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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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狂気の華

 気が付けば、喉が焼けついてしまったのではないかと思うほどからからに乾いていた。


 憧れだったヴィオラと遂に一線を越える。


 今までは、仲間たちがしているところを見ることしかできなかった。しかし遂にやって来た最大のチャンス。ここは是が非でも失敗は許されなかった。


「…………あっ」


 だが、そこである事実に気付き、ゼゼは赤くさせていた顔を青くさせる。

 だが、ここでそれを隠しては仕方がないので、ゼゼは青くさせた顔を羞恥で再び赤くさせてヴィオラに告白する。


「あ、あの……」

「はい、なんでしょうか?」

「そ、その……俺っち、恥ずかしながら経験がないので、一体どうしたらいいかわからないんです」

「そうですか……では、私がリードしますので、ゼゼ様はそれに従って下さい」


 そう言うと、ヴィオラは長いスカートをたくし上げ、その中に両手を入れる。


「…………すみませんが、少し準備をしますので向こうを向いていてもらえますか?」

「は、はひっ、失礼しました!」


 ゼゼは慌てて後ろを向くと、直立不動の姿勢になった。


「…………」


 後ろから聞こえる衣擦れの音に、ゼゼの心臓は持ち主の緊張を如実に表すように未だかつてないほど早鐘を打っていた。

 初めてが外で、しかも一世一代の作戦の真っ最中に行うなんて、他の仲間に知られたら殺されてしまうかもしれない。

 だが、今までずっと我慢し続けてきたのだ。これぐらいの役得があっても罰は当たるまいとゼゼは思う。

 だからこれから起こることの全ては、絶対に忘れないように心に刻みつけようと深く誓った。


「…………それでは、はじめますね」


 すると準備が整ったのか、ヴィオラの甘く囁くような声がゼゼの耳をくすぐった。


「お、俺っちはどうしたらいいんですか?」

「そうですね。とりあえず、私に全てを任せてそのまま立っていてください」

「は、はひぃ……」


 ゼゼが再び直立不動の姿勢を取ると、ヴィオラはゼゼの手を優しく取る。

 両手を取ったヴィオラはゼゼの手を後ろに組ませると、手拭いを取り出して拘束する。


「あ、あの……ヴィオラさん?」

「大丈夫です。心配なさらずに私に全てお任せください」


 そう言ってヴィオラはゼゼの耳にふぅ、と優しく息を吹きかける。


「は、はいぃぃぃ……」


 それだけでゼゼの鼻の下はだらしなく伸び、ヴィオラにされるがままになる。


 その後、ヴィオラはゼゼの足も縛り、さらには目も縛って視界を奪う。


「ほ、本当に大丈夫なんですか?」


 どう見ても尋常ではない状態に追い込まれ、ゼゼが慌てたように声を上げる。


「これが本当に俺っちが望んだことと繋がるんですか?」

「勿論です。ほら、こうして目を塞がれると、感覚が鋭敏になっていませんか?」


 ヴィオラが背中に指を這わせると、ゼゼはビクビクと全身を痙攣させる。


「はぁぁぁ、た、確かにこれは凄いかも……です」

「でしょう? 必ずや、絶頂に連れていってあげますから安心してください」

「は、はい……」


 ゼゼがカクカクと人形のように首を縦に振る間も、ヴィオラの指はゼゼの背骨に沿って真っすぐゆっくりと進む。

 そうして背骨の上を何往復かした後、


「ここは……ダメです」


 突如として声音を変えたヴィオラの声が聞こえた。


「えっ? な、何がダメなんですか?」


 ゼゼが質問するが、ヴィオラは答えない。


「後、たてるのもダメです」

「勃てるのもダメなんですか!?」

「そうです。横にするのとすんなりと入るのです」

「よ、横にするんですか!?」


 何だか話が噛み合っていないような気もするが、極度の緊張で殆ど声が届いていないゼゼはそんなことも気にならない。

 ヴィオラの指は背中の真ん中よりやや下まで下がったところで、そのまま右へスライドしていき、肋骨の下辺りを優しくつつく。


「狙うはここです」

「えっ、狙うって何を……」


 意味不明言葉に、ゼゼが大声で尋ねると同時に、


「あがっ!?」


 ゼゼは背中に焼けるような痛みが走るのを自覚する。

 何が起きたのか理解するより早く、


「ごぼぉっ!」


 次の衝撃が下から襲い掛かり、ゼゼは口から大量の血を吐く。

 同時に、ゼゼは背中を強く蹴られ、地面に無様に転がる。

 もしかして刺されたのか? そう自覚するより、ゼゼは自分が深刻な状況に陥っていることに気付く。


 苦しい。


 一刻も早く呼吸をして楽になりたい。


 そう思うのだが、どれだけ強く息を吸っても空気は肺には送り込まれず、逆に溢れ出る血で地上にいながら溺れていた。


「いや…………だぁ…………しに…………なぃ」


 自分が死の淵に立っていることを悟ったゼゼは、涙を流しながら必死に生きたいともがく。

 すると、目隠しがずれて視界が開けて自分の後ろに立つヴィオラの姿が見えた。


「――っ!?」


 その顔を見て、ゼゼは思わず息を飲む。

 恐らく自分を刺したであろうヴィオラは、笑みを浮かべていた。

 それも今まで見たこともない、醜く歪んだ狂気に満ちた笑みだったが、不覚にもゼゼはその笑顔を美しいと思った。


「…………」


 そして、この人に殺されるのなら本望かもしれない。そう思ってゼゼは息を引き取った。

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