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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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束の間の安らぎ

「…………以上が、王女誘拐の作戦だ」


 その日の夜、アジトに戻ったユリウスは、広場に集めた山賊たちにプリマヴェーラ誘拐の手筈を説明していた。


「そんな方法で……」

「そもそも俺たちにできるのか?」

「これ、失敗したら死ぬんじゃね?」


 ユリウスの作戦を聞いた山賊たちは、こぞって懐疑的な見解を示した。

 そして、こういった事態に彼等が判断を仰ぐのは、自分たちを取りまとめているリーダーだった。


「ふむ……」


 霧の山賊団の頭目、ナルベは夜になって伸びてきた髭を撫でながら自分の考えを口にする。


「……悪くない。それなら王女誘拐という目的を果たすのは不可能ではない……かもしれん」

「かも、じゃなくて絶対だ。僕が考えた作戦が今まで失敗したことあったか?」

「……別に王子様の個人的感想は聞いていない。それよりいくつか気になることがある」

「何だ。特別に聞いてやってもいいぞ」


 ユリウスの厚顔不遜な態度に、ナルベは「それはどうも」と苦笑しながら質問する。


「先ず何より、今回の作戦にどうして全員で参加する必要が……特にお前の女まで連れていくあるんだ?」

「決まっている。今回、失敗したら僕もお前もお終いだからだ。僅かな手勢が残ったところで何の意味もない。それに、ヴィオラはこう見えて戦闘の訓練は受けている。僕なんかより、いざという時には役に立つ」

「お褒めに預かり光栄です」


 ユリウスの後ろに控えるヴィオラが無表情のまま恭しく頭を下げる。

 そのまま数秒、頭を下げたヴィオラは再び直立不動の姿勢に移行すると、マリオネットのように虚空を見つめて佇む。


「そうか……」


 その様子を心底気味が悪そうに眺めながらナルベが続ける。


「次だ。お前の言う通りことが進んだとしても聖女を守るのは、この国で指折りの実力者の持ち主だと聞いている。そんな奴等相手にどう立ち回るつもりだ?」

「それについても、対策は考えてあるよ」

「本当か?」

「本当だよ。別に真正面からぶつかる必要はない。そのための策なら既にある」

「…………わかったよ。そこまで自信たっぷりに言うなら、俺も文句はない」

「だったら?」

「ああ、王子様の作戦に乗ってやるよ。ただし王子様、お前さんには最前線で俺と一緒に命を賭けてもらうからな」

「上等だ。お前こそ本番を前にして臆するなよ」

「……言うじゃねぇか。その言葉、忘れるなよ」

「…………」

「…………」


 ユリウスとナルベは至近距離で暫くの間、火花を散らしながら睨み合っていたが、


「いくぞ野郎共」

「帰ろうヴィオラ」


 同時に背中を向けると、互いの連れを率いてその場を後にした。



 山賊たちの目がある内は堂々とした足取りで歩いていたユリウスだったが、監禁場所でもある山小屋へと入った途端、


「………………はぁ」


 大きく溜息を吐いて力なくその場に座り込んだ。

 話に少しでも説得力を持たせるためにも先程まで見せた不遜な態度が必要な行為であることはわかっているのだが、ナルベをはじめとする強面の男たちの前でそのように振る舞って演説をするのは、神経も体力も非常に消耗させられた。


「だけど、やり切ってみせた」

「ユリウス、立派でしたよ」


 先に入って部屋の灯りを点けていたヴィオラが、コップに入った水をユリウスに手渡しながら静かな声で話す。


「これで全ての準備が整ったのですね」

「そうだよ。長く苦しいこの生活も、奴等全員の死をもって終わりだ。全員をこの手で殺せないのは残念だけど……」

「心配しなくても、手を汚すのは私一人で十分です。ユリウスは……」

「それはダメだよ!」


 ユリウスはヴィオラの手を握ると、彼女の目を真っ直ぐ見据えて話す。


「これまで散々、ヴィオラに辛い思いをさせてきたんだ。それなのに僕だけ手を汚さないのは卑怯だ。僕も、ヴィオラと同じ罪を背負わせてくれ」

「ユリウス……」

「さあ、それより早くご飯にしよう。正直、お腹ペコペコで倒れそうだ」

「わかりました。すぐに用意します」


 ヴィオラはこっくりと頷くと、夕食の準備をする。

 といっても、この小屋にあるのは、山賊が何処かの村から奪ってきたカビの生えた小さなパンと、山から摘んできた山菜などの野草だけだった。

 僅かな量しかないそれらを皿に盛り付けると、細やかな夕餉が始まる。


「あっ、そうだ。ちょっと待って」


 ユリウスはそう言うと、昼間に盗んだ物の中から自分の腹に巻いていたソーセージを取り出す。


「本当はもっといっぱいあったんだけど、これ以外は全部没収されちゃってさ。これだけは何とか隠し通せたから、これも食べよう」

「まあ、そんな貴重なたんぱく源、私にはもったいないです。それはユリウス一人で召し上がってください」

「ダメダメ、これはヴィオラのために用意したんだ」


 ユリウスは受け取るのを固辞しようとするヴィオラを無視して、ソーセージをヴィオラに多めに分けると、白い歯を見せて笑う。


「今度の作戦には、ヴィオラにも頑張ってもらう必要があるからね。足りないだろうけど、これで少しは力をつけてよ」

「ユリウス……」


 ヴィオラはユリウスを強く抱き締めると、感極まったように涙を流す。


「本当に私なんかのために……ありがとうございます」

「ヴィオラ、泣かないで。僕は君に笑ってほしくて怖い思いして盗んできたんだから」

「はい、ですが盗みは駄目です。もう二度と、そのようなことはしないでください」

「わかった。二度としないと約束するから一緒にご飯を食べよう」

「はい……ですが今は………………今だけは……」


 久方ぶりに感情らしい感情を見せたヴィオラは、大粒の涙を流しがら嗚咽を漏らし、やがて声を上げて泣き始めてしまった。

 その後、少し遅くなってしまった夕食は、少ししょっぱかったが、ここに来て一番美味しいと思える夕食だった。

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