約束
それからユリウスは街の至る所で紋章兵器を使い、この街を守る兵士たちの動きを把握していった。
「……まあ、こんなものだろう」
この街の見張りのローテーションは大体把握できた。ユリウスは小さく頷くと、飽きてきたのか、退屈そうに盛大なあくびをしているゼゼに話しかける。
「おい…………偵察作業は大方完了したぞ」
「おっ、ということは次は……」
「次は聖女様とやらを見に行くぞ」
「へへっ、待ってました」
先程まで完全にやる気を失っていたのに、聖女様という単語を聞いただけでゼゼはやる気を見せる。
「やっぱ、聖女様って言うぐらいだから、とんでもない美女なんだろうな……きっとバインバインの全てを包み込んでくれる人なんだろうな……」
まだ見ぬ聖女にどんな想いを馳せているのか、ゼゼの鼻の下をだらしなく伸ばしながら自分の胸で聖女の胸を再現している。
「しかも、聖女様はこの国の王女様ときたもんだ。そいつを俺っちたちのものにして、汚せると思うと今から興奮しないか?」
「…………興味ないな」
下卑た笑みを浮かべるゼゼに、ユリウスは嫌悪感を隠すことなく表に出し、一歩距離を開ける。
ハッキリ言って、聖女の顔やスタイルなんてどうでもよかったが、少なくとも今のゼゼと同類とだけは思われたくなかった。
それに聖女がいるという会場。おそらくそここそが、ユリウスがゼゼを撒くことができる場所であるはずだから。
聖女が現れるという会場は、スワローの街の中心地に造られた噴水を中心とした小さな村なら丸ごとすっぽり収まってしまうのではないかという大きさの広場だった。
「うおっ、なんじゃこりゃ!?」
広場へと続く大通りへと出た途端、ゼゼが驚いたように声を上げる。
「おいおい、この場所にこの国の人間、全て集まっているんじゃねえか……」
「そんなわけ……」
ないだろう。と思うユリウスだったが、ゼゼがそういった意味もわかなくなかった。
広場を埋め尽くす人、人、人……この街に入った時に人の多さに圧倒されたが、今この場にいる人はその比ではなかった。
ここにいる誰もが聖女を一目見たさに集まった。その事実だけでも聖女がいかに民たちに慕われているかを伺えるし、それだけの奇跡を起こせる力があるのだろう。
さて、聖女が持つ紋章兵器。噂ではどんな傷でも病でもたちどころに治してしまうということだが、その真偽を確かめるためには聖女の力を間近で見る必要があった。
「……さて、行くか」
「行くって……本気か?」
今すぐ出て行こうとするユリウスに、ゼゼがユリウスの服の裾を引っ張って待ったをかける。
「お前、まさかとは思うが、人ごみに紛れて行方をくらまそうとか思ってないよな?」
「……はっ? 何を言っているんだ」
ゼゼの言葉に一瞬、心臓が跳ね上がるかと思うユリウスだったが、どうにか顔に出さずに言葉を続ける。
「そんなに僕が信用出来ないのなら、はぐれた時にどうするか事前に決めておけばいい」
「そうか……そうだな」
「心配するな。ヴィオラがいる限り、僕は一人で逃げたりしない。万が一はぐれた場合も、三時の鐘が鳴るまでには、必ず全ての作業を終えて街の出口に行くと約束しよう」
「………………わかった。だが約束が破られた時はただではおかないからな」
「わかってる」
ユリウスは深く頷くと「行くぞ」と言って人が溢れている大通りに突撃していった。




