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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
20/169

機宜

(あれが……聖女の力か)


 プリマヴェーラの力を見たユリウスは、これぞ紋章兵器マグナ・スレストという奇跡の力に興奮を隠せないでいた。

 足を怪我した母と子以降も、骨折は勿論、切り傷、打ち身などの外傷は勿論、病気からくる体調不良から原因不明の病まで、指輪の力を使って次々と治していった。


 ただ、


「…………ふぅ」

「姫様……そろそろ」


 二十人ほど治療したところで、大きく息を吐いたプリマヴェーラに控えていた侍従たちが待ったをかける。


「大丈夫です。まだやれます」

「いいえ、姫様はいつもそうやって無理をなされる。いいですか……」


 そう言うと、侍従は人目も憚らず何やら説教を始める。

 だが、それを聞くプリマヴェーラは苦しそうに深呼吸を繰り返し、顔色は血の気がなく、元々が色白なこともあってこのまま消えてしまうのでは? と錯覚してしまいそうなほど儚げだった。


 どうやらプリマヴェーラの持つ紋章兵器は、力は強力だがその分払うべき代償も安くないようだった。


(だが、あの力があれば……)


 自分の故郷を奪った奴等に復讐する大きな戦力なることは間違いなかった。

 ユリウスはプリマヴェーラの力を、自分の復讐にどのように使うのが一番効果的かを真剣に考え始めた。


 その後、舞台上で暫しの問答の後、


「申し訳ございませんでした」


 上から聞こえた声にユリウスが顔を上げると、申し訳なさそうに頭を下げるプリマヴェーラの姿があった。


「本日の治療はここまでにさせて下さい。近いうちに必ず同じ場を設けますので、本日治療できなかった人は、決して希望を捨てないでください」


 そう言って再び謝罪の言葉を口にするプリマヴェーラだったが、そんな彼女に不満の声を上げる者などいるはずがなかった。


「聖女様、今日は来てくださってありがとうございます」

「聖女様のお蔭で元気が出ました」

「また、我々の街に遊びに来てください」


 舞台を後にしようとするプリマヴェーラに、街の人たちから次々と感謝の言葉が飛ぶ。

 声をかけてくる一人一人に対し、丁寧に頭を下げて対応するプリマヴェーラを見て、周りの人たちが自分もせめて一言伝えたい、とプリマヴェーラに近付こうと人の波が動き出すのを見て、


(動くならここか……)


 ユリウスもゆっくりと動き出す。

 プリマヴェーラに近付こうとする波に揉まれ、もみくちゃにされながらゼゼが叫ぶ。


「お、おい、俺っちから離れるなよ!」

「無理……を言うな…………よ!」


 そう言いながら、ユリウスは自分の細い体を目の前の人と人の間にある僅かな隙間にねじ込むように入れる。

 すると、ユリウスの体は間にすっぽりと納まるだけでなく、人の波に押されるようにさらに前へと進み、ゼゼとの間に距離が空く。


「あっ、おい!」


 後ろからゼゼの焦ったような声が聞こえるが、ユリウスは無視して同じ要領でゼゼとの間に距離を作る。

 そうして十分に距離を稼ぎ、ゼゼの視界から消えることに成功した後は簡単だった。

 ゼゼから見えないように姿勢を低くし、次々と人と人の間に出来た隙間を抜けて前へと進んだ。


 そのまま通りの反対側まで移動したユリウスは、細い路地へと入って近くにあった木箱に身を隠す。

 そして左目の紋章兵器を発動させると、木箱越しに今も興奮冷めやらぬ人の波を見やる。

 すると、人ごみの中に一人だけ赤黒く光る人影がぼうっ、と浮かびあがる。

 その人影こそ言うまでもなくゼゼだった。

 ゼゼは人ごみを強引に掻き分けて進もうとしているようだが、それに反発する人と衝突し、思うように進めなくなっているようだった。


「馬鹿め。そうやっていつまでも手間取っているがいいさ」


 ユリウスは唇の端を吊り上げてほくそ笑むと、スワローの街の詰所目指して走りだした。

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