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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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伏魔殿へ

「ご覧の通り背中から刃を通し、上に引き上げれば刃が肺にまで達して、簡単に致命傷を与えることができます」


 ゼゼを刺したヴィオラは、倒れたゼゼになど目もくれずユリウスに自身の手段について説明していた。


「この方法なら力の弱いユリウスでも容易に殺すことができます」

「でも、そのためには……」

「はい、相手に気付かれずに後ろを取る必要があります」

「後ろ……か」


 あの慎重に慎重を重ねるナルベの後ろを取るのは至難の業かもしれないが、ユリウスがナルベを殺せる可能性があるとしたら、おそらくこの方法しかないだろう。


「わかったよ。何としてもナルベの後ろを取る作戦を考えるよ」

「ええ、ですが無理をなさらないでください。できないと判断したら、私にお任せください」

「それもわかってる。でも、ギリギリまで諦めるつもりはないから」

「……わかりました。それでは、これをお持ちください」


 ヴィオラはスカートを持ち上げて中に手を入れると、一振りのナイフを取り出す。


「私が持っているナイフの中で一番軽いものです。ですが手入れは欠かしていませんので、切れ味は問題ないかと」

「その点は信用しているから大丈夫」


 ユリウスは笑顔でナイフを受け取ると、ヴィオラに倣って自身の背中にナイフを隠す。


「よし、それじゃあ僕たちも行くとしよう」


 迎賓館の中で動きがあったのは確認している。

 作戦を次の段階に進める必要があった。


「……っと、その前に」


 ユリウスは既に息絶えているゼゼを指差し、ヴィオラに聞いてみる。


「あいつの背中に刺さっているナイフ、回収しなくていいの?」

「そうですね。手持ちの武器が心許ない場合以外は、回収しない方がよろしいかと」

「でも、安全な状況なら武器を回収するのも悪くないと思うけど」


 ユリウスの疑問に、ヴィオラはゆっくりとかぶりを振る。


「お気持ちはわかります。ですが、武器を回収するとなると忘れてはならないことがあります」

「忘れてはならないこと?」

「はい、それは武器を回収する時、傷口から血が噴き出すことです」


 人の血は粘着性が強く、武器に付着した場合はキチンと処理しないと、それだけで切れ味が落ちてしまう。さらに噴き出した血が目に入ろうものなら、戦闘中の視界の回復は困難を極める。

 もし、下手を打ったところで敵と対峙しようものなら目も当てられないだろう。


「ですから、複数の相手と対峙した時は、返り血も計算に入れて立ち回らなければなりません」

「それはつまり、上手く使えばそれだけで有利が取れる、と」

「その通りです。ユリウスが立ち回ることは少ないかもしれませんが、知っておいて損はありません」

「わかった。覚えておくことにするよ」


 一息を吐いたユリウスは最後に既にこと切れているゼゼを見やる。

 顔見知りの死に、何か思うところがあるのかもしれないと思ったが、生憎とユリウスの心臓は凪のように、静かに一定のリズムで脈動している。


(大丈夫。これならやれるはずだ)


 作戦の途中で臆してヴィオラの足を引っ張ることもなさそうだと確信したユリウスは、墓標のように背中にナイフを生やしたゼゼに背を向けて歩き出した。



 ゼゼが死んだ路地から顔を出したユリウスは、裏門の前に立つ男に向けて手を振って合図を送る。

 近く、この辺りを通る者がいるから姿を一時的に隠せという合図だ。

 ユリウスの合図に気付いた男は、慌てたように門の中へと逃げ込み、姿を隠す。


「ヴィオラ、行くよ」

「はい、ユリウス」


 男が姿を隠すと同時に、ユリウスたちは一気に裏門へと駆け寄る。

 そのまま誰もいない門の中へと入ると、


「おわっ!? な、何だよ。お前たちかよ」


 驚いた男が思わず身構えるが、それがユリウスたちと知って安堵の溜息を吐く。


「一体どうしたんだ。何か問題でも起きたのか?」

「いや、たいしたことではない……なあ、ヴィオラ?」


 ユリウスが名前を呼ぶと同時に、ヴィオラが後ろから音もなく現れて呆然と佇む男の無防備に開いた首へとナイフを突き立てる。


「……ふっ!」


 ヴィオラがそのままナイフを振り抜くと、男は地面に頭から叩きつけられる。

 僅かに遅れて男の首元から大量の血が噴き出すが、その血が二人に届くことはなかった。


「…………あえ?」


 倒れた男は間抜けな声を上げたかと思うと、そのまま息絶える。

 結局最後まで、男は自分に何が起きたのか正しく理解できなかった。

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