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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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決行の時

 次にプリマヴェーラが街に現れるという情報が入って来たのは、スワローの街に最初に現れてから四日目のことだった。

 その間、山賊たちは王女誘拐の成功率を少しでも上げるために、これまでにないぐらい真面目に訓練に取り組み、士気は上々といったところだった。


 そして計画決行の日、男たちは朝一番でスワローの街へと行商人のふりをして赴き、それぞれの待機場所へと散っていった。


「……さて、後は奴等次第だな」


 自身の所定場所に辿り着いたナルベは「ふぅ」と大きく息を吐いて、目の前にそびえる建物を見上げる。

 ナルベの視線の先には、前日の夜に街に入ったプリマヴェーラが泊っているという街の北側にある迎賓館で、赤い煉瓦で造られた豪奢で巨大な屋敷だった。

 流石に表から堂々と乗り込むわけにはいかないので、ナルベは裏門に近い路地に待機していた。

 こちらは表に比べれば警備は手薄だが、屈強な体躯を持つ見張りの兵士が、兜は身につけていないもの、全身鎧フルプレートに大降りな剣を吊るした完全武装状態で待機しており、早朝で周囲には殆ど人がいないにも拘わらず、一切の油断を見せずに辺りを注意深く警戒していた。

 金で雇われて主をコロコロ変える傭兵とは違う、しっかりとした訓練を受けた正規兵の佇まいを見たナルベは、思わず身震いをする。


「…………おいおい、本当にあそこに突っ込むのか」

「フッ、どうした。震えているぞ?」


 そんなナルベの変化に、目敏く気付いたユリウスがからかうように言う。


「お前でも珍しく緊張するんだな」

「当たり前だろ。俺を聖人か何かと思っているのか」


 憮然としたナルベが睨みつける先には、いつもと変わらない不遜な態度を隠そうともしないユリウスがいた。

 ユリウスの後ろには、ユリウスとヴィオラ、ゼゼとナルベの部下二人が控え、王女誘拐の中核を担う部隊となっていた。

 正規兵の連中と比べ、明らかに頼りない自分の配下たちを見て、ナルベは不安そうにユリウスに尋ねる。


「なあ、本当にあの連中たちに勝つ術なんかあるのか?」

「ある。そのための用意を今、しているからそれが整い次第、作戦を決行するからそれまでに覚悟を決めておけ」

「……ったく、王子様は直接行かないから気楽なもんだな」

「そんなわけないだろう」


 ナルベの言葉を、ユリウスはきっぱりと否定する。


「僕はここにいながら全ての場所で起きている出来事を把握し、適切なタイミングで指示を出さなきゃいけないんだ。絶対に失敗が許されない作戦で、僕の判断一つで全てが水泡に帰す。そのプレッシャーがお前にわかるのか?」

「ああ……まあ、そうだな。悪かった。確かにお互いさま、だな」


 ユリウスの真剣な態度に、ナルベは思わず一歩身を引いて謝罪する。

 普段から何か裏がありそうであったが、ユリウスはユリウスで真剣にこの作戦に臨んでいることがわかり、ナルベは密かに安堵する。


「…………お頭、お待たせしました」


 するとそこへ、ユリウスの指示で別行動していた部下が三人やって来る。

 その内に二人はそれぞれ一抱えもありそうな布袋を持っており、どうやらその中身がユリウスの指示した物のようだった。


「指示されたものを用意して来ました」

「後は、お頭の指示で全てが動きだします」

「………………わかった」


 それを聞いたナルベは、覚悟を決めるように大きく深呼吸を一つすると、


「今から王女誘拐の作戦を決行すると連中に伝えてくれ」


 部下の一人に作戦の決行を指示する。

 それを聞いた部下は「わかりました」と言って、方々に散らばっている仲間たちに作戦の決行を伝えに行った。


「さあ、いよいよだ」


 ナルベは髪の毛の無い頭をぴしゃりと叩くと、自分を鼓舞するように犬歯を剥き出しにして獰猛に笑った。

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