聖女
余りの人の多さに聖女が見える位置まで行くのは絶対に不可能。そう思われたが、ユリウスの姿を見た人たちが子供だからなのか、それともやせ細った貧相な体を見て可哀想と思ったからなのか、意外にも誰もがすんなりと道を譲ってくれた。
そうして人に道を譲ってもらった結果、舞台の全容が見える位置まで来ることができた。
聖女をこの目で見られるようになったのは嬉しい誤算でもあったが、同時に後からついてくるゼゼを上手く撒くことができなかったは痛かった。
(まあいい、これだけ人がいれば機会はいくらでもあるはずだ)
過ぎたことを悔いても仕方がない。ユリウスは気を取り直すと、人ごみに揉まれながら聖女が姿を現すのをおとなしく待った。
すると、ほどなくして、
「来たぞ。プリマヴェーラ様だ!」
「聖女様だわ!」
「おお、本当に来てくださった」
舞台の後ろにある噴水の向こう側がにわかに騒がしくなる。
どうやら噂の聖女様が登場したらしい。
ユリウスが立っている場所からではまだ見えないが、聖女がいると思われる場所は、聖女に道を譲ろうという人の波が二つに分かれているので、わざわざ紋章兵器を使わなくても一目瞭然だった。
待つこと数分、人の波を掻き分けて噂の聖女が姿を見せ、舞台へと上がる。
何よりも目を引くのは、太陽の光を受けてキラキラと光る腰まで届く長いアッシュブロンドの髪で、神官が着るような純白のローブと相まって神々しさを備えていた。
顔立ちは幼く、まだ少女といっても差し支えないが目鼻立ちは整っていて、後、三年もしたら世の男どもが放っておかない美人になることが伺えた。透き通る肌は白磁のように美しく、ようやく発育を見せ始めた薄い胸と併せて触れただけで壊れてしまうような儚さがあった。
見目麗しい聖女だが、残念ながらスタイルに関してはゼゼの予想は大分はずれていたな。ユリウスはゼゼが聖女に対してどのような評価を下したかを思って横を見ると、
「……………………いい」
頬を染め、完全に聖女に心を奪われている様子のゼゼがいた。
(…………やれやれ)
結局、女だったら何でもいいんじゃないのか? そう思うユリウスだったが、ここで無駄な議論をする気は毛頭ないので、隣の馬鹿は放っておくことにした。
そうこうしているうちに舞台に上がった聖女は、舞台の中央まで進むとローブの裾を持ち上げて優雅に一礼する。
「皆様こんにちは。私はプリマヴェーラ・ユースティアです」
聖女、プリマヴェーラが挨拶をすると、あちこちから歓声が上がる。
その歓声にプリマヴェーラは笑顔で手を振って応える。
すると、舞台の袖から色とりどりの花束を抱えた少女が二人やって来て、プリマヴェーラに花束を手渡す。
「あら、わたくしに? ありがとう。とてもきれいな花ね」
花束を受け取ったプリマヴェーラが少女たちの頭を優しく撫でると、一際大きな歓声が辺りを包んだ。
(あれが……聖女、か)
街の人から盛大な歓迎を受けるプリマヴェーラを見て、ユリウスは自分がまだ幼い頃、イデアに連れられて城下町へと出かけた時のことを思い出していた。
イデアも今のプリマヴェーラと同じように街の人から笑顔で迎えられ、歩くだけで様々な贈り物をくれたものだった。
そんな姉の姿をユリウスは誇らしく思い、自分も民から慕われるような立派な王になろうと思っていた。
だが、思い描いていた未来は永遠にやって来ない。
イデアはもう、あの少女のように笑うことは二度とないのだ。
(…………クソッ、今は感傷に浸っている場合じゃないだろう!)
ユリウスは思わず流れそうになった涙を乱暴に拭うと、再び舞台へと目を向けた。




