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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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ここから二人で

 玉座の間に辿り着いたユリウスを待っていたのは、裁判の時とはまた違う奇異の眼差しの嵐だった。


 この場に集まったのは、裁判の時にいた貴族たちもいたが、それ以上に女性を中心とした普段は政や荒事には参加しないものの、場を華やかにすることが得意な者たちが多数集まり、聖女であるプリマヴェーラの心を射止めたユリウスのことを色眼鏡で見ていた。

 まだプリマヴェーラの姿は玉座の間にはない。彼女は儀式の準備を整えた後で、父親であるミグラテール王と一緒に登場する予定だった。

 その間、ユリウスはすぐ傍に護衛としてセシルたちが付いていてくれるものの、年頃の娘たちの視線の中、何とも居心地の悪い想いを抱えたまま立っていなければならなかった。



(………………この地獄は何時まで続くのだ)


 ここで待つように言われてから既に十分以上の時間が経つ。

 後どれぐらいこの拷問に耐えなければならないのかと、ユリウスが思わず溜息を吐きそうになった時、


「見て、プリマヴェーラ様よ!」


 入口の方がにわかに騒がしくなり、全員の視線が一斉にそちらへと向く。


(やれやれ、ようやく来たか……)


 ようやく地獄のような状況から脱することができる。そう思いながらユリウスが振り向く。


 そこには純白のウェディングドレスに身を包んだプリマヴェーラがいた。


 プリマヴェーラが身に纏うウェディングドレスは、一目見ただけで職人の精巧な技術が詰め込まれた一品と分かる代物だった。

 細やかな刺繡が施されたレースを何重にも重ねて造られたスカート部分は、一歩足を踏み出す度にまるで重さを感じさせないように自由に形を変えるが、決して彼女の素足を晒すような醜態を見せない。

 胸元は大きく開いた大胆なデザインとなっているが、決してスタイルが豊かではないプリマヴェーラが着ると、雪のように透き通る白い肌と相まって扇情的というより、幻想的な魅力を引き出していた。

 窓から差し込む光を受けてキラキラと輝くアッシュブロンドの髪は綺麗に結い上げられ、頭頂部には眩い宝石が散りばめられたティアラが乗っていた。

 まるで吟遊詩人の詩に出てくる妖精や精霊かと紛うほどの美しさのプリマヴェーラの姿に、集まった人々感嘆の溜息を洩らし、彼女を支えるように立つミグラテール王は、感極まったかのように既に滂沱の涙を流していた。


「…………」


 そんなプリマヴェーラを、ユリウスもまた、呆けたように見ていた。




 しずしずとミグラテール王に手を引かれて歩くプリマヴェーラは、ユリウスのすぐ前までやって来ると、大きく開いた胸元を見せつけるように前屈みにになってニンマリと笑う。


「ユリウス様、どうしました? もしかして、わたくしの美しさに見惚れてしまいましたか?」

「ああ、そうだな……」


 ユリウスは顔を背けると、気恥ずかしさを隠すようにポリポリと頬をかきながら素直に答える。


「その……余りに綺麗だったから…………心を奪われてしまった」

「そ、そうですか……そんなに素直に言われると……照れてしまいます」


 ユリウスの素直な感想に、プリマヴェーラは真っ赤になった顔を両手で包み込む。


「……てっきり、馬子にも衣裳とか言われると思っていたので、嬉しいです」

「別に僕は…………綺麗に思ったものは素直に綺麗と言えるぐらいには素直だと思っている」

「フフッ、そうでしたわね」


 プリマヴェーラは口元に手を当てて上品に笑うと、未だに泣き続けて未練がましく手を離そうとしないミグラテール王の手を振り払い、ユリウスの腕に自分の腕を絡める。

 その素っ気なさ過ぎる態度に、流石のユリウスも可哀そうに思い、念の為に確認する。


「その……いいのか? 一応、君の父親だぞ?」

「いいんですよ。別に今生の別れというわけではありませんから。それより皆様がお待ちですよ。早く儀式を済ましてしまいましょう」

「あ、ああ……」


 プリマヴェーラに強引に引っ張られる形でユリウスは玉座の間の中央へと向かう。

 途中、後ろからミグラテール王のすすり泣くような声が聞こえたが、相変わらずプリマヴェーラの手を引く力が強く、さらには周囲の期待に満ちた視線に抗うことは難しかったので、諦めて前へと進んだ。




 プリマヴェーラと二人、並んで玉座の前まで進み出ると、そこにはミグラテール王妃と、法衣に身を包んだ神官が立っていた。


 ユリウスたたちは足並み揃えてミグラテール王妃の近くまで移動すると、ユリウスだけ前へ進み出て跪いて頭を垂れる。

 それを見たミグラテール王妃は、神官から一振りの抜身の剣を受け取り、ユリウスの肩を軽く叩く。続いてファルコが遺した指輪を受け取ると、ユリウスの右手薬指に指輪を嵌める。

 この儀式は、ユリウスがプリマヴェーラの夫となるに相応しい地位を与えるものだった。

 本来ならミグラテール王がユリウスへ儀式を行うのが慣例なのだが、ミグラテール王がどうしてもプリマヴェーラのエスコート役をやりたいと言って聞かなかったので、代わりにミグラテール王妃がその役目を買って出たのだった。

 一連の儀式によってユリウスは騎士として貴族と同等の地位になり、さらには王家の指輪を継承して王族に身を連ねる者となり、名実ともにプリマヴェーラの伴侶として相応しい立場となった。


「フフッ……」


 再び王族としての地位を取り戻したユリウスを見て、ミグラテール王妃が嬉しそうに双眸を細める。


「ユリウス君。あなた、いい顔になったわね」

「そう……ですか?」

「ええ、野望に満ちた顔、とでも言えばいいのかしら? その指輪は、あなたの理想を叶えることができるのかしら?」

「…………いえ、まだまだですよ」

「そう、なら精進なさいな」


 ミグラテール王妃はユリウスの腹の中までは探ろうとはせず、穏やかな笑みを浮かべて娘が伴侶として選んだ者の行く末を見守ることにした。




 ユリウスの叙勲が終わると、ミグラテール王妃は後ろに退き、入れ替わりで神官が前へと出てくる。


「……それでは、これから婚礼の義を執り行う」


 その言葉に、これまで静観して儀式を見守っていた人たちが一斉に沸き立つ。


「プリマヴェーラ様、おめでとうございます」

「姫様、おめでとう」

「おい、姫様を泣かしたらタダじゃおかないからな!」


 主にプリマヴェーラに対する祝福の嵐の中、ユリウスたちは神官の前に並んで立つ。

 二人が定位置についたのを確認した神官は「コホン」と咳払いを一つすると、婚礼の儀を執り行う前口上を唱え始める。


「…………ユリウス様」


 神官が話し始めて少しして、早々に飽きた様子のプリマヴェーラが小声で話しかけてくる。


 結婚という女性にとっては一生に一度の大事な儀式にも拘らず、全く大事にしていない様子のプリマヴェーラに、ユリウスは呆れながらも彼女の言葉に耳を傾ける。


「お母様から何か言われたのですか?」

「……野望に満ちた顔をしていると言われた」

「ああ、確かに今のユリウス様、お顔が昨日より精悍になりましたものね」

「……そんなに変わったのか?」

「ええ、とってもカッコいいです」


 頬を赤く染めたプリマヴェーラに言われ、ユリウスはそんなに変わったのかと眉を顰める。

 といっても、流石にこの場から離れて姿見を確認しに行くわけにはいかないので、今日の夜にでも確認してみようと思った。


「さて、それでは誓いの言葉を……」


 そうこうしている間にも神官の言葉は続き、クライマックスとなる誓いの言葉が始まる。


「それでは新郎新婦の二人に問う……」


 神聖な儀式の最中に、新郎新婦の二人が自分の話に全く耳を貸していないことに気付きながらも、神官は決して怒りを露わにすることなく穏やかに問いかける。


「あなたたちは幸せな時も、困難な時も、病める時も、健やかなる時も、死が二人を分かつまで愛し、慈しみ、互いに貞操を守ることをここに誓いますか?」

「「誓います」」


 その問いに、手を繋いだユリウスとプリマヴェーラは、声を揃えて淀みなく答える。


「いいでしょう」


 素直な回答に神官は満足そうに頷くと、二人の新たな門出を祝う。


「この瞬間に、この二人を夫婦として認めます。では、お二方……誓いのキスを」


 神官に促されたユリウスは、ゆっくりとプリマヴェーラに向き直る。


「……フフッ、ドキドキしますね」


 照れを隠すためなのか、悪戯そうに笑うプリマヴェーラに、ユリウスは彼女の両肩を掴むと、同じように赤面した顔でぶっきらぼうに告げる。


「全くだ。だからとっとと終わらせるぞ」

「ええ、よしなに……」


 了承を得たユリウスは頷くと、プリマヴェーラの細い肩を引き寄せると、目を閉じている彼女の唇に自分の唇を静かに重ねた。




 大勢に祝福された婚礼の儀が終わった後は、城のテラスでミグラテール王国民に新たな夫婦となったユリウスたちを披露する時間が取られた。

 テラスへと続く廊下で待機を命じられたユリウスは、向こう側から聞こえてくるミグラテール王の挨拶を耳にしながら嘆息する。


「……やれやれ、これで最後か」

「流石に疲れましたね」


 夫婦と認められるためだけに、これだけ長時間も拘束されるものなのかと思うが、それでもプリマヴェーラの顔には、まだこの状況を楽しんでいる節があった。


「ユリウス様、これからですね」

「何がだ?」

「ユリウス様の光の王子としての新たな人生です」

「ああ……」


 ユリウスは今、ミグラテール王によってファルコの跡を継ぎ、皆が笑って過ごせる世の中を創るために、妻であるプリマヴェーラと共に戦っていく旨の説明を行っている。


「今度はわたくしと同じように二面性を上手く使わないといけませんよ」

「面倒くさいな」

「フフッ、そう言うと思っていました。ですが、その辺はお任せください。わたくしがこれから丁寧に教えて差し上げますわ」

「……そうだな、頼む」

「ええ、頼まれました」


 プリマヴェーラが笑顔で頷くと同時に、ユリウスたちを呼ぶ声が聞こえる。

 その声にユリウスは頷くと、プリマヴェーラへと手を差し出す。


「さて、それじゃあ行くか」

「ええ、ユリウス様の復讐を果たすために」

「それと、この世を絶望と悲しみで満たすために、だな」


 二人は互いの誓いを確かめ合うと、手を繋ぎ、何も知らない無垢な国民たちが待つテラスへと並んで歩み出る。

 次の瞬間、外から割れんばかりの喝采の声が響き渡った。



 二人が織り成す世界の変革は、ここから始まる。

ここまで読んできただきありがとうございます。柏木サトシです。


何とか完結まで辿り着くことができました。これも全て、読んで下さる皆さんがいるお蔭です。

ここで終わり?と思う方もいると思いますが、これは所謂、第一部完というやつです。

このグローリークレスト。私の構想では三部作を予定しており、この第一部では、主人公であるユリウスが主人公気質のファルコとの出会いで成長し、真の主人公となる物語でした。

第二部では新たな仲間と領土が増えていき、第三部で完結という流れの予定です。

一応、今作で立てたフラグの回収方法と、ラストバトル、エピローグについては既に決定しているのですが、それに至るまでの道程が本当に薄くしか決まっていないので、ここで一区切りをつけて時間を頂きたく思います。

いつになるかは未定ですが少しずつ書き溜めていき、ある程度形になりましたら、この作品の完結済みを解除して続きとして発表させていただきます。


さて、次作ですが……実は既にそこそこ書いておりまして、私のプロデビューのきっかけにもなりました異世界召喚をテーマに書いています。

今作は三日に一度の更新を目標としていた為、話を煮詰める作業が未熟だったという反省点がありましたので、そこを改善してより読みやすい作品をお届けしたいと思います。

作品をお届けする際は、まだ使い方をよくわかっていないTwitterでお知らせしたいと思っていますので、よろしかったお付き合いください。


改めまして、ここまで読んでいただきありがとうございました。

これからも皆様の余暇を少しでも潤せる作品作りを目標に頑張りたいと思いますので、応援よろしくお願い致します。

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