守るべき者のための
ユリウスが立ち去った後、兵士長の執務室の隣の部屋にある貴賓室で、スワローの街の治安を任されているスレイの父親は、優雅にお茶を飲んでいるファルコに尋ねる。
「ファルコ様、まさかあの少年の話を信じるおつもりですか?」
「勿論、そのつもりだよ」
「……本気ですか?」
「だって彼の話を信じないデメリットなんかないだろう。言う通りにしたところで街の警備に支障が出るわけじゃない。むしろ、件の山賊団を一掃できる可能性があるわけだ」
「そ、それはそうですが……」
「まだ、納得いっていない様子だね」
困惑するスレイの父親を前に、ファルコは微笑を浮かべながら問う。
「逆に聞くけど、彼の話が嘘だという根拠はどこにあるんだい?」
「根拠は、所詮連中は山賊だということです」
「…………続けて」
「はい、確かに霧の山賊団と呼ばれる連中に手を焼いているのは事実です。ですが、奴等がプリマヴェーラ様の誘拐を企てるなんてあり得ません」
「それは、連中が山賊だから?」
「そうです。どれだけ罪を重ねようとも、連中は人が手薄な場所でしか行動しない卑怯共です。そんな連中がわざわざ山を下りて、我々が守護する街の中で一国の王女を攫うなんて恐れ多いことするはずがない」
「ふむ、なるほどね」
スレイの父親の考えに、ファルコは何度も頷く。
山賊とは元来、人の世でまともに生きていくことができない、所謂落ちこぼれ共が徒党を組んで犯罪行為に手を染める連中のことを指す。主な活動拠点を山間部としているから山賊と呼ばれ、海を縄張りにしている者は海賊と呼ばれる。
そんな連中が、街を守るためにきっちりと訓練し、日々備えている自分たちを相手に真っ向から挑むなんてあり得ないというスレイの父親の考えは十分納得できた。
「よし、わかった」
ファルコはパン、と手を打つと、勢いよく立ち上がる。
「この件は我々が独自に動くことにするよ」
「なっ!? あんな少年の戯言のために、わざわざ我が国の正規軍を動かすのですか?」
「なあにこの国は他と比べて随分と平和だからね。我々もたまには体を動かさないと腕が鈍ってしまいそうでさ」
まるで遠足にでも行くような気安さで「いいだろ?」と了承を求めてくるファルコに、スレイの父親は苦虫を嚙み潰したような顔を一瞬浮かべるが、すぐに気を取り直し、
「……この国の王子であるファルコ様がそう仰るのでしたら我々に異論はありません」
「それを聞いて安心したよ。それじゃあ、街の人たちへの指示の徹底をお願いするね」
「かしこまりました。お任せください」
最敬礼で応えると、部下との打ち合わせがあると断りを入れて貴賓室を後にした。
「やれやれ……」
貴賓室を後にしたスレイの父親は大きく溜息を吐いた。
「全くファルコ様も心配症ですね」
「おい、滅多なことを言うもんじゃない」
ファルコがいなくなった途端、軽口を叩き出すジーマの父親を、スレイの父親がきつく諫める。
「プリマヴェーラ様はファルコ様の大切な妹君なんだ。妹の配をしない兄なんていない。俺たちだってそうだろう?」
「そうだな。生意気なガキどもだが、命に代えても守りたいと思う気持ちは、俺たちもファルコ様も同じか。だったら俺たちがやるべきことは……」
「ああ、不測の事態に備えて、全力でプリマヴェーラ様をお守りするぞ」
そう言って父親たちは拳を合わせると、今後の仕事の打ち合わせをするために部下たちの待つ階下へと降りていった。




