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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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思わぬ提案

「うう……ナルベさんたち、無事に王女を誘拐できたのかな……」


 一方、迎賓館の外で待機するユリウスたちは、先程からゼゼが落ち着かない様子で何度も迎賓館の方をチラチラと伺っていた。


「なあ、お前の力で迎賓館の中の様子とかわからないのか?」

「わかるわけないだろう。それより気が散るから僕の視界に入るな」

「わ、悪かったよ。そんなに怒らなくていいだろ」


 厳しい口調で攻められたゼゼは、力無く肩を落として再び迎賓館の様子を伺うように路地の出口へと向かう。


「……さて、ここを凌げるかどうかだな」


 ゼゼが十分に離れたところで、ユリウスはごく小さな声で呟く。

 中の様子はわからない。ゼゼにはそう言ったが、ユリウスには中で起きていることをある程度把握していた。

 事前にナルベに迎賓館の中に入る時は、全ての扉を開けておくようにと指示しておいたので、右目の力で見る先を上空ではなく迎賓館の中にすればいいだけの話だった。

 ただ、迎賓館の中を見ている時は外の様子が見えなくなるので、ずっとナルベたちを追うことができないのは歯痒かった。


「しっかし、さっきから全然人が通らないな」


 つい先ほど怒られて意気消沈していたゼゼだったが、そんなことも忘れたようにユリウスに声をかけてくる。


「俺っちたちがここに来てから、人っ子一人見てないんだけど、貴族様って朝はそんなにも遅いものなのか?」

「さあな。ただ、この街の貴族たちは朝が弱いのかもしれないな」

「なるほど。だから早朝の襲撃なんかを計画したのか」

「そういうことだ。だが、朝早くから活動する変わり者がいないわけでもないから、こうして見張っているんだ」

「なるほどな。そういうことか」


 ユリウスの適当な嘘に、ゼゼは得心がいったかのように何度も頷く。

 陽が昇っても殆どの人が出て来ないのは、ファルコと会った時にユリウスが指示しておいたからなので、この街の人間が上の命令に忠実に従う人たちであれば、当面の間はここら辺りに人が来ることはないだろうとユリウスは考えていた。

 後は折を見てこちらも行動に移すだけなのだが、


(そのためには、こいつが邪魔だな)


 先ずはゼゼをどうにかする必要があった。

 裏門の前には山賊の一人が門番のように立っているので、少なくとも奴に見つからずにことに及ぶ必要があった。


 さて、どうしたものかと思考を巡らせていると、


「…………何かご用でしょうか?」


 ヴィオラの不機嫌な声が聞こえた。

 声に反応して顔を上げると、ゼゼがヴィオラと揉めているようだった。


「先ほどから私のお尻を何度も触るのは、何の意味があってでしょうか?」

「あっ、その……違うんです。その、暑くなってきたので、ヴィオラさん平気かなって」

「あなたに心配していただかなくても、私は何の問題もありませんが?」

「そ、そうですか? 何かあったら俺っち、何でもやってやりますよ」

「いえ、結構です……」


 その後も、ゼゼは何度冷たくあしらわれようとも、ヴィオラに話しかける。


(…………ふむ)


 その不毛なやり取りを見て、ユリウスの頭にある考えが浮かぶ。


(ヴィオラには計画の全てを伝えてあるからきっと伝わるはず……)


 そう考えたユリウスは「コホン」と一つ咳払いをしてヴィオラに話しかける。


「……ヴィオラ、ちょっといいかい?」

「はい、ユリウス。何でしょう」


 ゼゼを話す時とは対照的に、ヴィオラは明るい声音でユリウスに向き直る。


「何かご用ですか?」

「あ~、そのだな……」


 後ろでゼゼががっくりと肩を落としている様子が見えたので、ユリウスはそんなゼゼを指差しながら話を続ける。


「さっきからそいつがうろちょろして集中できなくて困っている。だから……」

「だから?」

「そいつが何をしたいのかわかっているのだろう? その願いを叶えてやれ」

「――っ!?」


 次の瞬間、ゼゼの背筋がピンと伸びるのが見えた。

 口の動きだけで「いいのか?」と聞いてくるゼゼに対し、鬱陶しそうに手を振りながらユリウスはヴィオラに命令する。


「ヴィオラ、僕の言いたいことはわかるよな?」

「…………わかりました。ユリウスがそう仰るのでしたら」


 ヴィオラはゆっくりと頷くと、機械のような動きでゼゼへと向き直る。


「ゼゼ様……それでは始めましょうか?」

「は、はひ!? で、ででででも、いいのですか?」

「いいも何も、それがユリウスの命令ですので」

「そ、そうですか……で、でもこんな外でなんて……」

「私は構いません。それとも、ゼゼ様の願いは違うものなんですか?」

「い、いいえ、違わないです。その……光栄です。はい」


 ゼゼは額に流れて来た汗を乱暴に拭うと、ゴクッと唾を飲み込んだ。

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