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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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愛を語る者たち

「ふあああぁぁぁ~」


 スワローの街の城門の上で見張りをしていた兵士が、他に人が見ていないことをいいことに盛大な欠伸をする。


「おいおい、いくら何でも気を抜き過ぎじゃないかああぁぁぁんんっと?」


 いや、正確には一人だけ目撃者がいた。


「悪い、悪い。俺も人のことが言えた義理じゃないな」


 その人物は、最初に欠伸をした兵士に負けないくらいの大きな欠伸をすると、溢れてきた涙を拭いながら隣に立つ相棒に尋ねる。


「なあ、本当に来ると思うか?」

「来るって、例の山賊団か?」

「ああ、兵士長の話だと、プリマヴェーラ様の誘拐を企てているらしい」

「そりゃ、流石に無理だろう」


 兵士は絶対にあり得ないと大袈裟に手を振りながら嘆息する。


「だってよ。昨日の夜にプリマヴェーラ様が街に入ってから、兵士長と副兵士長がつきっきりで警備してるんだぜ。あの二人に守られたらもう無理だろう」

「ああ、無理だな。あの二人に勝つには最低でも紋章兵器が必要だ」

「俺は紋章兵器があっても勝てる気しないけどな」

「俺もだ」


 自分たちの上司の頼もしさを知っているからか、二人の兵士たちの間に、緊張感というものはない。

 それもそのはず。スレイとジーマの父親の二人は、かつてミグラテール王国に二振りの無双在りと謳われたほどの逸材で、王を守る近衛の隊長と副隊長を務めていた。

 結婚して子供ができてから一線を退いてスワローの街へとやって来たが、二人がいるというだけでこの街で悪さをしようというものは皆無で、見張りの兵士たちが着任してから小競り合い以外の揉め事は、一切起きていなかった。

 もしかしたら王女誘拐という計画は本当にあるのかもしれないが、今回も例に漏れず、何事も起きずに終わるだろう。彼等はそう考えていた。

 とにかく今は、何も起きないとわかっていても与えられた仕事だけはきっちりこなさなければという使命感から見張り作業に戻ろうとした。


 すると、


「おい……あれ、何だ?」


 一人の兵士が、城門前の広場の異変に気付く。

 声に反応して見てみれば、何やら屈強な男二人が向かい合って言い争っているようだった。

 男たちは全身が刺青だらけで、筋骨隆々の大男という風貌がかなりの強面だからなのか、それを取り巻くように見ている商人たちは怯え、大男たちが乗って来たであろう荷車をどけることもできず、広場は行商人たちによって渋滞しているようだった。


「おいおい下にいる連中は何をやっているんだ?」

「わからん、だが、このまま放っておいていいと思うか?」

「そりゃあ……」


 自分たちに与えられた任務は見張りなのだから、持ち場を離れることは決して褒められることではないだろう。

 だが同時に、上司からは何事も臨機応変に対応するようにとの命令も受けている。

 この場合、どちらの命令を遵守すべきか迷うところだが、最も退屈で、不人気極まりない見張りという仕事に辟易していた二人の判断は既に決まっていた。


「なあ、ここは臨機応変に対応する場面だよな?」

「そうだな。実際、下の商人たちは困っているわけだし……」


 二人は思い思いの言い訳を話すと、揃って頷いて城壁から下へと降りていった。



 そうして下に降りた二人の兵士が見たものは……


「見損なったぞ! お前がそんな考えの人間だったなんて!」

「何を言うか。愛に自由を求めることの何が悪いんだ!」


 衆人環視の前で、金切り声を上げながら言い争う強面の二人だった。


「男だったら目当ての女性は一人に絞るべきだ。お前の行為は男として最低だ!」

「俺が店でどの娘を選ぼうか俺の自由だろう。気分次第で相手を変えたって支払うものは払っているのだから、それは個人の自由だろ!」

「そんなの女性に失礼だろう! お前の考えは間違っている。あの人たちだって、きっとそう考えるはずだ」

「おおう、上等じゃねぇか。だったら聞いてみようじゃないか」


 そう言うと、男二人は揃って兵士たちの下へとやって来ると、


「「なあ、あんたたちはどう思う?」」

「ええっと……」

「どういうこと?」


 二人の男の会話の意味が全く訳の分からない兵士たちは、とりあえず二人から事情を聴くことにした。

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