 ユリウスの力があれば、逃げるのはそう難しくはない。問題はその後やって来る追手が何処まで本気で追ってくるのか。そして、肝心のプリマヴェーラが命令に従って紋章兵器マグナ・スレストを使ってくれるかどうかだった。

 前者の方は、これまでの経験からそこまで難しくはないだろうと思う。だが、後者の方はプリマヴェーラ次第なので、蓋を開けてみるまで全くの未知数だった。


「…………とりあえず話してみてからだな」


 交渉して言うことを聞けば重畳。そうでなければ、脅すなり体の一部を壊すなりして無理矢理言うことを聞かせることになるが。


「その場合、あまり長くは使えそうにないな……」


 紋章兵器はそれだけで貴重な戦力だ。出来るだけ長いこと、それも数多く運用できるならそれに越したことはない。

 第一印象は最悪だったが、手はないわけではない。ナルベはベッド近くに置かれた椅子に座ると、プリマヴェーラが目を覚ますのをおとなしく待った。


 そして、ほどなくして、


「う……ううん」


 意識が戻ったのか、プリマヴェーラがベッドの上で小さく身じろぎする。


「よう、お目覚めか?」

「――っ!?」


 目を覚ましてすぐに飛び込んできた禿頭の男の姿に、プリマヴェーラの顔が一瞬で凍り付く。

 その予想通りの反応に、ナルベは思わず苦笑してしまう。


「そう怯えなさんな。今は姫様に危害を加えるつもりはねぇよ」

「それは……わたくしの対応次第では、あるということですね?」

「さて、ね」


 ナルベは言葉を濁しながら本題を切り出す。


「俺たちの目的は、姫様が持つ紋章兵器だ。単刀直入に言う。お前の力を俺たちのために使え」

「それは、山賊の手助けをするということですか?」

「今はな……だが、俺はこのまま終わるつもりはない」


 ナルベはプリマヴェーラに対し、今でこそ山賊という身に甘んじているが、やがては一国の軍隊にも負けない組織へと登り詰め、自分たちを見下している貴族たちを見返してやる旨を話す。


「こう見えて俺は元々貴族の生まれでね。戦争に巻き込まれてあっという間に取り潰されたが、いつか復讐する機会をずっと伺っていた」


 その為には力が必要だった。

 そして、力を得るために最も簡単な方法が、人から奪うという方法だった。


「自分のして来たことを言い訳にするつもりはない。だが、好きで山賊になる奴なんていない。この方法でしか、生きられない奴だっているのさ」

「…………よくわかりません」

「まあ、箱庭育ちの姫様にはわからんだろうがな。だが、少なくとも俺は、今の生活を少しでも良くするために戦っている。これは部下たちにも話していない俺の本意だ」

「そう……ですか」

「ああ、だからよく考えて欲しい。俺もできるなら手荒な真似はしたくない」

「……………………はい」


 ナルベの真意に、プリマヴェーラは悲しそうに顔を伏せる。

 床の一点を見つめたまま考え込むプリマヴェーラを見て、ナルベは小さく嘆息する。

 今のプリマヴェーラに話した内容は、当然ながら殆どが嘘だった。

 この手の無垢な人間は、お涙頂戴のストーリーを聞かせれば、相手を心から恨むことができなくなり、ほだされて自ら山賊の仲間になると言ってくる可能性があると思ったからだった。

 そしてナルベの読み通り、プリマヴェーラは今、どうするべきが真剣に考えている。

 少なくともこれで自ら命を絶つ心配はあるまい。

 後は時間かけて説得していけば、プリマヴェーラは確実に落ちると思ったナルベは、彼女に考える時間を与えるために少し距離を空けることにした。


 すると、


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」


 隣の部屋から、部下の一人の断末魔の叫び声が聞こえた。


「――っ、今のは?」

「……やれやれ」


 怯えるプリマヴェーラに、ナルベは手で心配ないと制すと、


「少し様子を見てくるから、それまでに結論を出しておいてくれ」


 そう言って、苛立ちを隠すことなく早足で隣の部屋へと消えて行った。

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