銀色の青年
その後、ユリウスはスレイたちの案内で、詰所の二階にある兵士長の部屋へと案内された。
兵士長の部屋は、マホガニー材で造られた重厚な机に書類棚が並ぶだけの思ったより質素な部屋だったが、ユリウスが入って来た入口とは別に奥に続く扉があり、この部屋が徹底的に仕事に集中するための部屋で、もう一つの部屋にプライベートな空間が広がっているのかもしれなかった。
ユリウスはそこでスレイの父親である兵士長と、ジーマの父親の副兵士長に霧の山賊団の情報と今後の計画について話した。
一国の王女を攫うというとんでもない計画に、二人は一様に顔色を変えると思われたが、
「ふむぅ…………」
髭を蓄えた偉丈夫、スレイの父親が自慢の髭を撫でながら質問する。
「それで、君の話が本当だという証拠はあるのかね?」
「なっ、これだけの話を聞いて、僕が嘘を吐いていると!?」
全く予想していなかった反応に、ユリウスは困惑を隠せないでいた。
「王女の誘拐だぞ!? 君たち兵士は、街の平和の維持は勿論だが、これから起こる事件を未然に防ぐのも仕事ではないのか?」
「そりゃ勿論、大事な仕事だわな」
「だったら……」
「そういった話はこちとら日常茶飯事でね。君と同じような情報を持ってくる者が一日でどれくらいいると思う? 最低でも両手じゃ足りないくらいだ」
「そ、そんなに……」
霧の山賊団の情報を出せば、すぐさま話に乗ってくれると思っていたが、まさか自分のように霧の山賊団の情報を持ってくる人間がそんなにいるとは思わなかった。
愕然とするユリウスに、スレイの父親は一枚の羊皮紙を取り出してみせる。
「まあ、それも全てこんなものが出回ってしまっているからなんだがな」
出された羊皮紙には、霧の山賊団の情報を求めている、有力な情報にはそれに応じた情報料を支払うという旨が書かれていた。
「あの、別にお金が欲しいわけじゃなくて……」
「ああ、悪いけどここに描いてある情報料という話は嘘だから」
「嘘……」
「そうなんだよ。全く、誰のいたずらか知らないが、これのお蔭でこっちはいい迷惑なんだよ。それで、君の情報が正しいという証拠は何かあるのかね?」
「それは…………」
ある。というのは簡単だが、そう易々と答えられるものではなかった。
ユリウスが握っている霧の山賊団のとっておきの情報といえば、当然ながら彼等がねぐらにしているアジトだが、それではヴィオラを現状から救うことはできるかもしれないが、本来の目的である復讐の足掛かりとなるような組織に、紋章兵器を有しているような強力な組織に取り入るということが果たせない。
それでは今まで何のためにヴィオラに苦労を強いてきた意味がない。
ヴィオラに報いるためにも、霧の山賊団は是が非でも最大限に利用した後、惨たらしく葬り去ってやらなければならなかった。
(こいつ等が使えないなら、王女を誘拐してから別の策を考えるか)
少し予定は変わるが、実際に王女が誘拐されれば連中も動かざるを得ないだろう。
ユリウスは今後の方策を決めると、顔を上げる。
「どうだ。何か我々が納得するような証拠があるのかね?」
「…………いいえ、ありません」
ユリウスはかぶりを振ると、ゆっくりと席を立つ。
「僕に言えるのは、信じて下さいというだけです。それが叶わないのであれば、これ以上、何も言うことはありません」
「そ、そうか……」
突然、人が変わったかのようにあっさりと受け答えするユリウスに、スレイの父親は思わず気圧されるが、それでもすぐに気を取り直し、
「何か決定的な情報を掴んだら、また尋ねてくるといい」
「ええ、そうします」
ユリウスはスレイの父親に面会してくれた礼を言うと、部屋の隅に控えていたスレイたちに感謝の意を伝えて部屋を退出しようとする。
すると、
「ちょっと待った」
退出しようとするユリウスの背中に声をかける者がいた。
声に反応してユリウスが振り向くと、もう一つの部屋へと通じる扉に寄りかかるように立つ青年と目が合った。
端正な顔立ちに、何処かで見たようなサラサラのアッシュブロンドが特徴の青年は、白い歯を見せて爽やかに微笑むと、
「今の話、面白そうだからもう少し詳しく聞かせてくれないかな?」
「ファルコ様! 勝手に出て来られては困ります」
「固いこと言わないでよ。ほら、調度持ってきたお茶も入ったことだしさ。じっくり話を聞きたいから、彼にこっちに来てもらってよ。いいよね?」
そう言ってファルコと呼ばれた青年は、扉の奥へと消えて行く。
それを見たスレイの父親とジーマの父親の二人は、
「「はぁ~……」」
諦めたように揃って重い溜息を吐いた。




