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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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些末な出来事

 二人の男の話は、ハッキリ言ってしまうと非常にくだらなかった。


 互いに懇意にしている女の子と仲良くできる店で、片方の男は一途に一人の女性だけを追い求めているのだが、もう一人はその日の気分によって女性をとっかえひっかえしているのだという。

 それらの行為に対し、どちらが正しいのかということを、ちらかが納得するまで話し合いたいというものだった。

 二人の話し合いはヒートアップし、周りが全く見えなくなってしまっているようだった。


「ええと、これってどうしたらいいんだ?」

「お、俺に聞かれても……」


 二人の兵士は、この状況をどう収めていいかわからず困惑していた。

 どちらかが暴言を吐いていたり、理不尽に暴力を振るっていたりしたらすぐにでも該当の人物をしょっ引くことができるのだが、二人はただ、互いの考えを主張しているだけに過ぎない。


「おい、早くそいつ等をどかしてくれよ」

「早くしないと開店時間になっちますだろ」


 すると、二人が揉めていることで、道を塞がれてしまっている商人たちから抗議の声が上がる。

 気が付けば商人たちの渋滞は、城門近くまで到達していた。


「は、早く何とかしないと……」


 事が思ったより重大になっていることに気付いた兵士たちは、一刻も早く事態を収束させて、荷車を動かしてもらおうと思い、いい争いを続ける男たちに話しかける。


「あ、あの……もうそろそろ……」

「おい、聞いてくれよ! こいつったら、俺のこと人間の屑だって言うんだ!」


 すると男の内の一人、気分次第で女性をとっかえひっかえすると宣言していた大男が兵士の前に跪いて腰に抱きついてくる。


「確かに見た目は悪いかもしれないが、こんなのあんまりじゃないかああぁぁぁっ!!」


 そう言うと、大男は顔の穴という穴から液体をまき散らしながら泣き出す。


「ひいいぃぃっ、そ、その……お、落ち着いて下さい」


 全身に刺青を入れた筋骨隆々の大男の泣く姿をみた兵士は、余りの恐怖と気味悪さに今すぐ全力で逃げ出したいと思うが、大男は腰にがっちりと絡みついて逃がしてくれない。

 ならばせめてと、同僚に助けを求めようとするが、


「なあ、聞いてくれよ。俺の贔屓にしている子、今度、勇気を出して食事に誘おうと思うんだけど、どうやったらいいかな?」

「えっと……ですね。誠実さを見せれば、格好なんてどうでもいいんじゃないかと……」

「えっ、そう? じゃあ、今度酒を奢るから誠実さの見本を見せてよ」


 もう一人の一途な大男に絡まれ、何やら四苦八苦していた。

 その後も大男たちの執拗な口撃に、兵士たちは慌てふためくばかりで、事態は一向に収束する気配を見せなかった。



 実は、このような兵士を巻き込んだ揉め事は、スワローの街の各地で同時に起きていた。

 そのどれもが、取るに足らない些細な事件。


 やれどちらが女にもてるだの。


 今日の晩御飯のメニューを何にするだの。


 家族に土産を買うのに何がいいだの。


 果ては、どちらがプリマヴェーラを尊敬しているかまで。


 どれもこれも絶対に歴史書には書かれない些末な揉め事だが、それが同時に、しかも全ての事件で兵士たちを巻き込んで起きていた。

 当然ながら、これは意図的に行われていることだった。

 王女誘拐作戦の第一段階は、陽動だった。

 プリマヴェーラがいる迎賓館は、要人警護がし易いようにと、城壁の至る所から見えるようになっており、特に最も近い北側の城壁では、迎賓館に近付こうとする者が手に取るようにわかるようになっていた。

 そこでユリウスは、山賊たちに商人や旅人の格好をさせて、城壁にいる兵士たちに気付かれるように騒がせた。

 これで実際に城壁の上から降ろすことができなくとも、多少の間、迎賓館から注意を逸らせればいいと考えていた。

 しかし、予想に反して城壁に上に配置されていた兵士の半数近くが、山賊の三文芝居に引っかかってくれたようだった。


「フッ、どうやらここの連中は思った以上に馬鹿だったようだな」


 右目の力を使いながら、ユリウスは兵士たちの動向を探り続ける。


「どうだ。上手くいったのか?」


 ナルベからの質問に、ユリウスは親指を立てながらニヤリと笑う。


「バッチリだ。これで十五分以上はここの監視が外れるはずだ」

「それじゃあ……」

「ああ、僕が指示を出すから、作戦を次の段階に進めるぞ」


 ユリウスはそう言うと、左目を手で覆って城壁の上で見張りを続けている兵士たちの動きに再び意識を移した。

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