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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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偽装と猜疑

 この広場にやって来る途中にあった狭い路地へと戻ったユリウスは、路地を横切るように干してある洗濯物の中からなるべく白に近い色のシーツを一枚と、吊してあるロープを拝借する。


 シーツを被ってシスターのふりをしてナルベの目をごまかそうというのだ、


 ただ、そのままシーツを被っただけでは違和感しかないが、ロープで腰をはじめとする要所を縛っておけば、それなりにシスターと見紛う姿に扮することができるだろう。

 近くで見られれば一瞬で紛い物であることがバレるだろうが、巡礼中のシスターには、むやみやたらに話しかけてはいけないというルールがあると聞いたことがあるので、決して分の悪い駆けではないはずとユリウスは考えていた。


 再び通りに戻ったユリウスは、仕掛けを施した店の様子を確かめた後、


「すぅ…………はぁ……」


 気持ちを落ち着ける為、大きく深呼吸を一つしてから通りへと躍り出る。

 通りに出た途端、この場にいる全員の視線が自分に集まったような錯覚に陥る。


(大丈夫、この格好なら問題ない……はずだ)


 ここで慌てたら余計に目立ってしまう。例え不審がられても、泰然とした態度を維持し続けることが大事だ。そう何度も自分に言い聞かせながらユリウスはゆっくりとした足取りで歩き続ける。

 胸の前で手を合わせ、敬虔な使徒を演じながら歩くユリウスを街の人はシスターと思ってくれたのか、幸いにも誰も声をかけて来ない。

 ローブ越しに紋章兵器マグナ・スレストを使ってちらとナルベの方を見てみたが、ナルベは相変わらず顔を伏せたまま立っており、特にこちらを怪しんでいる様子はなかった。


(ここまでは読み通り、後は……)


 ユリウスは作戦の成功を確信し、ほっと一息吐こうとすると、


「なあなあ、あいつの格好、何かおかしくないか?」

「え~、何処が?」

「ほら、シスターの格好ってあんなみすぼらしかったっけ?」

「――っ!?」


 自分のすぐ真後ろから聞こえた声に、ユリウスは口から心臓が飛び出すかと思った。

 まさか、バレたのか? そう思っておそるおそる後ろを伺うと、


「なあ、お前、本当に巡礼中のシスターか?」


 同い年の平均身長より低いユリウスよりさらに低い、どう見ても齢十にも満たない二人組の童子がユリウスを見上げていた。

 その内の一人、トゲトゲした髪と同じように攻撃的な目をした少年がユリウスの着ているシーツを遠慮なく引っ張る。


「見てみろよ、ジーマ。このローブ。まるで、ウチの家のベッドシーツみたいだぜ」

「ちょっと、スレイ。巡礼中のシスターに話しかけたら駄目だって」

「シスターならな。でも、俺の勘がこいつは怪しいって言ってるぜ」

「だから、駄目だって」


 もう一人のおとなしそうなジーマと呼ばれた少年が、ローブを引っ張る少年、スレイをどうにかひっぺ剥がすと、ユリウスに向かって謝罪する。


「本当にすみません。もう邪魔はしませんから……」

「…………」


 謝罪するジーマに対し、内心では殴ってやりたいと思うユリウスだったが、そこは大人になって気にしていないと片手を上げる。


「あ、ありがとうございます。ほら、もう行くよ」


 ユリウスの態度に、ジーマは何度も頭を下げて謝罪をすると、不満そうなスレイを連れて去っていく。


(…………クソガキどもが!)


 平静を装いながらも、ユリウスは動揺を隠せないでいた。

 先程の一件で、周囲の注目を浴びてしまったばかりか、これまでこちらに興味を示さなかったナルベが、こちらに顔を向けていることがわかったからだ。

 まだ動き出す気配はないが、万が一被っているローブを剥ぎ取られでもしたらナルベはすぐにでも動き出すだろう。

 残念ながらユリウスの体力では、どう足掻いてもナルベには敵わない。

 そうなったら何処へ逃げても無駄なので、おとなしく捕まり、聖女誘拐を成功させてそこから別の手を考えるべきだろうか。


(駄目だ。そうなったら、僕はもう奴等の手駒から永遠に抜け出せない)


 今回は最初で最後のチャンスなのだ。次なんて考える暇があったら、どんな手を使ってでもナルベに見つかることなく詰所に駆け込むのだ。

 その為の算段は、もう既につけてある。

 ユリウスの目算通りなら、そろそろ仕掛けが発動するはずだった。

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