立ちはだかる者
こうして突入からわずか数分で、迎賓館の一階部分はナルベたちに制圧された。
エントランスに集まったナルベたちの周りには、必要以上に壊された多くの死体が転がり、むわっとする熱気と、思わず鼻を摘みたくなるような死の臭いに満ちていた。
「ヘヘッ、楽勝、楽勝!」
そんな中、周りの状況に気を止めることもなく、血糊が付いて切れ味が悪くなった自分の剣を捨て、代わりに殺した兵士の剣を手にして調子を確かめていた部下の一人が、ナルベに話しかける。
「お頭、この調子ならもう勝ったも同然だな」
「…………そう言いたい気持ちもわかるが、ここからはそう簡単にいかないだろうな」
「そうですかい。お頭もあのガキも少し慎重過ぎるんじゃないすか」
「お前が楽観的過ぎなんだよ。それより生き残っている奴はいないだろうな?」
「どうすかね。何せ空き部屋の方が多くて、隠れる場所は無数にあるので……」
「そうか……まあ、隠れている奴に後ろから襲われる可能性は低いだろうが、とりあえず武器は全て潰しておけ」
「「「「おう」」」」
ナルベの指示に、部下たちは兵士たちが使っていた武器を叩き折り、潰して使えなくしていく。
その間、ナルベは死角に潜んでいる者がいないかどうかを確かめ、まだ息がある者を確実に息の根を止めるため、遺体の一つ一つを入念に検分しながら歩く。
動かない死体を蹴り、踏みつぶし、時には斧の柄で小突きながら歩いていると、
「う…………助け…………」
エントランスの隅、折り重なるようにして倒れている死体の山。その内の一人が苦しそうに呻き声を上げながら手を伸ばしてくる。
まだ若い。屋敷で執事として働いていたであろうその青年には、腰から下がなく、傷口からとめどなく溢れてくる血と、体からはみ出ている腸が彼がもう助からないことを暗に示している。
「痛い…………痛いよ。おねが………………けて」
もうナルベが自分たちを襲った者であるかどうかの判断もつかないのか、青年はナルベの足に縋りつき、泣きながら助けを求めてくる。
「…………」
青年の願いを、無表情で見下ろしていたナルベは、
「…………わかった」
一言そう告げると、愛用の斧を青年の後頭部目掛けて振るって止めを刺す。
わざわざ止めを刺したことに理由なんてない。
ただの気まぐれ。その程度のことだった。
「ほほう、死に行く者に慈悲を与える山賊などいるものだな」
「……別に、万が一外へと逃げられでもしたらことだと思っただけだ」
上から振って来た声にナルベはぶっきらぼうに応えると、ゆっくりと声のした方へと振り返る。
「どうやらメインディッシュの登場のようだ」
そう言ってナルベが見やる先には、二つの影があった。
「やれやれ、まさか山賊如きにここまでやられるとはな」
「全く、殺された者の家族に、何と詫びればいいのかね?」
多くの部下たちを無残に殺されたにも拘わらず、全く動じた様子の無い老獪な戦士、この街の兵士たちを束ねる兵士長と副兵士長、スレイとジーマの父親の二人が悠然と立っていた。
「おっ、まだ獲物が残っていやがったのか」
すると、山賊の一人が新たな獲物を見つけたと勢いよく飛び出す。
「おい、ちょっと待て!」
「何を怯えているんですか。どうせこいつ等もたいしたことありやせんぜ!」
ナルベの忠告を無視して、大柄な男は勇猛果敢に兵士長たちに襲いかかる。
階段を駆け上った男は、刃が優に一メートルを超える斬馬刀と呼ばれる巨大な刀を、勢いよく回転させて遠心力を乗せ、さらに大きく飛び上がって体重を上乗せさせて斬りかかる。
「こいつを……喰らいやがれ!」
「おやおや、これは……」
突出してきた大柄な男に対し、副兵士長が前へ出て細身の槍を斜に構える。
斬馬刀と細身の槍。両者がぶつかれば、どうなるかなんて火を見るよりも明らかだと誰もが思った。
だが、
「ほっと」
副兵士長が槍を軽く振るうと、大柄な男の斬馬刀がまるで巨大な岩にでもぶつかったかのように振り下ろした勢いのまま弾かれる。
「それっ」
斬馬刀を弾き飛ばした副兵士長は、軽やかな動きで槍を突き出して大柄な男の喉を串刺しにして致命傷を負わせると、男の胸を蹴り飛ばして槍を抜くと同時に階段から落とす。
階段からゴロゴロと転がり落ちた男は、ビクビクッ、と何度か痙攣をした後、口から大量の血を吐いて絶命する。
「…………クソが、だから待てと言っただろうが」
驚愕に目を見開いて死んでいる男を見て、ナルベは歯噛みしながら階段の上の二人を睨む。
「さて、随分と調子に乗っていたようだが……」
「ここから先は誰一人として通れるとは思うなよ」
悠然と獲物を構える二人の戦士は、他の浮足立った兵士とは違い一部の隙もなく、彼等を排除しない限り、プリマヴェーラのいるであろう二階に行くことは出来なさそうだった。




